166 新事実発覚?
「……えっ?」
新ステータスウィンドウが表示されて、更に困惑するナターシャ。
リズールは早速情報を得るべく、思考停止しかけていた主を揺らしながら問いかけた。
『マイロード。この……宙に浮く半透明の黒い板がステータスウィンドウなのですか?』
「……あ、あぁ。うん、そうなんだけど……どうも、私が知らない内に何かしらの変化が起こってるみたい」
『変化? 詳細鑑定で分かりますか?』
「あ、良い手だね。ちょっとやってみる。“――森羅万象鑑定術”」
鑑定を行うと、ステータスウィンドウの詳細が判明した。
頭に流れ込んだ情報はこうだ。
“この板はステータスボード、またはステータスウィンドウと呼ぶ。
今から一年四か月前、ユリスタシア・ナターシャという少女が作った“ステータスオープン”という魔法で発現したのが最初。
作成者であるユリスタシア・ナターシャの初期ステータスを相対的な基準とする事で、他の使用者の能力を数値化して表示する事が出来る。
表示されている数値の内実は、ステータスボード内の表示を別途鑑定する事”
……おぉ、俺が初めて創り出したんだ。なるほ――
「――ゥッ!?」
一瞬、とても強い頭痛がして頭を抑える。
情報の流入はもう終わったのに、追加の情報がムリヤリねじ込まれたからだ。
内容はこうだ。
”ステータスという概念は本来この世に存在せず、曖昧に力が強い、魔力が多い、程度にしか分からなかった。
だが、ユリスタシア・ナターシャが6歳の時に行った洗礼の際、神が土魔法で偽のステータスボードを作製し、少女に見せた事で“ステータスという概念がこの世界には存在する”という虚偽の記憶を植え付ける事に成功。
少女はその後、虚偽の記憶に従ってステータス表示の詠唱を創った事で、本物の現象としてこの世界に刻まれるに至った。
ステータスが概念として確立した後、天界ではすぐさまステータスボードの改良と使用用途の追加案が提出され、神託議会を経て受理された。鑑定スキルと鑑定魔法の差別化の為だ。
そしてフォーマットなどが決まってここ最近、ようやく概念情報を上書きされて現行の物となった。
以上がステータスの生まれた経緯だ。
この概念を創るには、どうしてもお主の知識が必要だったからな。
まぁ、なんだ。騙して悪いが、これも世界の為だ。許せ。神様より”
「……はははっ」
最後の最後に行われた神の介入によって、笑いを漏らすナターシャ。
なんともまぁ、面白い事をしてくれた物だ。
全てはこの為では無いだろうけども、上手く利用された。
流石は神様と言うべきか。
『マイロード? 何があったのですか?』
ナターシャの顔色を伺うリズール。
対してナターシャは、悔しそうな笑みを残しながら返答する。
「いやー……上手く利用されちゃったな、って思ってね」
『そうなのですか?』
「うん。じゃあステータスについてだけど――――
ナターシャはステータスについての情報、更に誕生した経緯を事細かに話した。
その際中、天界が一枚噛んでいた事を聞いてリズールも驚いていた。
『――おぉ、ステータスという物は天界がナターシャ様に創らせた物だったのですか。しかし何故……?』
「まぁ簡単な話だよ。神様よりも私の方がコンピューターゲームに親しかったから。理由はそれだけだと思う」
『成程』
ナターシャがステータスについての説明を終えると、続いて次の話題に移った。
題目は“どうすれば相手のステータスを開示出来るか”だ。
「どうすれば相手のステータスを抜き出せるかな? せめて敵モンスターLvとか、HPとMPは分かるようになりたいんだけど」
『ではLvとHPとMPを表示させる専用の鑑定魔法を創れば良いのでは?』
「やっぱそうなるよねー」
当然の帰結であった。
鑑定魔法は3秒くらいでナターシャが創った。
リズールが早速メガネに追加実装して、効果を試す。
「解析」
再びリズールの情報が解析され、表示された情報に、
Lv1
HP1000/1000
MP200/200
という表記が追加されていた。実験は成功だ。
ナターシャも時間が経って気分が落ち着いてきたのか、ようやくリズールの解析情報について尋ね始めた。
「リズールって意外とMP少ないんだね」
『はい。面倒事を避ける為、ゴーレム体の魔力量は一般的な魔導士レベルに抑えています。魔法の使用は本体から直接行いますので問題はありません』
「因みに本体のMPは?」
『確認しますか?』
リズールは服を捲ってお腹から本体を取り出した。
その服、お腹付近の繋ぎ目に専用のスリットがあるのか。凄いな。
あ、メガネの解析結果はこうだ。
―――――――――――――――
Lv1 リズールアージェント
種族:ブック・オブ・ワイズマン
状態:良好
HP1000/1000
MP200000000000...
‐スキル‐
魔法適正Lv+10(主人に付与)
収納魔法術 重力制御術
防御結界術
‐特殊スキル‐
大賢者の知識 稀代の魔導技師
物質創造 千里眼 超高速演算
―――――――――――――――
「MP限界突破してるねぇ……」
『えぇまぁ。色々と魔力供給されているのも関係していますので、表記上はそうなるかと』
いそいそとお腹の中に本体を戻すリズール。
隙間からチラッと見える健康的な色のお肌が何というかエッチ。
ナターシャは視線をおへそ一点に集中させながら、追加の疑問を投げる。
「他のスキルは何となく分かるし……後は魔法適正Lv+10かぁ。大賢者ちょっと本気出し過ぎじゃない?」
『はい。私リズールアージェントは、現代最高峰のマジックアイテムとなっております。何故かと言いますと、大賢者ウィスタリアの他、その当時にして最強と言わしめる魔導士・魔法使いのほぼ全員が作製に関わっているからですね。同窓会のノリで作製したと聞いています』
魔法使いも馬鹿……いや、人間なんだなぁ……と、そう感じたナターシャ。
リズールが本体を収納し終わると、誰かが階段を登ってきて部屋の戸をノックする。
『ナターシャ。開けますよ』
そう言ってガチャ、とドアを開けたのはガレットさん。
リズールは立ち上がって一礼。丁寧に出迎える。
『こんばんはガレットさん。もう夕食のお時間でしたか?』
「えぇこんばんはリズール。今しがた出来上がった所なので呼びに来ました」
とても仲が良さそうな二人。
ナターシャは不思議そうに首を傾げ、素朴な疑問をその場に置く。
「二人っていつの間に知り合ったの?」
リズールの事は魔導書としか説明してなかったと思うんだけど……
その問いにはガレットが答えてくれた。
「お昼頃、貴女が寝ていた時間ですね。昼食だと伝えに来たら、見知らぬ使用人が居て少々驚きました。ですがとても丁寧で正直な方だったので、互いに軽く自己紹介をして、同じ使用人同士という事で意気投合した形になります」
「そうなんですか」
「そうです。では早速、夕食を取りに2階に降りましょう。着いてきなさいナターシャ」
「あ、はいっ」
ガレットの催促を受け、急いでベッドから降りようとするナターシャ。
リズールは当然のようにスッと手を伸ばし、一言。
『お手をどうぞマイロード』
「ありがとうリズール」
ナターシャは伸ばされた手を優しく取って、ベッドから降りる。
二人はそのまま手を繋ぎながら、ガレットさんを先頭に2階へと降り立った。
2階ではエメリア、マルス、斬鬼丸がもう席に着いていて、ようやく降りてきたナターシャに各々思った事を聞く。
「……ナターシャ。その隣の女の人誰だ?」
「右に同じくー」
「拙者も聞きたいであります」
まぁ当然だろう。ナターシャは簡単に説明。
「あぁ、この人はね。朝方に説明した魔導書のリズールアージェントだよ」
「…………マジ?」
「おぉー」
「何と……」
まさかの情報に驚く面々。特にマルスは絶句しかけている。
そんな好奇の目を受けながらも、リズールは特に気にせず、改めて自己紹介を行った。
『では改めて。魔導書リズールアージェントです。種族は人では無くゴーレムとなっておりますので、食事は不要です。今後とも宜しくお願いします』
「「……よ、よろしくお願いします」」
「おぉ、食事不要仲間でありますな。宜しくでありますリズール殿」
『はい。宜しくお願いします斬鬼丸さん。ではガレットさん。配膳のお手伝いを致しますね』
「えぇ助かりますリズール。早速キッチンに来ていただけますか?」
『お任せを』
ガレットとリズールは急いでキッチンに向かった。今日の料理を運び出すらしい。
ナターシャは新たな従者の抜群のコミュ力に関心しながら、この家での新たな定位置である、マルスの隣の席に座って夕食まで待つ事となる。
勿論その間に、実家との定期連絡も行うとも。
話す内容は魔導服と魔導書を手に入れた経緯と、新事業の立ち上げ案だ。
ふふ、心が躍るな。




