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13 手袋を投げつけられる7歳の少女

決闘を申し込まれたナターシャ。

当然実力を知る父親は止めに掛かるが、ユーリカの意思は硬い。

ナターシャは姉に対して理解を示すも、あくまで対決する道を選ぶ。

「……私は、ナターシャに決闘(・・)を申し込みます!」


 ユーリカの言葉に一同凍り付く。

 えっ、マジでどういうことなの。

 眼鏡を掛けた銀髪蒼眼少女の赤城恵(ナターシャ)も困惑気味だ。目をぱちくりさせている。


 そして一番最初に異を唱えたのは先程まで存在が薄れていた父のリターリス。


「……待ってくれユーリカ。騎士として決闘で決めるのは正しい事だけど、相手は7歳離れた妹だぞ。実力差がありすぎる」


 焦りの表情を浮かべながら、正論を述べるリターリス。

 流石副団長。見極めが素晴らしい。

 俺も出来れば戦いたくないです……。


「承知の上ですお父様。勿論、手加減はしますとも」


 そう言われるのを理解していたかのように振る舞うユーリカ。

 手加減するって言ってもこっちはそもそも剣の修行すら受けた事ないし、まず魔法使い予定なんですけど。


「それでも危ない事には変わりないだろう。ここは母さんの顔を立てて穏便に……」

「出来ません」


 父の提案を突っぱねるユーリカ。

 あれか。ユーリカお姉ちゃんって一度決めたら絶対曲げないタイプなんだろうなぁ。

 そんで白黒きっちり決めたいタイプ。


「……決闘は今から数刻後。家の前の庭で始めるわ。それまでに準備しなさいナターシャ」


 そう言い残してユーリカはリビングの外へと向かう。


「まっ、待ちなさいユーリカ!」


 それを引き留めようとリターリスが声をかけるもユーリカは立ち止まらない。


「話を聞きなさい!」


 リターリスがユーリカの肩を掴み、ようやく引き留められる程だ。

 一体どれ程強い感情が籠っているのか計り知れない。

 父に肩を掴まれているユーリカは、少し震える声で話す。


「……離してくださいお父様。師匠でもある貴方とは対立したくありません」


 その震えは怒りか、悲しみか。きっと本人にも説明できない感情だろう。

 娘の気持ちを察したリターリスは力を弱めつつ、しかし手は離さず、そのまま話をする。


「……何故そこまでナターシャとの決闘に拘るんだ。他にもっといい方法があるだろう」


「……私は、まだ7歳であるナターシャが悪の道に進んでしまうかもしれないと怖いだけです。それを正すのが姉としての私の使命。そう思っています。」


 ユーリカはあくまでも正義を大義名分に掲げるらしい。確かにナターシャが魔道具を持っていたとしたらその入手先を調べなくてはならないが、身体検査をしても魔道具が出てこない以上ユーリカが正しいと言い切る事は出来ない。

 それに親として、ナターシャが悪の道に走るとは到底思えないのだ。

 その為リターリスはユーリカを(なだ)める。


「……ユーリカ、気負い過ぎだ。常に正義を成す事だけが騎士道じゃない。時には見逃す事が正義になる事だって――」

「私には見過ごす事が出来ません!」


 父の言葉に強い口調で反論するユーリカ。バシッ、と父の手を払いのけ、キッとした目線で父を睨む。

 その強い視線に、父親であるリターリスも騎士としての誇りを見て、言葉を失う。

 そしてユーリカはやり過ぎたと思ったのか表情を変えて(うつむ)き、


「……っ、私はまだ、お父様ほど達観した目線で物事を見られません。正道に然り、剣の道に然りです」


 言い訳をするように言葉を残して去っていく。

 父も母もユーリカに何も言えず、ただ見送る事しか出来なかった。


 ……なんか気まずい雰囲気だけど俺の事を忘れて貰っちゃ困るね。

 二人による会話を傍から眺め、姉であるユーリカの真意を理解した赤城恵(ナターシャ)が心を決める。

 心配性なんだなぁお姉ちゃんも。なら、大丈夫だって事を見せつけないとね。


「……待って、お姉ちゃん」


 姉を呼び止める一人の少女。

 その少女は母親に抱きしめられているにも関わらず腕を組み、尊大な態度を取る。

 その声にユーリカも立ち止まる。


「……お姉ちゃんが私を心から心配してくれているのは分かってる。そして、自分の信念を貫き通す為に決闘を選んだって事も。……だけど、これだけは分かっていて欲しい。“私は、悪い事には関わっていない”。そして、“納得したいなら手は抜かないで”。私も、全力で立ち向かうから」


 少女は強く姉を見据え、返答を待つ。

 その言葉に少し沈黙した後、ユーリカが答える。


「……随分と強く言い切るのね、ナターシャ。まるで勝機があるみたい」


 決して後ろを向かず話すユーリカ。その声には少し怒りの色が混じっている。


「でも、貴方がそう言うのなら、分かったわ。“決して手は抜かない”。……貴方も、その言葉に見合うだけの力を見せなさい」


 チラリ、とナターシャを見るユーリカ。その目は間違いなく本気だ。

 この決闘はどちらかが倒れるまで終わる事は無いだろう。そんな予感がする。


「当然。だって、お姉ちゃんの妹だからね」


 その言葉にふふ、と愉しそうな笑みを漏らしたユーリカは前を向き、リビングを出ていく。

 暫くして玄関の方向でドアの開閉がする音が聞こえた。集中する為に外出したのだろう。


「……ど、どうしましょうパパ。ナターシャちゃん、剣なんて握った事も無いわよ?」


 ナターシャを優しく撫でながらガーベリアがリターリスに相談する。

 えへへ、今の内にたっぷり堪能しておこう。この後戦地へ赴くからね。


「……だよなぁ。今から持ち方覚えさせた所で付け焼刃だしなぁ……。というか、なんで煽っちゃうんだよナターシャも……」


 リターリスも困った様子で長テーブル近くの椅子に座る。

 まぁ、やっぱ流れ的にそうしないと面白くなかったんでね? よく見るアレですよ。アレ。主人公特有の強キャラムーブって奴です。いやぁ、日ごろの勉強の成果が生きましたね。


 ……そして内心、やっぱり両親にもスマホ説明した方が良かったかなぁと思うナターシャ。

 ただ、出所とか説明つかないんだよね。神様に貰いましたなんて言っても信じてもらえないだろうし。

 まず間違いなくユーリカの説を支持されて没収ルートに入る可能性大。


 嫌です。スマホない人生とか普通の人生と変わりません。先の未来を予測して小さく身震いする。

 なので今はまだ説明しないことに決める。魔法創る為に必要なんですよコレ。

 次に持ってる事がバレた時用と、ついでに外でも自由に使えるようになる為にも魔道具?って物としての出自とか設定を固めときたいね。それが決まったら家族にも話そう。それまでの辛抱だ。


 現在両親はどうやって無傷でこの決闘を終わらせようか、と話し合っているが一向に答えは出ない。

 それも当然だ。この決闘は既にどちらかが負けを認めるまで終わらないと先ほど姉妹の会話によってほぼ決定した。そして互いに勝利を譲れないという事も。

 その条件からして怪我をするのはまず必然であり、無傷で終わらせるのは無理に等しい。


 ……そこに、遥か昔に厨二病を拗らせた一人の少女が口を挟む。


「……まぁ、決闘する事になったのは仕方ないんじゃないかな」


 ナターシャちゃんな俺は尊大な態度で腕を組んで頷く。

 ユーリカお姉ちゃんからナターシャへの懐疑心を取り除くには、剣を交えるしか道はない。

 本気で互いの信念をぶつけ合い、戦いを通じて対話する事こそが解決へ至る道なのだ。

 剣士な主人公が言ってたから間違いない。


「仕方ないって……。大怪我するかもしれないんだぞナターシャ」


 心から心配した声音でナターシャを(たしな)めるリターリス。


「お父さんが居る限り本物の剣なんて使わせないでしょ? なら大丈夫だよ」


 まぁ痛いのは我慢するしかないね。そういう戦いだし。駄目な所は魔法でカバーだ。

 よっ、と母の優しい感覚から抜け出し、立ち上がる。

 そしてコツコツと音を鳴らして歩きながら、両親と少し離れた位置に位置取り、


「……私はお姉ちゃんにぎゃふんと言わせる為にいっぱい策を練るから、お父さんとお母さんは私達が大怪我しないようにしっかり決闘の準備をしてねっ」


 二人にふふんと振り向いて、眼鏡をクイッとしてドヤ顔する。ピンチの時は無理にでも虚勢(きょせい)()るもんだってのは趣味の物でよく見てたしそうしてます。

 それに眼鏡パワーで見た目知能レベルもアップだ。


 ……まぁ内心ぶるぶるですけどね。脚も震えて大変な事になってます。


「……でもなぁナターシャ。そんな策なんて練っても――」


「……分かったわ、ナターシャちゃん」


「べ、ベリアちゃん!?」


 それでも止めようとするリターリスを遮るように承認の声を出すガーベリア。

 その言葉にリターリスも驚いている。


「だ、ダメだってベリアちゃん。二人は差がありすぎる……」


 副団長として、そしてユーリカの指南役として正しく実力差を測っているリターリス。

 実際、ナターシャがいくら策を練っても勝てる可能性は低い。

 身長差、体重差、経験差、リーチの幅からスキルのLv。ナターシャがユーリカに勝っている部分は殆ど無い。

 それに相性も致命的だ。ユーリカは剣士でナターシャは魔法使い寄り。

 ロングレンジならナターシャにも勝ち目が生まれるが、今回はミドルレンジからショートレンジでの中近接戦。一般的な7歳少女の性能しかないナターシャよりも、体力と技術を持ち、身体能力Lv3で機動力もあるユーリカに軍配が上がるだろう。


「……いいえパパ。ここは一度ナターシャちゃんを信じてみましょう」


 それでもナターシャを信じると言ってのけるガーベリア。

 一体何処にそれほどまで信じられる要素があるというのだろうか。


「でも……」


 まだ何か言いたげなリターリス。


「……もうこの話はユーリカちゃんが納得出来る形じゃないと収まらないのよ? 今私達に出来るのは、審判役と準備だけ」


「そ、そうだけどさぁ……」


「なら一度ナターシャちゃんを信じて、二人が怪我しないようしっかり準備しましょう?」


「う、うんん……」


 ガーベリアの言葉と、自分の中の思考でついに何も言えなくなるリターリス。

 それを確認したガーベリアは、ナターシャの頭を撫でながら話す。


「……じゃあ、頑張って考えて、勝ってきなさい。ナターシャ」

「うんっ!」


 強く返事し、急いで自室へと戻るナターシャ。

 ドアを閉め、鍵を閉め、宝物庫を開け、スマホを取り出し、


ナターシャ

[……ちょっと天使ちゃん居る? ユーリカお姉ちゃんを楽に倒す方法一緒に考えて欲しいんだけど。]


 早速、神の使いに相談(チート)行為を行うのであった。

この文章はとっても難産でした。

やっぱり人の感情というものは難しい。


そして仕事始めが近いので一日開けて時間作って一日一投稿に変更します。

毎日投稿したいけど体力が持たないですハイ。

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