表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/263

106 三日目:馬の餌、そして出発

 その後2つ程、商店を見回ったが、旅の雑貨屋と食料品店だった。

 食料品店では主に肉の乾物や穀物が主。そこでは何故か御者の男性と冒険者ギルドの御者2人が困ったように会話をしていた。

 話のかじ取り役は冒険者ギルドの御者の内一人。

 情報を沢山知っているらしく、仲間に向けて情報を話す。


「どうやら、ヨスチス村では魔物が収穫前の畑を荒らしたせいで馬用の飼料が少ないんだと。燕麦エンバクが村人の食料に回されちまったらしい」


「参ったな……今日は特に急いで進む。今日の夕に良い飼料を喰えないと明日以降に響く」


 そう言いながら頭を掻く御者の男性。


「安心できる事といえば牧草が豊作だったって事だが、旅するコッチからすれば気休めにしかならねぇ。牛なんかには大助かりだろうがな」


「しかし牛みたくのんびりは進めねぇしな……。俺らはアーデルハイドさんに言って店売りのオートミールを買ってもらうが、ケビンさん、あんたも早い内に決めた方がいいぞ」


「あぁ、ちょっと相談してみるよ。情報感謝する」


 御者の男性は軽く別れを告げ、その場を去ろうと前を向く。

 すると店の中でその様子を見ていたガレットさん、そして天井から吊るされている乾燥肉を囲んで眺めているナターシャ、クレフォリア、斬鬼丸を見つける。なんでこの燻製肉こんなにクッソ長いんだろう……

 御者の男性はガレットさんに向かって話しかける。


「あぁ、あんたらか。此処に居たなら丁度いい。話は聞いてたか?」


 ガレットさんは遊んでいる3人をほっておいて男性の会話を受ける。


「えぇ、聞いていました。オートミールなら食料として購入した物を使っても構いませんよ。何が起こっても良いように、食料だけは多めに買いましたからね」


 男性は嬉しそうだが、少し困った顔で告げる。


「あー……、悪いがその倍は要る。ガレットさん、オートミールを追加購入して貰えないか。その分と合わせても追加で3㎏は欲しい」


「分かりました。いくらですか?」


「銀貨18枚だ。ちょっと高いのは申し訳ないんだが、分かってくれ」


「……分かりました。これをどうぞ」


 ガレットさんは肩から掛けているバッグを漁り、金貨1枚を差し出す。

 それを受け取った男性は感謝の意を告げる。


「助かる。釣りは後で返すよ」


「お願いします」


 男性は店の奥のカウンターに行き、店員に掛け合い始める。

 冒険者ギルドの御者2人もアーデルハイドの所に行くようで、会話しながら外に向かう。


「……しかし魔物って何が出たんだ? ブロックボアーかブルディアーか?」


「いや、ブラッディデスベアーだと。冬眠出来なかった穴持たずが餌を求めて山から森に出向いたそうだ。討伐隊も組まれる予定――


 言い終わるか終わらないくらいのタイミングで店の玄関を開けて店から出る。

 ガレットさんはそれも聞いていたようで不安そうな顔をする。そして心配して左を向く。

 左側ではナターシャが燻製肉を触ろうとし始めていた。その様子に眉を顰めたガレットさんがナターシャに近づき、手を持って叱る。


「興味が湧くのは分かりますが、買わない食べ物を触ってはいけません」


「ごめんなさい……」


 シュン、となるナターシャ。身体が勝手にね……

 ため息をついたガレットさんは手を放し、ポンポンとナターシャの頭を撫でて一言。


「そろそろ宿に戻りますよ。出発までの間はそこで時間を潰しましょう」


「はーい」


 ナターシャ達は宿に戻り、時間を潰す事にする。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから暫くして出発の時間帯。

 冒険者達もぞろぞろと宿から出て、護衛と休憩に分かれて各自馬車に乗り込む。

 アーデルハイドは前の馬車と後ろの馬車の冒険者代表2人と話し合っている。後ろの馬車の代表はディビスらしい。


「今日は馬車の行進速度を少し早めます。それでも大丈夫ですか?」


「問題ない。交代は少し頻度を高める事にする」 「同じく。次は危険な地帯だ。アーデルハイドさんの魔法に期待するぞ」


 ディビスと、斧を背負った長い髭の男性がそう話す。

 それを盗み聞いたアストリカが不満そうに一言。


「ちょっとー! 魔法使いなら私も居るわよー!」


「知っている。だが我々の馬車に乗っている魔法使いはアーデルハイドさんだぞ。期待するのは当然だろう」


 長髭の男性は腕を組みながらそう話し、シャレが通用しないわねーと言ったアストリカは御者の隣に座り込む。

 長髭の男性は訳が分からないようで首を傾げるが、すぐにアーデルハイドとの会話に戻る。

 それを見ていたナターシャは良いなぁ……ファンタジーしてるなぁ……とほんわかする。


「ナターシャ殿。そろそろ馬車に」


「あ、うん」


 ぼーっとやり取りを眺めていた所を斬鬼丸に促され、ナターシャは馬車に乗り込む。

 馬車の中には追加で麻袋が一つ乗っていた。多分今朝方話し合ってたオートミールだろうね。

 ガレットさんは御者の男性からお釣りを受け取り、鞄に収納してから馬車に乗り込む。

 そして座っている少女2人と、最後に乗り込んだ斬鬼丸に向けて注意を促す。


「……もう一度言いますが、次の区間はとても危ない場所です。ナターシャとクレフォリアさんの2人はしっかりと冒険者さんの指示に従いなさい。斬鬼丸もしっかり二人を護衛しなさい」


「「はい」」 「御意」


 ナターシャ達もしっかり返事を返し、少し緊張した様子で座り直す。


 出発前、アーデルハイドが各馬車を回って点呼を取る。

 ナターシャ達も揃っているか聞かれ、ガレットさんが返答。最後にディビス達の馬車の確認が行われ、全員揃っていると分かり点呼終了。

 アーデルハイドが前の馬車に乗り込んで出発の号令を出し、3台の馬車は次の村、ヨステス村に向かって進み始める。


 村の広場に並んでいた3台の馬車は村の右側にある方の入口、方角的に言うなれば南西に向かって進み始める。

 前の馬車と護衛の冒険者が動き、少し間隔を開けて次のナターシャ達の馬車が続き、最後にディビス達の馬車と護衛が進む。

 土で出来た広場から街道に入る際、少し振動が起きてカタンと揺れる馬車。

 その振動は危険な道中が始まると知らせるようで、乗り込む人の間に緊張を生む。

 馬車は街道に沿って進み、そのまま村の入口を出る。


 街道を進んでいく馬車3台。

 村の外では農作業に励む村人が馬車に向かって手を振り、御者や護衛の冒険者がそれに返答するかのように手を振り返す。

 そして馬車の前方、それなりに進んだ先には見えるのは大きな山脈と平地の森の中を抜けるように作られた街道。

 視界の左には山々が連なり、右には平地に存在する広大な森が見える。街道はその境目を貫くように作られている。


 とても古い時代の街道らしく、原理は不明だが劣化防止の魔法が掛けられている為に整備されていなくても未だに使用出来るらしい。

 一説として、エンシア王国が出来る以前の国が南下の為に作ったと言われているが詳細は不明。文献が残っていないそうだ。


 更に言うには、元々は魔物の出現する危険な道で利用者が殆ど居ない道だったよう。

 だが、有志によって街道の淵に結界石が埋め込まれて比較的安全になり、スタッツ国に向かう商人がリスクを承知で仲間と連れ立って利用するようになったそうだ。

 それまではエンシアの西方から森を迂回し、平地や草原を通って進む道が主流だったとの事。


 そして驚く事に、その迂回ルートの旅日数は何と17日。

 それも最短での話で、殆どは20日超えの超長旅。そりゃあ無理してでもこの道使うよね。

 ちなみにこの情報はクレフォリアちゃんから聞いた話。とっても物知り。


 冒険者ギルドとナターシャ達の馬車列は、そんな危険な地域へと突入していく。

 馬車の左右を護衛しながら早足で歩く冒険者達も緊張で息を呑み、馬車の前方と後方では察知魔法が通常よりも広く展開される。

 馬車の中で座る斬鬼丸も静かになって周囲の気配に気を配り、ナターシャも秘密で察知魔法を展開する。

 ナターシャの察知魔法には左右、街道からかなり離れた位置に蠢く魔物の姿がいくつか映る。

 距離を表示してと念じると凡その距離が出る。最短で80m程。


 ……まぁ何と言うか、何事も起きないように祈るしかないね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ