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171 気分よく出た店に忘れ物して戻るってちょっと恥ずかしいよね

 冒険者ギルドから出たナターシャ・斬鬼丸・リズールの三名。

 ナターシャは元気よく城門に向かって進み始めたが、ふとリズールが冒険者登録していない事を思い出して立ち止まった。


「……あ! そう言えばリズールってギルドに登録してなかったよね?」


「そう言えばそうでありますな」


 後ろに続いていた斬鬼丸も思い出したように肯定。

 この精霊考える事を放棄していないか?

 くるんと後ろを向いたナターシャは、お供二人に向かって提案する。


「じゃあ一旦ギルドに戻ろっか。二度手間になっちゃうけど」


「承知」

『ふむ……』


 斬鬼丸は頷き、青髪メイドのリズールは少し考えてから返答した。


『……そう、ですね。この身体は一度消して外で再生成すれば良いと考えていましたが、もう少し大事に使ってみようと思います』


「……う、うん! それが良いよリズール!」


 肉体という檻に囚われないのも程々にしようね?



 ◇◆◇



 リズールはギルドカウンターで冒険者登録を終え、銅のドックタグと厚紙のカードを受け取った。

 カードの名前は順当に【リズール・アージェント】。

 下手に偽名を使うと混乱するからね。俺が。


 リズールがポケットにカード類を収納するのをその場で待った後、ナターシャは率先して宣言した。


「じゃあ今度こそ森にしゅっぱーつ!」


「御意!」

『はい』


 お供の二人も各々らしい返事を返した時、ギルドに一組の男女が入場。

 その片割れ、女性の方がナターシャを見つけて声に出す。


『あっ! ナターシャちゃーん!』


「ん?」


 ナターシャが振り向いた先に居たのは、綺麗な茶髪を後ろに編み込んだ女性聖職者(ヒーラー)


「……あ! アウラさんおはよー!」


 アウラが元気よく手を振っていた。

 その隣に居るのは銀等級冒険者の弓兵、レンジャースキル持ちのカレーズだ。

 最初こそアウラの行動に困って頭を掻いていたが、ナターシャの近くに居るリズールを見て心機一転。

 とても凛々しい態度と表情でナターシャに近付いて、朝の挨拶をする。


「おはようございますユリスタシア・ナターシャさん。スタッツ国までの護衛を請け負った冒険者が一人、シルバーランク冒険者のサマスリア・カレーズです。今日はどういったご用件で冒険者ギルドに居られるのですか?」


「ぇっ……?」


 中々の早口で繰り出される言葉で『もしや俺、口説かれるの?』とたじろいだナターシャ。

 それを見た斬鬼丸が警戒心を露わにし、主に代わって返答。


「……当方の用事は個人的な物。まずは貴公の要件を正直に話されよ」


「ソチラに居られる従者様のお名前を聞きたいのですが宜しいでしょうか」


『まぁ』

「余りにも正直過ぎるであります……」


 ノータイムな上にとても真剣な表情で聞いてくるカレーズのせいで、今度は逆に斬鬼丸が頭を抱える羽目になった。


 ナターシャは対象が自分じゃない、と分かって安心。

 だが、ビビらされたのは事実なので怒り眉にしたまま黙っておく。おこ。

 カレーズへの対応はリズールと斬鬼丸に任せた。


 リズールは素直に名前を教え、『今後とも良き付き合いをして行けると良いですね』と社交辞令を告げ、カレーズも朗らかな笑顔と声で対応。

 斬鬼丸も彼の性格は兎も角、冒険者としては礼儀を知っている方だと分かっているので黙認。

 ただ『ユリスタシア領でのごうを忘れるべからず』と念を押し、注意だけしておいた。

 カレーズもそれを受けて『気を付けるようにする』と約束。

 まぁ表情が変わってないので多分話を聞いてない。リズールに首ったけ。


 で、話がひと段落ついた所で、カレーズの隣に移動したアウラが切り出した。


「カレーズさんの自己紹介を終えた所ですし、折角の顔見知り同士ですから互いに情報交換しましょうよ。私達の本当の用事は街周辺での狩場探しなんですけども……ナターシャちゃん達はどんなご用事なんですか?」


 やはりナターシャの事が気がかりなようで、元気な顔だが声は不安げ。

 それを分かっているナターシャは元気だと示すように片手を振り、ハキハキと答える。


「私達はこれから軍管轄下の森に行くんです。本当は商談をしに来たんですけど、此処のギルド長さんが遊びに行ったまま帰ってこないんだってギルド長御付きのメイドさんに言われて、じゃあ折角だし、って事で探しに行く事になったんですよ」


「そうだったんですか。変わったギルドマスターさんですねー」


「ねー」


 同意し合うナターシャとアウラ。

 対して少々お熱が冷めたカレーズは何かを察したのか、ナターシャに一つ尋ねる。


「……すまんユリスタシア家の令嬢さん。一つ聞いて良いか?」


「何ですか?」


 はてなを浮かべるナターシャ。

 カレーズはそのまま本題に入った。


「軍管轄下の森にギルマスが出向いた理由は只の散歩?」


「えっとー……何でも、新種のマルシェルームが見つかったって事は、森の生態系に変化が起きたかもしれないから調査をー……っていう事情だよね? リズール」


『そうですね。そういう裏事情になっています』


「成程」


 どうやら、今の質問だけでカレーズは色々と理解したらしい。

 丁度良いと言わんばかりに微笑み、バッと自身を親指で指差しながら言い放つ。


「でしたらこのカレーズ、貴女達に同行させて頂きましょう! 見た限りでは警戒役と咄嗟の状況判断が出来る人員が不足している様子! そしてそれは私の得意分野! ならばパーティーを組むのは当然の摂理! 私、銀弓シルバーボウのカレーズがお嬢様方の安心安全を全力でお約束させていただきます!」


「おー」

『おぉ』

「…………?」


 感心するナターシャとリズール。

 斬鬼丸はワンテンポ置いてから首を傾げ、カレーズに聞く。 


「拙者は守られないのでありますか?」


「男なら自分の身は自分で守れる」


「成程。確かにそうでありますな」


 そう言って理解したように頷く斬鬼丸。

 そこにナターシャが突っ込む。


「いや納得しちゃダメだよ斬鬼丸。ただ野郎を守る気は無いって宣言してるだけだよ斬鬼丸」


「しかし男子たる物、己を守れるからこそ他者を守れるという物。カレーズ殿の言葉は戦う者にとっての真理であるが故、納得するのも必然。拙者も鍛錬を積み、そのような強さを手に入れたい物であります」


 斬鬼丸はそう言って噛み締めるように頷く。

 カレーズの言葉をとてもポジティブに解釈したようだ。

 駄目だこの精霊早く何とかしないと。


 ……まぁ、それは置いておいて。カレーズのこの申し出はとても助かる。

 見ず知らずの広大な森で特定の人間一名を探し出すなんて余りにも時間が掛かる。

 しかし、それが得意な人間が居るなら願っても無い事だ。捜索時間が減る。


 それに、何が起こっているのか分からない天外魔境の森と化している可能性もゼロではないのだ。

 冒険者として経験豊富なカレーズと組むメリットはとても大きい。渡りに船。


 ナターシャが丁度そう考えていたタイミングで、アウラがおとといの約束の事を持ち出してきた。


「……あ。それにですけど、ナターシャちゃんとはまたクエスト受けようって約束してましたよね。あの森なら危ない事もあんまり無いでしょうし、このまま皆で行きませんか?」


 カレーズはアウラの援護でテンションが上がった。

 これはもはや運命なんだろう? とでも言うようなキザな笑みが若干腹立つ。


『確かに約束をしていましたね。では、どうなされますか我が盟主マイロード。判断は任せます』


「んー……」


 そしてリズールに問いかけられ、念の為に困り事が無いか考えてみるナターシャ。

 本当は考える必要とか無いし即決したいけど。


 まぁ、仮にギルド長が見つかった時は連れ帰れば良いし、そこからはカレーズ達とお別れだ。

 カレーズは詮索のプロかもしれないが、コチラの事情に深く首を突っ込んでくる事は無いだろう。

 仮にされても秘密って事に出来る。よし。


「……まぁそうですね。折角なんで皆で行きましょうか」


「よしっ!」

「わーい。よろしくお願いしますねー」


 喜ぶカレーズとアウラ。

 下心の有無がその意味を二分している。


 しかしカレーズも流石は銀等級。

 欲望の衝動は程々に抑え、先輩冒険者らしい発言を始めた。


「じゃあ念の為、前衛と後衛に役割分担しておこう。もしもの時には即座に対応出来るように」



◇◆◇



 前衛は斬鬼丸とカレーズ(弓兵なのに何故)に決まり、後衛はアウラ・ナターシャ・リズールに決まった。

 取り合えず、という事で最年少のナターシャが音頭を取る事になり、出発を告げる。


「じゃあ軍管轄下の森に行きましょうか。れっつごー!」


「「「おー」」」

「であります」


 ナターシャの意思決定に従い【アウラ】と【カレーズ】が加わったパーティは、ギルドを出て軍管轄下の森へと向かった。

 その間、カレーズがリズールの個人情報を聞き出そうとしていたのは言うまでもない。

ゲーム禁止にしていた反動がまた来たので初投稿です。

まぁ色々ありますが、投稿遅れてごめんなさい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、最近の更新もお疲れ様です! リズールさん、凄い有能ですね!流石は超生物で在るメイドさんですw ギルド長、本気で遊びに行ったと思ったけど。 面白い話に成りそうです。 引き続きも楽し…
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