116 三日目:森の中央まで駆け抜けろ! 後編
前方には障害無し。でも左右には障害いっぱいって俺狙ってくるんじゃねぇぞypaaa!
ナターシャは元気よくロッドを振り回し、自身に飛び掛かる狼の頬を的確に打ち抜き脳を揺らして気絶させていく。そして叫ぶ。
「皆! 斬撃は駄目だ! 打撃で脳や内臓に衝撃を与えれば倒せる!」
「この状況でそんな器用な事出来たらとっくにやってるわオラァッ!」
ディビスはナターシャに突っ込みながらも襲い来る狼の腹部に剣の柄をぶち当て、打撃を与えて吹っ飛ばしている。
文句言いながらも実践出来るのはやっぱ技術があるからだよね。
狼への対策が分かった救出部隊は基本斬撃で対応しつつ、余裕が出来れば上手く打撃を当て追跡する狼の数を少しずつ減らしていく。
対応され始め、このままだと拮抗する事を理解した狼達は襲撃方法を変更する。
『アオォーーーンッ!』 『オォーーーン!』
遠吠えと同時に全頭が風の精霊の加護を発動。緑の光残る風を身体に纏う。
狼の一団はそのまま吹き荒ぶ風となり、森の先へ向かって疾走。
「ッ! 左右の群れが更に速度上昇! このままだと前方を塞がれ……クッ、遅かったでありますか……ッ!」
斬鬼丸の警告虚しく、ハウリングウルフ達は部隊の前方で再び一つの群れとなる。
群れは部隊の遥か先に陣取り、コチラに向かって大きく咆える。
『ワオォォーーーーーーーーーッッッ!!!』
狼達の咆哮が森に響く。その咆哮には風精霊の加護が乗り、突風を起こす。
何十頭もの狼から放たれる風は重なり合い、捻じれ曲がって荒れ狂い、最終的に巨大な竜巻となって救出部隊を襲う。
「ッ!? 全員散開ッ!! 避けろォォッ!!」
隊長の号令で部隊は二手に別れ、左右に大きく跳んで竜巻を回避する。
瞬間、先ほどまで部隊が居た空間に荒れ狂う風の渦が通り抜ける。
その暴風は立ち塞がる木々をなぎ倒し、地面を抉り取りながら森の中を突き抜ける。
「「ぐぅぅ……ッ!」」
地面に伏せ、嵐が通り過ぎるのを待つ部隊。
「……うわぁっ!?」
しかしナターシャは軽すぎた為に竜巻に引っ張られる。
「おっと」
風に巻き込まれそうになる主を斬鬼丸が捕まえて引き戻し、そのまま抱えて地面に抑え込む。
狼達は息の続く限り咆哮し、その結果として竜巻は森の端まで到達。
街道に直撃して大きな衝撃音を鳴らし、巻き込んだ木々や土を上空に打ち上げる。何と凄まじい威力か。
狼も息切れしたのかようやく竜巻が収まり、部隊はゆっくりと立ち上がる。
竜巻が通った後は障害物が全て無くなり、地面が抉り取られて土の素肌を見せている。
空からは月と星明かりが差し込み、竜巻の発生源であるハウリングウルフ達を照らし出す。
狼達はその場で息を荒たげ、鼻を動かしている。
部隊の臭いを探っているのだろうが、動かない本当の理由は先ほどの攻撃で疲労したからだろう。
咆哮によって一直線に造られた通路の右にはオデルと、ナターシャを幼女と罵った3人の冒険者。
左にはディビスと隊長、ナターシャを抱える斬鬼丸。
全員木の陰に避難し、狼から身を隠している。
長い間走っていた為に呼吸は荒いが、まだ大丈夫そうな表情を浮かべている。これも身体能力スキルを持っているからに違いない。ナターシャはそう確信めいた思いを抱いている。
そして結果オーライなのだが、狼達の行動のお陰で部隊は目的地が目視出来るようになる。
竜巻の爪跡を辿り、狼達が待ち構えるその先に見えるのは開けた丘。その頂上に生える大木と下部の広い樹洞。
数人の正規兵らしき人間が入口を固め、周囲の森に潜むハウリングウルフを警戒している。
装備や構える剣には複数の傷跡が目立ち、相当危機的状況だという事をコチラに伝える。
「……なぁ、兵士の数少なくないか?」
目的地の様子を一目見たディビスが小さな声で隊長に聞く。
「あぁ、殆どの者は怪我をしていて樹洞の中に隠れている。今外に出ているのは比較的無事だった者だけだ。……何人かはヒールが使えるが、ハイヒールでないと復帰出来ない怪我を負った者が多い。だが、タリスタン様さえ復活すればこの程度の魔物など相手にならない。容易く殲滅しながら森を抜けられるだろう」
隊長も小声で状況説明を行う。
ディビスは大きく深呼吸した後、軽く笑いながら話す。
「……ハハ、そうかい。なら、ポーション代をソイツに要求するってのもアリかもな」
「なっ……貴様ッ、不敬だぞ!」
隊長は小声で怒ってディビスの胸倉を掴む。
ディビスは隊長の腕を掴んで注意。
「馬鹿野郎、ここで冗談の一つでも言えないとダメだぜ隊長。……こっからどうやってあの狼の列を抜けるか考えなきゃならねぇんだ。ほら見ろ。樹洞を見ていた狼がコチラに気付いた」
ディビスが軽く顎を動かして指し示すと、タリスタン達を見張っていた狼の一部がコチラの臭いを探す狼と合流する。
オウオウ、ワン、と咆えて何やら情報交換を行っている様子。
それを見た隊長もディビスから手を放し、険しい顔をして呟く。
「不味いな……。我々は少数だからこそ止まらずに突き進む必要があった。勢いが殺された今、再び吶喊するのは愚策だが……しかし……」
隊長はディビスを見る。ディビスは諦めたようにため息をつく。
「……まぁ、それ以外には方法が無いよな。プランB」
「……あぁそうだ。プランBで行こう」
隊長も反対側に居るオデル達に対してハンドサインを出し、プランBの決行を告げる。
全員武器を持ち直し、木々の影に隠れて隊長の号令を待つ。
「……因みにプランBって何?」
斬鬼丸に肩車されたナターシャがそう聞く。
問い掛けられたディビスは軽く返答。
「あ? んなもん決まってるだろ。」
そして、タイミング良く隊長が叫ぶ。
「行くぞォォォッ!!! 全員ッ! “気合で突き抜けろ”ォォォッ!」
「「オオオォォーーーーーーーッ!!!!!」」
やっぱそうなるよねェェェーーーーッ!!!
木陰に隠れていた救出部隊が新たに創られた土の道に飛び出し、中央突破を目指して走り出す。
「「ウオオォォーーーーーーーッッッ!!!!!!!」」
ハウリングウルフ達も救出部隊を視認。遠吠えを上げる一部の群れを残し、救出部隊に向かって駆ける。
『ワオォォーーーーーーーーーンッッ!』
ナターシャは狼の大群が迫りくる恐怖と、先陣切って突撃していく恐怖に叫ぶ。
「うぎゃあああぁぁぁぁぁーーーーーッッ!?」
タリスタン救出部隊は走りながら陣形を組み直す。
既に目標地点が分かっているので隊長は後方に下がり、この中で最も強い斬鬼丸が先頭。
元々後方に居た冒険者3人が斬鬼丸の後ろで楔型に並び、更に後ろではディビス、隊長、オデルが同じく楔型に並ぶ。
陣形は例えるならば魚鱗の型。何としても突破するという意思が伝わってくる。
ナターシャは恐怖と焦りであたふたしてあわあわする。しかし身体が勝手に動いて手に持つロッドを狼に向け、単語魔法を紡ぐ。
「“火球”! “水弾”!」
ほぼ同時に発射された二種類の属性弾は狼達の手前まで進むと互いに衝突。
そして混ざり合い、火球の熱で水弾が急激に沸騰。ボン!と大きな音を立てて爆発。
白い水蒸気の煙幕が道半ばに広がり、互いの姿を隠す。姉との戦闘でも使った手だ。
狼達は突然の爆発音と前方が不可視になった事に驚き、その場で停止してしまう。
「斬鬼丸後は任せたぁぁ~っ!!!」
ナターシャはそう言って頭にしっかりと抱き着き、顔を伏せて視線を背ける。
斬鬼丸もナターシャの腕で兜のスリットが隠されてるが、そこは剣技の使徒。気配だけで狼の位置を掴む。
「御意! ……狼は霧で視界を遮られその場で停止! 総員全力で駆け抜けるべし!」
「「ウオオォァァァーーーーーーッッ!!!!」」
救出部隊は雄叫びを上げながら正面に漂う霧に向かって突き進む。
そして突入する直前、斬鬼丸が右手に持つ剣を振り下ろす事で霧を両断し道を照らし出す。
晴れた霧の先、僅か1メートルの距離には立ち止まって正面を睨むハウリングウルフ。
突然現れた西洋甲冑の姿に驚いて一瞬怯む。その一瞬を斬鬼丸は逃さない。
「邪魔ァッ!」
既に剣を左に流し、下段に構えていた斬鬼丸は最も近い狼に向かって容赦なく斬り返しを当てる。
ガキィン!と音がして斬撃が狼の脇腹に命中。その威力と衝撃で狼は右に向かって吹っ飛ぶ。
『キャゥゥンッ!?』
「ムッ……!」
斬鬼丸は何故か斬れなかった事を心の中で悔しがるが、まずは道の確保が先決。
近場に居るハウリングウルフに対して手当たり次第に斬り込み、吹き飛ばす。
『ギャインッ!』 『クゥゥンッ!?』
その時間僅か2秒。目の前を塞いでいた狼5頭が纏めて居なくなる。
ナターシャがしっかり抱き着いてくれているからこそ出来る芸当である。
突破口を切り開いた斬鬼丸の後ろには勢い良く部隊の仲間が続く。
全員力の限り雄叫びを上げ、樹洞を目掛けて突き進む。
Q.この小説はなんなんですか?
A.なんなんでしょうね。
Q.ふざけてるんですか?
A.何の問題ですか?




