103 二日目-終:変わったかばん屋さんと一日の終わり
宿の外に見える景色は今の所ユリスタシア村と大差無い。
広場があり、周囲を囲うように家や商店、教会が建つ。
違う所と言えば村の広場の中央を街道がぶち抜いている事や、宿屋が多いという事。後宿屋右にあるでっかい倉庫。
……とりあえず歩き回ってみるか。変わったお店があるかもしれない。
ナターシャは宿のウッドデッキから降り、土の地面を歩いて建物を見回っていく。
まず最初、ちょっと気になってたので軽ーく倉庫の中を覗いた。中には馬が外された馬車が3台収められている。
倉庫の奥にもコチラと同じサイズの扉付きの入口があり、その入口の外には馬小屋がある様子。
何故分かるかというと奥の扉が半開きになっていて、御者さんが馬の世話をしている様子がチラリと見えたから。
彼らにはしっかり感謝の念をテレパシーで送り(届かない)、ナターシャは建物の見回りに戻る。
宿屋はベッドマークの看板が下がっているので一旦除外して、それ以外の看板が付いている建物やそもそも付いてない建物をメインに見ていく。
ただ玄関から入る勇気は無いので光を入れる為に開けている窓の中をチラッ、と見る程度。
それで分かった事は、看板を下げていない建物はただの住居だという事。
その為目標が宿屋以外、そして看板付きの建物絞られるが玄関を開けて踏み込む勇気が湧かない。
あれだ。武器屋のドアを前にして躊躇った時と同じ。冷やかしの目線で見られるのが怖い。
ナターシャは怖気づく自分を鼓舞する為、右の腰に下げた革袋を叩いてチャリ、と金属音を鳴らす。
大丈夫、ちゃんとお金を持っている。無手だと退店しずらいからガム買って帰る程度の事は出来る。
そう自分に言い聞かせ、一軒の看板付き建物に突撃する。
下げられている看板は手提げカバンをデフォルメしたようなマーク。
ドアを開け、ベルの音を鳴らしながら入店。
「お邪魔しまーす……」
少女の小さな声が静かな店の内部に響く。後ろの斬鬼丸はその声より更に大きい音を立てているが。
店のカウンターでのんびりとしていた店主がその声に気付き、振り向いて返答してくれる。
「いらっしゃい」
職人風の老人だ。とっても皺が深く、掛けている眼鏡の奥の瞳は鋭い。
因みに店の中に置かれている商品は革製のカバン。大小様々なサイズが揃っている。
ナターシャは店の中を少し進み、目に留まった小さなバッグを手に取る。
おぉ、結構堅いんだ……潰れない……
触って感触を確かめていると老人が嬉しそうに話す。
「……ほう、それを手に取るとは良い目をしている」
ナターシャには何が良いのか分からないが、老人の好感度が上がった様子。
とりあえず小さなバッグは元の場所に戻して移動。
次に見た物はボディバッグ。肩に斜めに掛けるタイプのね。
サイズはナターシャの背負うリュックより少し小さいくらい。
触ると何か言われそうなので、眺めるだけに留める。
すると老人が何故か立ち上がり、ナターシャに近付く。
「そのリュックを下ろしてくれるか?」
「?」
首を傾げながらもナターシャは指示通りにリュックを脱ぐ。
無言でボディバッグを取った老人はナターシャに掛けさせ、ベルトの長さを調節してくれる。
「これでどうだ」
そう言って満足そうな笑みを浮かべる老人。あ、分かった。これ孫と遊ぶおじいちゃんの図だ。
ナターシャは軽く身体を見回し、とりあえずバッグを前に回す。
バッグはその行動前提で造られているようで、上側にカバンの入口が向く。ふむ?
カバンの留め具は差し込み式で、ワンタッチで外せるようになっている。ポスッ、とボタンを押し、堅い蓋を開けて中を見る。
中には沢山の仕切りがあり、大きい物でもナターシャの手がギリギリ入る程度の物しかない。
「良い物だろう。冒険者向けだ。戦闘中でもカバンを開いてポーションが取り出せる」
成程、そう使う物なのか。
納得したナターシャは手を抜いて蓋を閉じる。そして開け閉めして使い勝手を確かめる。
カバンが堅いお陰で使いやすいかも?
「カバンの革の中には堅い骨を仕込んである。魔物の牙も通さない。心臓を守る盾にも使える」
ふむふむ?
ナターシャはカバンを後ろに回して一言。
「これください」
だってこれリュックより使いやすい。気軽に前に回せるし。ちょっと不便だったんだよね一々肩から外すの。
老人は良い笑顔を浮かべて、ナターシャに質問する。
「いくらが良い?」
ナターシャは驚いて聞き返す。
「言い値?」
「あぁ」
ナターシャは少し考え、巾着袋に手を突っ込んで金貨を一枚取り出して老人に差し出す。
「これで」
老人は戸惑った表情でナターシャに話す。
「うむ、もっと安値で良いんだが……」
「これしかお金持ってないの」
「あぁ、なるほど」
ナターシャの言葉で老人は納得したように頷き、カウンターに戻って革の巾着袋を持ってくる。
そして中を開き、金貨と交換で銀貨18枚と小銀貨4枚を渡してくれる。
「大事に使ってくれ」
嬉しそうに一言告げ、カウンターに戻っていく老人。
ナターシャも元気よく返事をするが、もう一つやっておきたい事がある。
「はいっ。……あの、おじいさん」
「なんだね?」
ナターシャに呼び止められて振り向く老人。
拍子が抜けたような顔をしている。
「私のお供の人にもカバンを貰えませんか?」
「……あぁ。良いとも」
嬉しそうに了承した老人は、斬鬼丸用に大きめのボディバッグを宛がってくれた。値段は相変わらず銀貨1枚。
性能的にもっと高値でも行けると思うけど、それよりも使って欲しいっていうのが本音なんだろうなぁ。
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カバン屋から出て、使い勝手を再び確かめるナターシャ。
あぁ、リュックは店から出る際に上手くアイテムボックスに収納した。邪魔だからね。
やっぱり肩掛けカバンはスムーズに前に向けられて便利だ。蓋もボタン式でとっても使いやすい。
こんな良い物を作れるこのかばん屋さんはもっと流行るべきだと思う。うん、旅の土産話の一つにしよう。ナターシャはそう心に決める。
まぁその前にアイテムボックス魔法の修整だ。
その後、バッグからスマホを取り出せるようにサクッと詠唱の修整を終えたナターシャ。
そのままスマホを取り出して時間の確認をする。
時刻は4時。まだ時間あるけどもう夕方だ。空は赤い。他の建物は既に閉店の準備を始めている。
やっぱり灯りが乏しい中世では今の時間帯が閉店時間なのだろう。
灯り魔法も創った方が良い気がするなぁ。
取り合えずこれ以上の観光は出来なさそうなので宿に戻る事にする。
ナターシャは斬鬼丸に話しかける。
「斬鬼丸、宿に戻るよ」
「御意。……このカバンは良い物でありますな。使いやすいであります」
斬鬼丸もカバンを移動させて確かめている。
「だよね。作りもしっかりしてるし。盾にもなるってホントかな?」
「試してみるでありますか? 丁度剣が此処に。」
腰の剣を触る斬鬼丸。
「やだよ。ミスったら死ぬじゃん」
「ハハハ」
そんな他愛無い会話をしながら宿に帰っていく。
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宿の部屋に戻り、ガレットさんに購入したカバンを見せびらかした。ふむ、良い物ですね。と一言言われて終わった。反応が薄い……ッ!
悔しいのでクレフォリアちゃんに見せると良い物ですね。私も欲しいですという話になったので、じゃあ明日の朝買いに行く?と提案した。
そしたらとっても喜んでくれたので俺も嬉しい。あのおじいさんも喜ぶだろうね。
その後、5時になってから一階で夕食を取る。今日は冒険者がテーブル席を占拠してないのでうるさくない。
宿の人が持ってきた料理はライ麦パンにチーズとハム。スープには人参と玉ねぎ、じゃがいもにベーコンと具材てんこ盛り。
宿によって出る料理が違うのは面白いなぁと思いながらしっかり味わって堪能し、さて寝る準備だと思った時にこの村にはお風呂が無いという事を思い出す。
なので昨日見ていた布で身体を拭く作業を経験する事になってしまった。あぁ、桶にお湯を組んで宿泊部屋に戻ってやってます。女性なので。
思い出しておけばお風呂魔法創れたのになー、と思っていたがまぁ忘れていた物は仕方ない。
取り合えず明日の移動中に灯り魔法とお風呂魔法を創る事にして、ナターシャ、クレフォリア、ガレットは明日に向けてべッドに入り、睡眠を取る。
暇な道中だけど、やる事一杯だなー……




