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133 五日目:迷子だけどスマホがあれば関係ないよね!

 ……まぁ、そんな感じでポジティブに意気揚々と冒険者ギルドから出発した俺達の馬車なんですが。


「あれオカシイなぁ……ここ真っ直ぐ行ったらザイエル・トゥモローに着くはずなんだが……そっから右行って……」


「……いえ、これ以上は無駄です。一旦戻りましょう。時間は掛かりますが一旦冒険者ギルドで地図を見せてもらって、中央広場からやり直し――」


 はい、絶賛迷子中です。予想外ってこういう時に起きるんですね。

 クレフォリアちゃんから宿の名前を聞いた御者の男性が、『道順は分かった、この街の事なら任せろ』との事なので任せたんだけど、どうやら記憶との齟齬が多いらしい。

 5年前に来た時はこんなんじゃ無かった、と言っているので、この街も5年の間に色々とあったのかもしれない。

 そして車内で目的地への到着を待つ少女二人は、小刻みに震えながら抱きしめ合っている。


「うぅ、迷子です……」 「そうだね……」


 辺りは既に暗く、とてもじゃないがクレフォリアちゃんの宿捜索なんてしている場合じゃない。

 その前にガリバーさんに掛け合って許可を得ないと全員纏めて車中泊する羽目になる。しかも街中で。


 ……ならば。それをどうにかするってのがチート持ちの本領発揮って訳ですよ。ね?俺にはスマホがありますし。


 いや、もう少し早く本領発揮しろとか言うなって。

 あ、これ道に迷いだしたな、って全員が思い始めた場面でさ。ガレットさんと御者さんが話し合いを始めたんだよ。俺はその時に、


「えっと、私の魔道具で地図見れますよ?道案内も……」


 って言ったんだよ。

 そしたら、


「「子供は静かに座っていなさい。」」


 ってメッチャキツめの口調で言われたの。

 久しぶりにびっくりして涙目になったわ。下唇噛み締める羽目になったわ。


 なので涙が引くまで大人しくするしかなかった訳だけど、そろそろ勇気を出して行動する時。

 ナターシャはまず初歩として、この暗い馬車に灯を点ける。一旦大人達の気を引くのだ。


「“浮かべや蛍、眩い光よ。ライト”」


 ポウ、とナターシャの指先から蛍のような小さな白い光が発生。

 それは点滅しながら空へと昇り、天井に接触すると共に大発光。

 まぁ何という事でしょう。先ほどまでぎりぎり相手の顔が視認出来る程度だった車内が、まるで昼間のような明るさに。

 抱き着いてくるクレフォリアちゃんの顔が良く見えるようになり、斬鬼丸の鎧は光を浴びて銀色に輝き始めました。

 ……さてさて、明るくなった所で本気出しますか。


 ガレット、御者の両名は突如背後が明るくなった事に驚き、ナターシャ達の方を向く。

 其処にはスマホを片手に持ち、仁王立ちで腕を組む銀髪の少女。


 子供として大人と接するから相手にされないのだ。……ならば、子供らしからぬ高圧的な態度で接し、相手の反論を封じるべし。


「……ガレットさん。ロビンさん」


 いつもののんびりとした口調を止め、元サラリーマンとしての口調で話すナターシャ。

 その態度に流石の大人両名も困惑し、戸惑いながら問いかける。


「……どうしました?」 「……どうした?」


 ナターシャは態度を緩めず、問い詰めるように質問する。


「“大分前”に一度言いましたが、私の魔道具は“地図”も見れるし“道案内”も出来るんです。この意味が分かりますか?」


「えぇ、まぁ……」 「だがそんな魔道具なんて聞いた事……」


 それでもまだ自分達で何とかしようとする大人達。

 もういい加減にして欲しい。解決する手段があるなら例え相手が年下でもしっかり頼るべきだとナターシャは怒り、目を見開きながら大人に向かって言い放つ。


「良いから! 私の指示に!!! 従ってください!!!!! 案内しますので!!!!!!!」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ナターシャ様が案内したらすぐに着いてしまいましたねっ!」


「ふふん、まぁね」


 これがチートの力って奴よ。馬車から降り、鼻高く威張る7歳。

 大人二人も無事目的地に到着した事で安心した様子。だが、これで終わった訳じゃない。まだガリバーさん宅へのご訪問と今日の宿泊場所へ向かう仕事が残っている。

 ガレットさんも理解しているようで早速行動開始。クレフォリアの手を取り、ナターシャの方に向いて話しかける。


「……では、私はこれからクレフォリアさんを親族の方に合わせてきます。ナターシャ。お別れの言葉を」


「……はい」 「はい」


 ガレットさんの指示を受け、しっかりと向かい合うナターシャとクレフォリア。

 まずはナターシャから言葉を紡ぐ。


「……お別れ、だね」


「……そうですね。ここで一旦お別れです」


 物寂しそうな声で話す二人。

 暫し二人の間に沈黙が流れたが、でも、とクレフォリアが言葉を切って希望を残す。


「……でもっ。ナターシャ様の提案が通ればまた、毎日会えます。その時まで」


「……そうだね。また会えるよね。私達」


「はいっ」


 互いに再会を誓い、ゆっくりと近づき、最後にしっかり抱擁して別れを告げる。


「……では、また会う日まで」 「うん。また」


 抱擁を終え、クレフォリアはゆっくりとナターシャから離れる。

 ナターシャは名残惜しそうに手を伸ばしたが、離れていくクレフォリアの手を後少しの所で掴み損ね、ギュッと握りしめられた手だけが、寂しくそこに残る。


「ではクレフォリアさん、行きますよ」 「はいっ」


 そのままクレフォリアはガレットに連れられて、これから宿泊する宿の中へと入っていく。

 後ろで両手を握りしめる少女に気付かないまま。


 気付かれない事に孤独を感じながらも、それでも待ってと言えないナターシャ。

 ……言える訳がない。言えるなら、前世で彼女が出来ている。


 自身の不甲斐なさを実感し、それでもここで何も言わないのは駄目だ、と握った手を解き、親愛なる人との再会の日を願うのだった。


「またね……クレフォリアちゃん……」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 クレフォリアちゃんを親族の下へ送り届けた後、急いで馬車に乗り込んだ一行。

 再びナターシャによりナビタイム!が行われ、最短距離でウェンウッド商会の社員寮に到着した。


 建物の見た目を説明したい所だが、生憎と馬車の外は暗いのでよく見えない。

 それはまたいつかの機会に任せるとして、ナターシャの灯魔法はガレットさんのオタマにくっ付けられて簡易松明になる。

 そう、この魔法は着脱自在なのだ。とっても使いやすい。


 馬車を降りた一行はそのままガレットさんを先頭に進み、2階建ての建物へ。

 ガレットはその一番手前にある、内側から仄かにオレンジの火が灯るガラスの窓を叩く。


「夜分遅くに失礼致します。ウェンウッド・ガリバー様のお宅ですか?」


『んあ? 誰じゃい』


 部屋の中から声がして、ガラス窓の近くにカンテラを持った老人が現れる。


『なんじゃやけに眩しいのぉ! 一体何処の発光石を使っとるんじゃ!』


 茶髪で萎びた感じの男性だ。しかし眼光は商人らしく鋭い。

 男性は一番手前に見える顔に見覚えがあるようで、しげしげと眺めながら発言する。


『……ん? その顔……もしやユリスタシア男爵家んとこのメイドか!』


「はい。私はユリスタシア男爵家から遣わされた、使用人のユリシーズ・ガレットという者です。そして、私の隣に居るのが令嬢であるユリスタシア・ナターシャ」


「……こんばんは」


 ナターシャも紹介に預かり、軽く挨拶する。

 茶髪の男性は相手が知り合いである事を理解して安心し、右へと歩いていく。多分そっちが玄関なのだろう。

 ガレットさんは事前準備として、ナターシャに指示を出す。


「ではナターシャ。リターリスからの手紙を出しておきなさい」


「あ、はい」


 ナターシャは言われた通りにアイテムボックスから手紙を取り出す。赤い蝋で閉じられた封筒だ。

 ホント天使ちゃんいつの間に入れたんだろうなぁ、と思いながら、ナターシャ含む一行は建物の右方にある玄関へと向かう。


 そしてガレットが玄関をノックして、室内の相手は手紙を要求。

 手紙を持っている事をガレットが告げると少しだけ扉が開き、手紙を入れるスペースが出来る。

 良く分からないナターシャはガレットの指示通りに行動する。

 父の手紙をその隙間に差し込んで渡し、相手が内容を確認、個人の証明が取れた所でようやく玄関が開く。


「夜分遅くにご苦労様じゃな。ほれガレットさん。宿泊書じゃ」


 ガリバーは真新しい羊皮紙に書かれた、合計3人分の宿泊書をガレットに手渡す。


「ありがとうございますガリバーさん。では私達はこれで」


「あぁまたおいで。今度は一緒に食事でもしよう」


「えぇまた」


 夜なので簡単な会話で終え、ガレットは斬鬼丸に護衛を頼みながらこの場を離れる。

 そして御者の男性とは此処でお別れ。理由は簡単で、御者の男性の名前はウェンウッド・ロビン。

 そしてガリバーさんの本名はウェンウッド・ガリバー。


『そう、今回の旅に俺が選ばれた理由は、ガリバーさんと親子だからなのさ』


 と、言う事である。これはエンシアへお使いに向かう道中で教えて貰った話。

 冒険者ギルドは専属なのでともかく、うちの馬車に交代の御者が一人も居なかった事もそれが理由だ。

 他のお父さんの部下はスタッツ国に到着しても宿泊する場所が無いからね。


「さ、幸いマルスの住んでいる家は近くにあります。ナターシャ。最後までしっかりと案内して下さいね」


「はーい」


 ナターシャはガレットさんと手を繋ぎながらスマホの地図を確認。

 最後の目的地は俺の兄、マルスが下宿する商店。名前をエメリア旅行雑貨店という。

 早速検索を掛けてマークを付け、ルート検索してNAViを起動。先に進んでいく。


『50メートル先、右方向です』


「次右だって」


「分かりました」

街の地図作ったは良いけどナターシャいれば描写要らない事に気付いてショックを受けました。

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