↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/263

159‐閑話 野宿するナターシャ達

 満点の星空に負けじと、パチパチと音を立てながら燃え盛る篝火。その傍には三人の人影が。

 西洋甲冑の騎士は剣を地面に置き、冒険者の少女は小さな魔女っ子を包み込むように座っている。

 胸中に座る魔女の目元は赤く、涙を流した後だという事が分かる。目を伏せ、非常に落ち込んだ様子だ。


「……もう寂しくないですか?」


 ナターシャを抱きしめて座っているアウラが、優しく問いかけた。自分が親代わりになれるとは到底思えないが、それでも寂しさを紛らわす事が出来たなら、と思ったからだ。

 問いかけられたナターシャも、その声音にアウラの温かさを感じた。フッと微笑み、包み込む相手の腕に触れると、感謝の言葉を告げる。


「……はい。ありがとうございますアウラさん」


 所詮建前に過ぎない返答だが、アウラが喜ぶには充分だった。更に強く抱き締められる。

 その温かさが、優しさが、ナターシャの孤独感をほんの少し癒してくれた。心に再び生気が戻る。


 今はまだ、心の器に小さな砂粒が溜まっただけだが……この世界で交流を深めていけば、いずれ元の世界にも負けない程の絆になるだろう。

 それに、人に言えない秘密なんて誰だって抱えて生きている。ナターシャよりも重い事情を抱えた人間は、どんな世界にもごまんと居る。それを踏まえた上で、人と人は交流していくのだ。

 元の世界の友人と会えないのは確かに寂しいが、それらの事を考えればなんて事は無い。

 なんて事は無い……筈なのに。


 ナターシャは哀愁漂う笑みを浮かべながら、自身の心の内を見るように再び目を伏せる。


 ……ハハ、思ってたより、我慢し過ぎてたみたいだ。時々で良いから、気持ちを吐き出さないと駄目だな。

 そうだな……我慢出来なくなった時は……人に甘えるか。もっと唐突に。理由無く。俺子供だし、美少女だから許されるだろ。うん。


「ふふ……」


 そして、目を潤ませながら抱き付くのだ。主に女性に。『今はこのままで居て……』って言うとなお良し。我ながら完璧な作戦だと思う。ハハハ。


「ふふふっ……」


 新たな突発的セクハラの手段を思いついて笑いを堪えるナターシャ。アウラのお陰で大分元気になったようだ。

 アウラもそう感じ取ったのか、同じ事を口にする。


「大分元気になって来ましたね。ナターシャちゃん」


「そうでありますな」


 斬鬼丸が言葉を返すと、ナターシャはようやく、いつも通り振る舞い始める。


「ふふっ……はぁー……スッキリした。泣くと心が落ち着くって本当なんだね。えへへっ」


 二人に向かって笑う。

 夕方に見せた笑顔とは打って変わって、とても晴れやかだ。

 アウラと斬鬼丸は顔を見合わせて微笑み、アウラが代表して返答する。


「へぇー、そうなんですか?」


「そうみたいですよ? 本の受け売りですけど」


「へぇー……」


「その本実はこの世界に無いんで、アウラさんが気になるなら異世界から取り寄せてあげますよ? 魔法の力で」


「あははっ、ナターシャちゃんならホントに出来そうですねっ」


「まかせんしゃい! 我が右手に目覚めよ異世界の次元を開く鍵――アストラルキー! ……何っ!? この期に及んで承認しかねるだとっ!? ぐっ、送り込んだ魔力が逆流して……ぐおおっ……し、静まれ俺の右手……!」


「あはははっ」


 突然行われるナターシャの邪気眼演技に笑うアウラ。

 ナターシャが少し大胆なのは、それが本来のポテンシャルだからだ。

 そして、自身の過去を現在の話に混ぜる方法もようやく理解した。こうして中二病の演技を交えて話せば、全てが冗談で片付く。今回はその予行演習みたいな物だ。……もう使う気は無い技だが。


 そしてアウラには――今回の感謝を込めて、自分が本当は転生者なのだと暗に教えておいた。気付くかどうかは彼女次第だ。


 アウラはひとしきり笑った後、右手の制御を取り戻したナターシャの頭を、帽子の上から撫でながら呟く。


「いやー……ナターシャちゃんが元気になってホントに良かったです。人肌が恋しかったんですね。……私も、巡礼の旅の時には気を付けないといけませんねー」


「旅は人を変えてしまうのだ……フフ……」


 未だに中二病の演技をやめないナターシャ。

 そんな主に代わり、斬鬼丸が話を繋げる。


「……そういえば。アウラ殿が冒険者になった理由は、旅をする為だったでありますな。準備は順調でありますか?」


「あははー……それなりです。まだ青銅ブロンズなので、収支がトントンに収まっちゃいますね」


 困ったように答えるアウラ。

 斬鬼丸はすかさず提言する。


「では今から強い魔物を探しに――」

「行きませんよ? 警戒だけに留めて下さいね」

「無念……」


 肩を落とす斬鬼丸。相当戦いたいのだろう。

 その時――――


(ぐぅ〜)


 誰かの腹の音が鳴る。斬鬼丸は精霊なので自動的に除外され、女子二人に犯人は絞られ――


「ごめんお腹空いた」


 そう自首したのはナターシャだった。少し頬を赤らめて、お腹を抑えている。あれだけ泣いたのだから無理もない。

 斬鬼丸は一瞬アウラを疑った事を恥じた。


「あ、じゃあ良い物がありますよ? 私、いつもポーチに携帯食料入れてるんです。それをナターシャちゃんに……(ぐぅ〜)わぁ私のお腹まで鳴っちゃった恥ずかしい……!」


 先輩風を吹かそうとしたアウラも、顔を赤らめてお腹を抑える。

 街は既に閉門され、残念ながら間に合わなかった冒険者達が、門付近で見張りを変えながら寝ているような時間帯だ。無理もない。


「あぁ……大丈夫ですよ。私もアイテムボックスに予備の食料入れてますから。それを――」


 ナターシャは遠慮して、家出した際に用意した食料を取り出そうとするが、アウラが止める。

 そして優しく、こう告げる。


「……駄目ですよナターシャちゃん。他人に遠慮しちゃ。貴女はもっと、子供らしく振る舞って良いんです。それが普通なんです。……そうやって一人で頑張ってると、また寂しくなって、今日みたいに涙を流しちゃいますよ?」


「……っ」


「だから今は、私に甘えて下さい。ね?」


 ナターシャはアウラの言葉で何も言えなくなり、静かにコクンと頷く。


「良い子良い子」


 再び頭を撫でられるナターシャ。最初は帽子越しだったが、ナターシャは自ら帽子を脱ぎ、直接撫でて貰う。

 その気持ち良さは、それまで抑圧していた他人への感情も相まって、今までにない程だった。

 

 自分の本心を曝け出す感覚。

 親兄弟では無い、他人からの純然な好意。

 この良さは二度と忘れられないだろう。


 アウラはそのまま、ナターシャがしおらしくなるまで撫でた。


「……じゃ、そろそろ携帯食料食べましょうか。半分こしましょうね」


「……うん。食べる」


 次に話しかけられた時にはもう、アウラに対して敬語で話す事を辞めていた。

 それは、背後に居る少女に対して完全に心を開いた証だった。


 アウラはボソボソのショートブレッドを半分に割り、片方をナターシャに渡す。

 ナターシャは、小さく一口。少し古い物なのか、味や風味は良くない。パサパサで飲み込みづらい。水が欲しい。


「アウラさん、水が飲みたい」


「うん分かった。水袋どうぞ」


「ありがとう」


 アウラから受け取った革袋に口をつけ、中には入っている水を飲む。

 次は再びショートフレッド。パクパクと食べ切り、再び水で喉奥に洗い流す。


「……御馳走様でした」


 手を合わせて、感謝を示す。

 空きっ腹に多少の足しが出来た程度だが、ナターシャは十分満腹になっていた。

 人から分けて貰った食べ物が、こんなに嬉しい物だと思わなかった。その幸せ感が、残りの空間を埋めてくれた。


 その幸せの海から出たくなかったナターシャは、もう何もしたくなかった。

 もう今日は、このまま眠ろう。

 全てを皆に任せて。


「アウラさん、このまま寝ても良い?」


「うん良いよ。お休みナターシャちゃん」


「ありがとう。……お休みなさい」


 ナターシャはアウラに抱きしめられたまま、眠りにつく。優しさに身体を預けて、小さく丸まって。


 そんな銀髪の少女を見て、アウラは呟く。


「お休みなさい。また明日ね」


 まるでお母さんのみたいな人だな、と思いながら目を閉じて、ナターシャはそのまま眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、最近の更新もお疲れ様です! ナターシャさん、遂に寂しさを我慢出来なかったですかぁ。最初に転生した時は大丈夫なのに、七年に延して今がダメだったとは。古き知り合い達との永別は悲しいで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。