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104 三日目:朝食

 窓から差し込む朝日を浴びながら今日も元気よく目覚める。

 早起きのガレットさんに挨拶を返し、クレフォリアちゃんも起こして準備を整えて朝食。

 一階に降りて、横に3つ並ぶテーブル席の内右側テーブルの更に片側に3人並んで座る。奥からクレフォリア、ナターシャ、ガレットの順。

 ガレットさんは看板娘さんを呼び出して朝食を3人分注文。料金を先払いして到着を待つ。


 出て来た料理はライ麦パンにチーズとスープ。

 スープの具は大根、ニンジン、ジャガイモになんか知らない豆。美味しいから大丈夫なんだよ。

 少し寝癖混じりの髪でもぐもぐと朝食を食べていると、アーデルハイドが2階から降りてくる様子が見える。

 服に皺は無く、しっかり整えたギルドの制服。頭には寝癖一つ無い。

 アーデルハイドも朝食を取るナターシャ達に気付いたようで挨拶を掛けてくれる。


「おぉ、おはようございます。ガレット様、クレフォリア様、ナターシャ様」


 声を掛けられた3人は一様に挨拶を返す。


「おはようございます」 「おはようございまひゅ……」 「おはよーございます」


クレフォリアちゃんが眠そうなのは相変わらずである。

 まだぽやぽやとしているので、ナターシャが起こそうとしてほっぺたをつつくと反対側にくてんと頭が倒れる。

 もぐもぐしている間はそのままだったがゆっくりと頭の位置が戻り、ほぼ目を瞑った状態で再び朝食を口の中に入れる。そしてもぐもぐ。

 時々目を開けてご飯の位置を確認しているのが可愛い。


 アーデルハイドさんはガレットさんの勧めで同じ席に座り、朝食が来るまでの間軽い雑談をする事になる。

 まずアーデルハイドがガレットに向けて話題を振る。


「ガレット様、旅は今日で中盤ですが、身体の調子などは大丈夫ですか? 何か困り事などは?」


「今の所はありませんよ。身体の調子も変わりありません。子供達も元気です」


 ガレットは隣にいるナターシャの頭を撫でる。

 ナターシャは頭の振動でスープを飲む手を一瞬止めざるを得なかったがそこは慣れた物。

 すぐさま対応してパクリとスープを食べる。伊達に撫でられ慣れてねぇ。

 ナターシャを撫でながらガレットはアーデルハイドに聞き返す。


「アーデルハイドさんや冒険者の方もお変わりないですか?」


 ガレットに尋ねられたアーデルハイドもいつもの口調で返答する。


「えぇ、変わりありません。私も冒険者達も慣れた物ですので。馬車の方もナターシャ様のご友人様がされた付与魔法のお陰で振動も少なく快適です。素晴らしい魔法使い様ですね」


 軽く天使ちゃんの事を褒めるアーデルハイド。

 天使ちゃん、ちゃんと仕事してたんだね……


「そうですか。あの方はどうやら教会の関係者の方のようですので、きっとそこで魔法を学んだのだと思いますよ」


 サラっと適当だけども合っている事を話すガレット。

 アーデルハイドも何か納得したようで軽く頷きながら話す。


「おぉ、そうだったのですか。あの腰に付いていた羽は天使の翼を催した物だったのですね」


 いや催したというか天使本人なんですけどね? 本人聞いたら泣くよ?

 ナターシャがチーズを挟んだパンを食べながら内心で突っ込んでいるとアーデルハイドの朝食が届けられる。

 アーデルハイドは看板娘に礼を述べてから朝食を食べ始める。

 その間もガレットとの雑談は続く。

 アーデルハイドがスープを一口飲んでから、新たに話題を繋げる。


「……旅と言えばですが、この先の街道は東に山間部、西側に森が隣接している地域が続きます。魔物が出現しやすい地域ですのでご注意を」


 ガレットは子供二人を見て、アーデルハイドに尋ねる。


「その危険地帯はどれ程続くのですか?」


「次の目的地であるヨスチス村に着くまでは続きます。少し行進速度を速める予定ですが、魔物の襲撃が起こった際は冒険者達の指示に従って行動して下さい」


「えぇ、分かりました」


 ガレットはアーデルハイドの言葉を了承し、少女二人に注意を促す。


「……ナターシャ、クレフォリアさん。冒険者の方の指示に従うように」


「はーい」 「はぃ……」


 元気よく答えるナターシャと聞いているか聞いていないか微妙なラインのクレフォリア。

 ガレットはクレフォリアの朝の弱さにため息をつきつつ、アーデルハイドに聞いていく。


「襲ってくる魔物の種類などは決まっているのですか?」


 アーデルハイドは考えるポーズをしながら答えてくれる。


「そうですね……結界石のお陰でゴブリンやオークの群れに襲われる事はありませんが、数匹程度の小集団には出会う可能性があります。他の魔物も同じく。強力な魔物は事前に察知して通り過ぎるのを待つ予定です」


「そうですか。待つ間がとても怖いですね」


 答えを聞いたガレットは不安そうにナターシャの頭を一撫で。

 撫でられて首を傾げたナターシャはガレットの真似をしてクレフォリアの頭を撫でる。

 くすぐったいのか嬉しいのか分からないが眠そうにんへへ、と笑うクレフォリア。

 アーデルハイドも、危険性を考慮した上で話す。


「確かにそうですが、下手に突破を目指すよりも通り過ぎるのを待った方が安全なのです。待機中は魔法で索敵し、防御陣形で馬車や皆さんを守る予定です。ご安心を」


 アーデルハイドの言葉にガレットは仕方なし、という表情を浮かべて頷く。ナターシャも真似して頷く。

 クレフォリアはスプーンを持ったままウトウトとしていたが、突如身体がビクっとなり目を開ける。驚いた様子。

 すると宿の玄関が開き、一騎の西洋甲冑が中に入ってくる。

 帯剣し、革のボディバッグを背負う鎧の男はテーブル席に座るナターシャ達に挨拶をする。


「おはようであります御仁方。元気そうでありますな」


 斬鬼丸は鎧を鳴らしながらテーブルに近付き、アーデルハイドの隣に座る。

 ガレットさんが斬鬼丸に挨拶を返す。


「おはようございます斬鬼丸。宿の外で何を?」


「いえ何、軽い素振りを。鈍った身体に太刀筋を思い出させるのも大事な事であります故」


 斬鬼丸の隣に座るアーデルハイドは眼鏡をクイと上げ、斬鬼丸に聞く。


「……そう言えば、同じ部屋なのにまだお名前をまだ聞いていませんでしたね。斬鬼丸さん、というのですか。お名前から見るに、南方か東方出身の方ですか?」


 斬鬼丸は首を振って否定。正直に話す。


いえ、拙者は精霊であります」


「……は?」


 驚いたアーデルハイドは震える手で眼鏡を触ってしまい眼鏡がズレる。

 なんとか両手で眼鏡の位置を直し、斬鬼丸に聞く。


「せ、精霊……ですか? 確認しても?」


「ご自由に。」


 斬鬼丸が腕を広げるとアーデルハイドはしげしげと斬鬼丸の身体を確認し始める。

 最初は外から眺めるだけだった物の、途中から身体を触り始め、最後は斬鬼丸の兜の口元を開けて中を見る。

 中身を確認し、精霊だと理解したアーデルハイドは魔法使いとして尋ね始める。


「……これは凄い。斬鬼丸さんは何の精霊なのですか?」


 斬鬼丸は腕を下ろし、そのまま組んでから話す。


「確か、剣技の精霊だったであります。精霊としての本領を発揮する機会が殆ど無い故、忘れがちでありますが」


「ほぉ……生まれてからどれ程の期間が?」


「生まれてでありますか……今日で一週間かそこらでありますな」


「一週間! どういった状況で?」


「そこは拙者も詳しく覚えていないであります。気が付いたら立っていた形ですな」


「成程……。では、何故ナターシャ様達にご同行を?」


「それは、拙者の主がナターシャ殿だからであります」


 それを聞いたアーデルハイドは驚いて勢いよくナターシャを見る。

 ナターシャは恥ずかし気に頭を掻いて照れる。


「いやぁ……たまたまなんで。クレフォリアちゃんと一緒にやったらなんか凄い事になったんですよ」


 嘘じゃないぞ。嘘じゃない。凄い事になったのは事実だぞ。

 ナターシャは笑いながら自分にそう言い聞かせる。


 アーデルハイドはナターシャの言葉を聞くと軽く眼鏡を上げて成程……と呟く。

 眼鏡の奥の瞳は何か、良い弟子を見つけたと言わんばかりの色をしている。

 斬鬼丸に軽く感謝の礼をしたアーデルハイドは、ナターシャに顔を近付けて一言。


「ナターシャ様は運がとても宜しいのですね。クレラフィサの件に然り、精霊に愛されているのでは?」


「いやぁ、えへへ……」


 まぁ全部運じゃなくて自前の魔法なんですけどね……

 照れているフリをして本来の感情を隠すナターシャ。内心ちょっとビビっている。


 アーデルハイドは最後に残っていたスープを飲み干し、ナターシャ達に別れを告げて2階へと戻っていく。何処か嬉しそう。

 ナターシャ達も朝食を食べ終え、ガレットさんと斬鬼丸も加えて昨日のカバン屋さんへと向かう事になる。

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