114 三日目:突入!タリスタンが籠城する森へ!
兵士率いるタリスタン救出部隊。街道を進み、森の入口に辿り着いた。
僅か7名(+インビシブルちっこいのが一人)だが、全員覚悟を決めた表情をしている。
まぁ約一名(斬鬼丸)は〇まようよろいみたいな感じなので表情というよりは感情が分かる程度なのだが。
部隊は森に入る前に最後の装備確認を行う。森に侵入した時点で一切無駄な行動は出来ないからだ。
冒険者は腰のポーチを整理してアイテムを取り出しやすくしたり、武器の取り回しの確認。
斬鬼丸は剣を抜き、借りた布切れで剣身を軽く拭く。熊を斬った時の血糊を落としているのだろう。
隊長である兵士はそれらを緊張した面持ちで眺めている。
感情を悟られない為に口は堅く引き締められ、眉もギュッと顰めて修羅の形相で仁王立ち。
しかし傍にいるナターシャには脚が若干震えているのがバレているので、あぁ緊張しているんだろうなぁと思われている。一応武者震いだと好意的解釈。
準備が整い、部下となった冒険者達が部隊長である兵士に準備完了を告げる。
部隊長は強く頷いて再び陣形を組ませ、部下と共に森を貫く街道を歩いていく。
少し進み日が沈んで赤い空が黒み始めた頃に突入口へと到着。
そこには部隊長の物である血痕が若干残っている。
強く拳を握りしめ、顔を引き締める隊長。少し恐怖の色が垣間見える。
部下であるディビスとオデルがその気持ちを察し、隊長の肩を叩く。
驚いた隊長の身体がビクリとする。しかし振り向かない。
肩を叩いた二人は落ち着いた口調で告げる。
「……アンタが俺らの命を預かってるように、俺らもアンタの命を預かってる。安心しろ」
「そうだ。我々は正規兵では無いが、それなりに死地を潜り抜けている。それに、この部隊は一つの矢なのだろう? ならば貴公も我々を信じろ。そして必ず助け出そう」
隊長も二人の言葉で勇気が湧いたようで、一言呟く。
「……感謝する」
そして振り向き、先ほどとは打って変わって気力に満ちた顔で、部隊に向かって少し大きめの声で話す。
「これより我々は、タリスタン様救出の為に森に突入する! この作戦は兎に角時間だ! 時間が全てだ! ……途中で転ばないように注意するんだぞ! 迷子になっても知らんぞ!」
誰が転ぶか、と冒険者が言う中、斬鬼丸は素直に“気を付けるであります”と発言して笑いを誘う。
少し気分が和らいだ所で隊長が剣を振り払い、進軍!と叫んで走り始め、部下もそれに続く。
存在感が迷子になっているナターシャも置いて行かれない為に魔法を使用。
「“疾走”、“爆走”……」
まさか、父リターリスとの10km走で楽する為に編み出した魔法が此処で生きるとは……
まぁ創っといて良かったと思うべきか。
「……“重きを軽く、遅きを速く――”」
ナターシャの身体が羽のように軽くなり、体重による疲労感が消える。
しかしその足は地面を踏みしめ、しっかり地を蹴る事が出来る。これぞ魔法の真価だ。
「“風の層が我が身を包み、逆巻く渦が我が道作る――”」
身体の周囲にビュゴウ、と風が吹き、ナターシャのみぞおち付近を中心として反時計周りに渦を巻く。
空気の渦は次第に伸びて横長のカプセル型になり、主の銀色の髪を靡かせながら進むべき道を創りだす。
「“これぞ、速度の限界求める人間の想いの集大成。逆転の速度生み出す超低圧の空気流!――”」
渦の周囲に空気の筒が出来る。それは風の層内部の空気圧を下げて更に抵抗を軽減させる。
内部が低圧ながらも窒息しないのはナターシャ自身の周囲が高圧の空気の層で覆われているからだ。
これはランナー、F1レーサー、公道最速を目指す走り屋なら誰もが利用する当たり前にして当然の現象。
ナターシャはそれを単騎で造り為す。
「“さぁ、我が進路に遮る物は何も無し! いざ進め、世界最速のその先へ! 超速・筒渦気流!”」
詠唱を終えたナターシャは一歩、グッと地面を踏みしめ、飛び出す。
本来なら空気抵抗で一般的な7歳程度の速度しか出せない。早ければ早いほどその圧力は顕著となる。
――しかし、我が道に先人など不要。自身で道を切り開く。
瞬間、前方から強烈な風が起きる。前方から吹き付ける風は筒内部の内圧を猛烈に下げ、纏う捻じれた空気の渦に巻き込まれる。
そして風全てを前進する力へと変え、ナターシャは弾丸を射出するような速度で飛び出していく。
空気抵抗、体力配分、身に着ける装備の良し悪しなど関係ない。
今のナターシャは森の中を通り抜ける一陣の風なのだ。遮る抵抗力は全て背中を押す力へと変わる。
新幹線も顔負けなスピードで走り出したナターシャはすぐさま救出部隊に追い付く。
速度を大分緩め、少し余裕を持った表情で隣を走る部隊を眺める。
部隊は走り始めなのでまだ余裕な感じ。
……むぅ、鑑定魔法創っとけば良かったな。そしたら身体能力のLvとか分かったろうに。
斬鬼丸は追い付いてきた主に気付き軽く見る物の、すぐに顔を逸らして気配察知に集中する。
現状、一番敵の襲撃察知に適しているのは斬鬼丸だ。何せ俺と繋がっているからね。
ナターシャは索敵魔法も並列起動。簡易レーダーとなって周囲の情報を逐一報告し、斬鬼丸の得たデータの信頼度を増す事に注力する。
それ以上は極力やらない予定。だって俺あくまでもヒーラーとかサポートとして付いて来ただけだし。
襲ってきた狼達の処理は部隊に任せて、どうしてもって時以外は身を隠したまま過ごそうと思います。
だって狼と戦うとなると身体強化魔法使わざるを得ないですしおすし。10分で倒れますとも。
あぁ、このスリップストリーム? これバフじゃなくて風魔法枠なんで効果時間は3時間なんすよ。便利っしょ。
ただ疾走と爆走はバフ枠なんで定期的に掛け直さないと速度落ちるのが困った所。
速く走れるようになる装備が欲しい。
部隊は暫く森を進み、特に襲撃も無い時間が過ぎる。まだ中央から遠いのだろう。
しかし日は沈んでいる為に森の中は暗い。隊長の持つ松明だけが頼りだ。
隊長は木に括りつけられた赤い布切れを目印に進んでいるようで、この道順通りに進めば辿り着くって寸法らしい。
ナターシャは明るさ不足対策として斬鬼丸の兜の先に灯り魔法でも付けてしまおうか考えたが、隠匿魔法を解除せずに中央に居る斬鬼丸に近付く事は難しい。それに隊列を崩す訳には行かない。
仕方ないので灯り魔法を斬鬼丸が使えないか試してもらう事にする。
……そして詠唱をしてもらったが、使えなかった。
どうやら魔力はあるが身体強化以外に使う方法が分からないとの事。
おかしいなぁ、蛍光灯魔法なら誰でも使えると思うんだけど……。あ、やっぱりイメージとかの問題なのだろうか。
物や身体にくっついて白く光る光源って中世レベルでは想像が難しいのかな。
困ったように考えるポーズを決めながら走っていると魔物が魔力レーダーに反応。斬鬼丸に伝える。
(斬鬼丸、敵発見)
『おぉ感謝であります。数は。動きは』
(敵影は22体。形的に狼っぽい。先に進ませまいとするようにU字に構えている。……むぅ、コチラに気付いているみたいで3つに部隊が分かれた。中央は前進。左翼と右翼が回り込んでコッチを挟み込もうと動いている。どうする?)
『御意。仲間に連絡をするであります』
ナターシャの報告を受けて斬鬼丸が周囲に連絡。
「御仁方。どうやらそろそろ狼と接敵であります。数は22。3つの部隊に分かれてコチラを囲むつもりのようであります」
斬鬼丸の連絡で隊長が指示。
「分かった……全員! 武器構え! 左右は無視しろ! 前方の部隊中央を突っ切る! 速度を上げるぞ!」
「「応ッ!」」
部下各人が武器を構え、ついに開戦だ。
しかしディビスが分からないという風に呟く。
「しっかし22頭か……」
「何か気になる事があるのか?」
反対側を走るオデルが話を聞く。
ディビスは剣を持ちながらも険しい顔で自分の疑問を話す。
「……いや、7頭や8頭クラスの小規模の群れなら、縄張り争いから破れて此処に来たって分かるが、目の前の群れは22頭。それにまだ中央に近付いていない時点でこれだ。明らかに多すぎる」
オデルも同意して推測だが自身の中の答えを言う。
「……確かに。ハウリングウルフは元々この地域より北に生息してる魔物。少数なら兎も角、20頭で序の口と来る。少なくとも大規模な群れの2つや3つは一緒になって行動している事になるぞ」
「違いない……何かオカシイぜこの森…………おっと、そろそろ来るぞ。足音と声が聞こえる」
ディビスの言う通り、四足歩行の動物が駆ける音とハァ、ハァと走る犬の呼吸音が聞こえてくる。
「さぁ、初心な隊長と少女の騎士さんに俺達のお手並み拝見させようじゃねぇか! ケツの穴引き締めろお前らァ!」
『おおおぉぉーーーーーーーーッ!!!!』
剣を揚げ、叫ぶ。狼は間近だ。
息を呑む。緊張が走る。
――――そして、ついに。
「右3時の方向! 来るでありますッ!」
「任されたッ!」
オデルが斧を右に向かって構える。
斬鬼丸の言う通り、右前方には木々の間を潜り抜ける影。
闇夜に紛れて見づらいながらも垣間見える、緑の風を纏い、灰色の毛並みの魔物。
隊長である親衛隊の兵士が報告した、タリスタンを襲撃した野生の中でも特に集団戦に長けた種族。
『ワオオオーーーーッ!!!!!』
そう、それは風の加護を受けし狼。
ハウリングウルフ達による部隊への襲撃が始まった。
スランプの時は他作品に触れろという事なので漁るように本やアニメ見てたらやる気が溢れてきたので初投稿です。




