12 7歳になったナターシャちゃんの日常 後編
ユーリカに逮捕され、連行されるナターシャ。
スマホの存在を秘匿する為、改良をした収納魔法を初披露。
果たして、赤城恵の疑惑は晴れるのか。会話術Lv1の実力とは。
耳を引っ張られ、無理矢理連れていかれるナターシャは必死に考える。
ま、まずい。
このまま姉に連れていかれるとスマホを持っている事を家族に知られることになってしまう。
もしこれが凄い物だとバレて家族がそれを自慢しよう物なら先人達が辿ってきた末路のように命を狙われたり、処刑されたり、戦争が起こったりしちゃうかもしれない。い、急いでしまわないと……!
いやまぁ家族が匿ってくれるだろうが、そんな抑圧された人生なんてごめんなので改良したアイテムボックス魔法を心の中で唱え、発動する。へへ、伊達に1年過ごしてないって事さ。
“万物に影響されぬ秘匿されし宝物庫よ、常に我が眼前に在りて、その門を開け放て”
プワン、とナターシャの顔の前に異次元の扉が開く。
そして移動するナターシャを追尾する形で開き続ける。姉は前を向いてドンドン引っ張っているので、幸いその不可思議現象には気付いていない。
最初は“引力に影響されぬ秘匿されし――”で重力干渉を受け無くなり、それで満足していた。
しかし、父が買ってきたソフトクリームを後で食べようとアイテムボックスにて保管していたらドロッドロに溶けて内部に漂ってしまい、スマホとコードがベトベトに。本ですか? どうでもいいです。なので頑張って魔法を考え直す事に。
拭くのめっちゃ大変だったよ。電化製品だしおもいっきり絞った雑巾で拭く羽目になったしね。
7歳児は力が無いので雑巾を絞るのが大変でした。その後の空拭きも大変だったなぁ。
……は? 生活魔法? ある訳ないじゃんそんな便利魔法。創るしかねぇよ。
というか奇跡的にスマホが壊れてなかったのは本当にありがたい。多分これは幸運値が高いメリットだろうね。
あ、ちなみに既にある魔法を改造するのは天使さん曰くLv上げに使えるらしいです。しっかりやっていきたいですね。
まぁそんなどうでも良い事を考えている暇は無いのでアイテムボックス内にスマホを収納してこれで隠匿成功。後は正直に話していくだけだ。それに今持ってないなら多少の法螺を吹ける。
人間ってのは少しでも真実を混ぜると簡単に嘘をつけるのさ。これは中二病時代の俺もよく利用していた技だね。
不器用な癖になんでそんな事ばっかり上手いんだって? 逆だよ逆。不器用なりに器用な人間を演じようとするために必要だったんだよ。万能を演じるってそう言う事さ。
言い訳のような思考をしながら時折「お姉ちゃん痛いよー!」と言って妹アピールをする。
まぁ本当に痛いので力弱めて欲しいんだけど、全然弱めてくれないのユーリカお姉ちゃん。というか話聞いてくれない。
ナターシャはそのままリビングまで連れていかれ、丸椅子に座らされて両親と姉と私による四者面談が始まった。
母、父がナターシャの前に立ち、姉がその間を左右に移動しながら状況の説明をする。
裁判ってきっとこんな感じの気分なんだろうなぁ。
「――と、私が説明した通り、ナターシャは裏で“組織”という悪い人達と繋がっています!」
バン、と近くの机を叩き自身の正当性とナターシャの裏の繋がりを暴露する姉ユーリカ。
ホントなんで組織の事しってるんだろう、とナターシャは恐怖する。
俺の記憶でもどっかで盗み見られたのかな。……ま、まさか、もう一つ作製した魔導書、“暗黒の月曜日構成員の軌跡”もこの世界に来ているのか……!?
一人で黒歴史を思い出し戦慄した顔になる。
「あらあら、それは困ったわねぇ……」
軽く握った手で口元を隠す母ガーベリア。
眉が困った形になっている。
「それは困ったなぁ……」
母に同調するように話す父リターリス。若干存在感が薄い気がする。
「私もナターシャに魔法適正がある事は知っています。でもだからと言って7歳でそんな怪しいものに首を突っ込んでいるなんてとても許される事ではありません!」
騎士を志す者らしく、強い信念と正義感を込めて発言する姉。
対するナターシャはその威圧感に押され気味で縮こまっている。
「被告ナターシャ! 何か弁明は!?」
姉に促されてナターシャは口を開く。
「……私は悪い事はしていません。組織に魔道具を借りてなんていません」
萎縮した声で自身の心からの言葉を紡ぐ。
事実だ。
俺があのスマホを使ってやっている事は天使さんとLINEしたり、ネットサーフィンしたり、魔法を創る為に使う文字を探したりするだけで、組織とか悪事とかには関わっていないし手も染めていない。本当だぞ。
決して組織の為に犬のように駆け回り情報を集めたり、影から対象を追尾し機関のアジトを見つけたりなどという事をした覚えは無い。
中学時代に組織を運営していた俺はシャー〇ック・ホー〇ズで言う所のモリ〇ーティ教授のように裏から手引きするだけの存在であり……ってそれ悪役じゃん。ダメじゃねぇか。
「ナターシャ! 貴方が何か怪しい組織と関わっているって事は事実じゃないの! 押し入った際に持っていた魔道具がなによりの証拠よ!」
早く出しなさい! と言われる。
いやホント組織とは縁切ったんで勘弁してください。
仲間も散り散りになってますしね?
「魔道具なんて持ってないよー……」
ポケットを裏返し、何も隠していないポーズを取るがユーリカは止まらない。
なんか隠し事してるって悪い子だなぁ俺。
「いいえ、確かに見ました。貴方が自室で光る板を操作しているのを! あれは魔道具に違いありません! 何処かに隠し持っているんでしょう!?」
「持ってないってばー……」
口を尖らせながら弁明する。
「むぅぅ……っ!」
その言葉に眉を吊り上げた姉はナターシャの身体検査をする。
ポケットから腰周り、足の裏から胸元まで隅から隅まで検査される。
しかし見つからない。当然だ。異次元ポケットにしまってあるからね。
「魔道具を何処に隠したの、ナターシャ!」
姉であるユーリカは物凄い表情でナターシャを問い詰めに掛かり、ナターシャはその怖さに半泣きになる。
ナターシャちゃんになってからとっても泣きやすくなったんですよねホント。
驚かされたりびっくりしたりするとすぐ涙が溢れてくるんです。これが弊害なのでしょうか。
「も、持ってないってばぁ……っ!」
今にも泣き出しそうなナターシャと鬼のような形相をしたユーリカ。
……駄目だ。絶対に勝てない。そう理解したナターシャは会話術Lv1の真の実力を目の当たりにさせる。
「持ってたでしょ!」
「持ってない!」
「持ってた!」
「持ってないっ!」
そのまま持っていた、持ってないという終わらない無限ループに入ってしまう二人の姉妹。
ハハ、これが会話術Lv1の力だ。泥仕合はお好きかね?お姉ちゃん。
その戦いはしばらく続き、互いに拮抗する。しかしユーリカが怒って更に強い口調を使い始めた事で次第にナターシャの涙目具合が増していく。あっやっぱ勝てない。Lv3強い。
それを見て、おろおろしていた母であるガーベリアも勇気を出して止めに掛かる。
「……ゆ、ユーリカちゃん。もう止めましょう?」
ナターシャの後ろに回り込み、優しく抱きしめる。結果としてナターシャの頭に重く柔らかい感触が乗る。おぉ……
「ユーリカちゃんが言うようにナターシャちゃんが魔道具を持っていたのかもしれないけれど、今出てこないという事は、ナターシャちゃんは本当に持ってないという事なのではないかしら。」
何とか話を纏める為、優しい口調で話しかけるガーベリア。
「ですがお母様、私は確かに……!」
しかしユーリカも引かない。現場を押さえているからだ。その信念に揺らぎはない。
強い瞳で母を見据える。
「えぇ、ユーリカちゃんが嘘つく子じゃないというのも分かっています。それに、ナターシャちゃんもそんな悪い事に関わったりする子じゃないという事も。……そうよね?ナターシャちゃん。」
「うん……」
目の端に大き目の雫を作りながらナターシャは頷く。
……演技じゃないからね? 本当に怖かったから涙出たんだからね?
「だから、こうやって争うのはやめましょう。ね? 平和が一番よ?」
ガーベリアはユーリカを抱き寄せ、ナターシャと共に優しく包み込む。
ユーリカも少しだけ落ち着いたのか、少し厳しい顔ながらも母の温もりを感じる。
「……分かりました、お母様。ですが、一つだけ条件があります」
ゆっくりと母から離れたユーリカは、厳しい顔から凛とした表情になる。
「……何かしら?」
「……自身の正当性を曲げる為、そして、この気持ちに折り合いをつける為、私は……」
母の温もりと柔らかさを堪能するナターシャに指を向け、言い放つ。
「……私は、ナターシャに決闘を申し込みます!」
……は? な、なんだって……!?
ちょっと盛り上がりに欠けるかもしれないな。
本来なら先に魔物狩りした方が良いかなーって思ったんですけど、こういう変化球もありかな?と思って執筆。




