168 本日最後の魔法創造と、次の日の仕事始め
食事を終えたナターシャは、リズールが入れてくれたお風呂にゆっくり入った後、自室にて再び魔法創造を行っていた。
現在はもふもふ寝間着姿。リズールが創ってくれた。
目下の課題は食品保存用の生活魔法だが、既にイメージが固まっているので創るのは容易かった。
“冷蔵箱化”
“冷蔵庫化”
“冷凍庫化”
以上、三種の冷蔵魔法と、それ以外の食品保存に利用出来そうな、
“防湿庫化”
“酸素吸着剤”
という魔法も創った。科学実験でも使えそうだね。
これらの魔法は事業に組み込まず、冒険者ギルドに販売した方が得策だ、とリズールが言ったのでありがたく売ります。オカネ、ホシイ。イッパイ。
そして、時間が余ったので久々に攻撃系の詠唱魔法を創ってみた。
現在所持している物は単体魔法だけなので、今回は範囲系を狙って。
“炎獄の刻。無限に燃ゆる燎原の劫火。肺灼き肉焦がすその猛火は、正しく怒竜の息吹也。灰になるまで燃え尽きろ。“怒竜灼炎砲””
“召雷の刻。大海に荒れ狂う嵐の轟雷。騒めき響く雷鳴に絶望し、万雷の嵐に飲まれて消えろ。“雷嵐一陣””
“氷晶の刻。永久に制止する絶海の呪詛。凍てつき吹雪く大地に大気、全てが仇名す者を殺めん。我が侮蔑の眼差しに凍り付け。“氷晶絶海””
“崩滅の刻。大いなる大地を震動す地殻の斥力。一度起これば驚天動地。地を割り山崩し断崖創る終焉の衝撃。さぁ、その身に受けて土へと還れ。“地殻崩震撃””
取り合えず4つ創ったけど、確認はまた明日。
家の中で発動なんてしたら大惨事確定だしね。
更についでなので、本気で集敵魔法を考えてみた結果、
“我が魔力は真夜中の灯火。無謀なる戦いを挑まんとする者を呼び寄せる好餌。さぁ、我が元へ集い、精々足掻くが良い。“魔力誘引””
という魔法を創ったのだが、隣に居るリズールが、
『これだと昆虫が沢山寄ってくる魔法になりますね。この魔法専用の防護服を作製しましょうか?』
と言ったので、この魔法は理由が無い限り封印する事となった。
じゃあどうすれば魔物を集められるのか? という話になったが、
『魔物達は各々が各々を警戒しながら生きている為、一点に集めるのは難しいかと。一度、天使ちゃん様に聞いてみては』
と言われたので早速LINE。
天使ちゃん曰く、
天使
[魔物を集めるなら弱そうな気配を撒き散らせば良いよ。そしたら餌だと思って喜んで集まってくるよー]
だとさ。
まさかよわよわオーラを撒くのが正解だとは。
という事で詠唱は、
“我は弱者。可憐でか弱い少女。蝶よ花よと育てられ、他人に抗う術を知らぬ弱き乙女。この気配は宙を伝い、我に牙を剥く魔物達を呼び寄せてしまうだろう。“弱者乃気配””
となった。
本当にこんなんで集まるのだろうか。
「まぁ全部明日試せば良いや」
それで全部分かるし。
「よし、今日は終わりっ」
日記帳を閉じたナターシャは、大きく伸びをする。
「んんーっ……あぁっ、頑張った頑張った……」
そのままおっさんのように肩を回していたら、リズールがメガネをヒョイ、と外してくれた。
『お疲れ様ですマイロード。眼鏡をお預かりします』
「お、ありがと」
軽く感謝しつつ、後ろを向いて従者に問いかける。
「私はもう寝ようと思うけど、リズールはどうするの? 一緒に寝る?」
『いえ、私は今夜中にこの眼鏡の本格的な改造を行いたいと思います。しかしお望みとあらば、朝まで添い寝させて頂きましょう』
「oh……」
冗談で言ったらマジでしてくれるとは思わなんだ。
ナターシャの心がキュンとした。リズールへの好感度が+100Pt。
だがしかし、この少女は元童貞で奥手。
「……い、いや、冗談だよ? 眼鏡の改造頑張ってね?」
『分かりました。お休みなさいませマイロード』
言葉を濁して、別行動ルートを取ってしまった。
緊張でドキドキしながらベッドに入り、頬を少し赤らめながら眠りに付いた。
◇◆◇
そして次の日。
ようやく朝日が昇り始めた頃。
銀髪の少女は揺り起こされ、フードを降ろした青髪のメイドにモーニングコールを掛けられる。
『おはようございます我が盟主。午前7時です』
「んっ……なに……?」
『朝ですよ。午前7時ですよ』
「もうちょっと寝たい……」
布団に包まるナターシャ。
だが、今日のリズールは優しくなかった。
『残念ですが今日に限っては許容出来ません。改造した眼鏡の確認作業と冒険者ギルドへの魔法販売が待っていますので』(バサァ)
「ん゛あ゛ぁ゛寒゛い゛……!」
布団を捲り上げられ、寝間着姿の7歳女児が寒さで悶える。
その様子を見てもリズールは容赦なく、主に着替えを促した。
ナターシャも渋々従い、帽子以外の魔導服一式を着用した。
空いている左腕には黒の長手袋を着用し、脚には寒さ対策として黒のタイツを履いている。
この二点もリズール製。もう服買う必要無いな?
本来ならばもっと興奮するべき場面なのだろうが、今はそれ所では無かった。
『“物質創造”。素材“カルバグボーン”。制作物“洗面桶”。開始』
「おぉ」
何故なら、リズールが目の前で物質創造スキルを使用して見せたからだ。
黒い魔力が従者の手から漏れ出し、空中に集まったと同時に“ポンッ”と音がして、白い洗面桶が生まれる。
リズールはそれを机に置いた。
『ではマイロード、椅子にお座り下さい』
「う、うん」
言われた通りに椅子に座ったナターシャ。驚いて若干放心中。
カルバグボーンが何かは分からないが、触ってみた感触はプラスチック。
リズールは桶に魔法でお湯を注ぎ、生成したタオルを沈めて絞り、椅子に座らせたナターシャの顔を優しく拭く。
「ふぁ」
『これから我が盟主の容姿を整えます。毛先を少々切り揃えますので、そのまま座ってお待ち下さい』
「ふぁい」
温かいタオルの下でもごもごと返事。
気持ちよさで目が覚めるね。
そして顔拭きが終わり、開始が告げられる。
『では、散髪に入ります』
邪魔になる服の袖をグッと捲ったリズール。
ナターシャにカットクロスを掛け、まずは目の粗い櫛で寝癖立った長い銀髪を解す。
◇◆◇
『――――終わりました。如何ですか?』
前後の大きな鏡で、出来上がった髪形を見せつけるリズール。
ロングなのは相変わらずだが、毛先が整えられた綺麗な銀色のストレートヘアーとなった。
貴族っぽい品の良さが出ているかも。クレフォリアちゃんに見せに行きたいなぁ。
「うん良いね。友達に見せに行きたいくらい」
『ありがとうございます。では失礼して――――』
リズールは一礼した後、散髪の後片付けを始めた。
カットクロスを外し、毛払い箒で主の全身を掃いて、床に散らばった髪を“塵芥清掃術”で自動収集しながらマッサージを行う。とても気持ちよかった。
その後、器具とゴミを纏めて消滅させたリズールは、ナターシャを立ちあがらせて移動を促す。
『ではマイロード。2階で食事を取りましょうか』
「うん分かった」
主とその従者は、既に美味しそうな香りが漂う2階へと降りていく。
◇◆◇
今日の朝食はレンズ豆のポタージュ、いつもの黒パンとチーズ、芽キャベツとカブの炒め物。
最近食事が豪勢になってきたのは、ガレットさんが本気を出し始めたからなのかもしれない。
「正直芽キャベツは食べ飽きたと思ってたけど、味が変わるだけでこんなにも美味しいとはね」
『美味しい物を食べる事は活力上昇に繋がります。ガレットさんの料理手腕には感謝ですね』
「そうでありますな。拙者も早く食べれるようになりたいであります」
この場にたまたま居合わせた斬鬼丸を交え、楽しく会話しながら食事を進めるナターシャ。
本当は理由ありきなのだが、それを知っているのはリズールと斬鬼丸だけ。
「斬鬼丸はこの後どうするの? また素振り?」
ナターシャがポタージュを飲みながら問いかける。
斬鬼丸は否、と否定して、正直に話す。
「拙者はそろそろ、魔物と戦いたいと思っているであります。稽古は重要でありますが、やはり実践をしてこその鍛錬であります」
「あ、じゃあ丁度良いね。私この後用事で冒険者ギルドに行くんだ。その後魔物討伐クエスト探そうよ」
「承知。喜んで同行致しましょうぞ」
「やったね♪ じゃあ早くご飯食べないとね」
普段より少しペースを速めて食事をし始めるナターシャ。
それを眺めるリズールは、ギルドとの商談で予測しうる対応に対処法を考えながら、最大限の利益を得る事が出来るように策を巡らす。
ナターシャが食事を終えたのはそれから5分後の事。
諸々の準備を終えた後、家の面々に出発を告げ、リズールと斬鬼丸を引き連れて冒険者ギルドへと向かう。
さ、初めての魔法商談だ。出来るだけ高値で買い取って貰えるように頑張らないとね。




