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101 二日目:天使ちゃんと一緒に創った新察知魔法

 サウス村に繋がる街道を進む3台の馬車。

 森の中をゆっくり進む物の、特に魔物の襲撃がある訳でもなく。

 もっとこう、突発イベントみたいな感じに色んな襲撃とかあると思ってたけど全然ない。平和の一言。

 何で魔物と街道で遭遇しないのかガレットさんに聞くと、街道には結界石という魔物を寄せ付けない物が埋め込まれているそう。

 それは何かと聞くと、今朝聞いたエルフォンス教皇国という国で製造されている魔除けの結界を創り出す水晶だそうだ。

 製法は秘密との事。まぁそりゃそうだろうさ。


 どういう原理で水晶が結界を出しているのか聞くと、クレフォリアちゃんが代わりに答えてくれた。

 基本は付与魔法と似た原理らしいのだが、どうやら俺のスマホに掛けられた祝福と同系統の物らしい。

 使用する魔力も人や生き物の物ではなく、世界に満ちる魔力をゆっくりと吸収して力を発揮している様子。


 更に、世界に満ちる魔力は吸収者の成長を助ける力があるらしい。

 その影響なのか水晶は祝福の効果と一緒に次第に成長して大きくなってくようで、大きく成長した物は掘り出されて首都や街の守護結界として利用されるそう。

 その後も大気中の魔力を吸収してすくすくと成長し、成長限界に達すると力を失うそうだ。


 もう少し詳しく聞くと、交換時期の判断は色の変化で分かるらしい。

 成長限界に近付くと薄い紫色から次第に青色に変わっていくとの事。……なんか防虫剤みたいだなそれ。

 効果を失った物は再びエルフォンス教皇国に持ち込まれ、小さく砕かれて静謐の森という場所で浄化を行う事で再利用出来るようになるんだって。とってもエコロジーだね。


 そういった特殊な街道だが一部の強力な魔物には結界の効果が及ばず、更に結界の隙間が魔物の通り道になっている為にたまに遭遇戦が起こるらしく完璧にガード出来ている訳ではないのだと。

 だから護衛の主な仕事は魔物の探知。戦闘が主ではなく、戦闘が起きないように周囲を警戒して必要あらば馬車を止めて魔物をやり過ごすのが重要な任務。


 冒険者に魔法使いが増えれば護衛も楽になるのだろうが、魔法適正Lv1の習得には時間がかかる為に日当稼ぎに忙しい冒険者がギルドの魔法訓練場を利用する事はあまり無い、とても悲しい事です、と昼食中に喋る機会が出来たアーデルハイドさんが嘆いていた。


 ちなみにお昼は塩味で生姜の風味が薫るオートミール。

 柔らかで食べやすい中にも歯ごたえがあり、生姜と岩塩の風味がマッチしていて中々どうして素晴らしい。


 その後出発して街道を進んでいると森を抜け、平原に出る。

 平原は開墾されていて畑があり、農作業をする人達の姿が見える。

 道中休憩の為に農村に立ち寄ったりもしたが、この村にも教会があるのはやはり中世。

 色々な身支度を整えたナターシャは再び出発するまで暇なので馬車の中でスマホを弄っている。

 今は天使ちゃんとLINEしながら敵探知魔法の開発を実行中。


ナターシャ

[見えない魔力の霧を周囲に発散して、魔力察知で敵の位置や動きを知る魔法なんだけどさ、出来れば使いやすく簡潔に纏めたいんだよね。なんかいい案ある?]


天使

[うーん……簡潔にまとめるっていうのが難しいね……。なっちゃん性能には妥協したくないんでしょ?]


ナターシャ

[……まぁ確かに。やっぱ長文になるかな]


天使

[……あ、魔力の霧と言えば静謐の森の事なんだけど、情報要る?]


ナターシャ

[静謐の森……あぁ、さっき話題に出たわ。結界石の浄化に使うって]


天使

[ホント? ベストタイミングだね☆ そんでさ……ふふ、結界石凄いでしょ! 持っていれば低級の魔物に襲われるような事はまずないよ!]


ナターシャ

[その代わり強い魔物には遭遇するんですよね?]


天使

[た、たまにだから……滅多にないから……]


ナターシャ

[ちなみにそういう強い魔物ってどれくらいのレベルなの?]


天使

[まぁ有名どころではドラゴンとか、ブラッディデスベアーとか。冒険者ランク的に言うならゴールド以上だね♪]


ナターシャ

[ゴールド以上……まぁ、そこら辺に出会ったら運が悪かったとしか言いようが無いか]


天使

[悪運バッドラックに関しては気合で何とかして貰うしか……人の運命は未確定だから必死に逃げれば生き残れる可能性だってあるし!]


ナターシャ

[サイコロ振って?]


天使

[神様はサイコロ振らないよー! 危機に備え磨き上げた肉体や精神こそ己を救うのだって神様言ってた]


ナターシャ

[確率論じゃなく肉体論だったか……。筋肉好きだよね神様。洗礼部隊ってマッチョが多いんでしょ?]


天使

[神様は努力する人が好きなだけだから! マッチョだから好きとかじゃないからね!]


 会話がどんどん横に逸れていくので、天使ちゃんが流れを修正しに掛かる。


天使

[まぁそういう話は置いといて、今大事なのは静謐の森について! お教えします!]


ナターシャ

[はい。]


 ナターシャも天使ちゃんに流されるまま説明を受ける。


天使

[静謐の森って言うのは、エルフォンス教皇国の東にある山の奥に存在する広大な森。世界の魔力を生産する役割を担っているんだ]


天使

[森内部は魔力が濃密で、森深くは下手すれば窒息するくらい危ない場所。魔物も住んでるけど内部の環境に適応しすぎてメッチャ強いよ。危な過ぎて現段階では森の中央に辿り着いた人は居ないね。辿り着けた人間にはご褒美あげるって神様が言うくらいだし相当危険]


 一体どんだけ修羅の国なんだよ静謐の森。


ナターシャ

[ちなみに森の中央には何があるのさ?]


天使

[それは見てからのお楽しみ! 他にも、森に生えている木々がかなり特殊で、一般的な木斧じゃ傷一つ付かない程堅いよ。でも木なお陰でとっても軽いからなんとか伐り出して盾や防具の素材に利用されてるね]


天使

[因みに魔力を生産する木の名称はクラマナ! 大気を吸収して、光合成で魔力を生み出す世にも珍しい魔力合成樹! 葉っぱや樹皮はマナポーションの材料になるよ。でも森は危ないしポーションの効果も高いからお値段はとっても高いです。金貨40枚は下りません!]


ナターシャ

[へぇー……]


天使

[そして静謐の森の名物と言えば、年に3回発生する魔力の霧! 一定の条件下で森から月を青く染め上げる量の魔力が放出されます! その霧は日の出と共に発生した気流で巻き上げられ、上空にて世界に広がっていく様はとても神聖で神秘的な物だと崇められています!]


 おぉ、なんか凄そう。

 しかし一つ疑問が。


ナターシャ

[……でもそんな濃厚な魔力の霧、森の内部や周囲にも影響起きるんじゃないの? 魔力濃すぎると窒息するんでしょ?]


天使

[大丈夫大丈夫。静謐の森は常に中央に向かって気流が起こってるし、クラマナ以外の木々が魔力の霧を吸収して酸素を生成するから。周囲の生態系も静謐の森に合わせて進化してるから何の問題もないよ。自然選択って素敵だよね♪]


ナターシャ

[まぁ確かに]


 ただ、神の使いである天使ちゃんが生物学を語るのはなんかおかしい気はするけどね。

 まぁ異世界だし気にしなくて良いか。現代の宗教とは色々と相違点があるんだろう。


ナターシャ

[……それで、どう使えと?]


天使

[まぁ単純な話で、魔力の霧じゃなくて静謐の森内部を疑似再現すれば良いと思うよ? なっちゃんの魔力量ならいけると思う。後は魔力の質の違いで探知すれば行けるんじゃないかな?]


ナターシャ

[成程……]


 俺自身の魔力で森内部を創り上げるのか。

 天使ちゃんの説明する静謐の森の通り行くなら、魔力による窒息狙いとかも出来そうだけど……そういうグロいのはちょっと勘弁。

 まぁとりあえず詠唱か。


 暫く思考し、思いついた文章を書きこんでみるナターシャ。


ナターシャ

[“溢れ滾る我が魔力の奔流を源とし、今此処に静謐の森を創り為す。広く渦巻く魔力の中、常に相違する存在を見つけ出さん。”……どう?]


天使

[良いと思うよ! 敵味方の識別入れると長くなりすぎるからそれくらいで丁度良いかも!]


ナターシャ

[あれ、入れた方が良いって言われると思ってた]


天使

[そこら辺はまぁ、一つに纏めるより重ね掛けが一番だと思うよ。詠唱節約と使い勝手の為に。取り合えず二つ名! お願いします!]


 天使ちゃんに言われて困るナターシャ。

 少し頭を掻いてからスマホに打ち込む。


ナターシャ

[いい案無いんだよなぁ……]


 天使ちゃんがナターシャに代わり提案。


天使

[じゃあ……ストレートに森の監視者とかどう?]


ナターシャ

[あー……良いね。“森の監視者ヴァルト・ヴァッヘ”とか]


天使

[良いね! ドイツ語って所が厨二ポイント高いと思う!]


ナターシャ

[フフ……]


 まぁ慣れたもんですよホント。ドイツ語って即バレしたのはメッチャ恥ずかしいけど……

 天使ちゃんの解説により強い精神ダメージを受けながらも褒められて喜ぶナターシャ。

 後は敵検知かぁ……なんかイメージ湧かないなぁ。


ナターシャ

[あとは敵検知だけど、どういった感じにすれば良いかな?]


天使

[そうだねぇ。まぁ魔法だから割とふわっとした感じでも行けるよ? 敵意とか悪意検知で。殺意とかでも]


ナターシャ

[そんなもんで良いの?]


天使

[そもそも魔法ってそういうもんだし全然大丈夫だよ。説明出来たら魔力の無い世界でも使えるだろうし]


まぁ確かに。


ナターシャ

[じゃあ……“害意を持つ物を検知せよ!”とか?]


天使

[まぁそんな感じ。強いて言うなら“我に仇なす物を知らせよ!”の方が良いかもね♪ そしてその魔法を重ねて利用すればあらびっくり! なっちゃんから漏れる魔力の範囲なら敵味方一瞬で丸わかりになる強力スキルに大変身☆]


ナターシャ

[つまり……エンシア王国の首都レベルの範囲内なら、敵味方を自在に検知出来るって事? やばたにえん?]


天使

[まじやばたにえん☆ エンシア王国の首都って大体直径6㎞くらいだからメッチャ凄いよ。それも魔力使用量0%の時。魔力を広げれば更に10倍くらいは余裕で検知できて、最大射程は多分直径200kmくらいだね。ただ、魔力に指向性を持たせればその10倍以上は伸びるしもう現代兵器級の魔力レーダーだよなっちゃん!]


 チートすぎる。

 魔力チートってやべぇな……張り合う先が現代兵器とかヤバすぎる。

 あぁでも、こういう危険性があるな。


ナターシャ

[でもさ、情報量多過ぎて脳が疲れてオーバーヒートしたり、認識出来なくなったりしないの? 落ち葉の下のダンゴムシの魔力まで読み取ってたらキリ無いんだけど]


天使

[あぁそこら辺は大丈夫♪ 察知魔法がなっちゃんの意識と連動して、必要な情報以外は勝手に排除してくれるよ。特定の物を探すときは軽く情報を求めれば自動的に察知してくれるから安心してね♪]


 便利だなぁ魔法……。まぁだからこそ魔法なんだろうけど。

 暇なので試しに察知魔法を起動してみる。


「“溢れ滾る我が魔力の奔流を源とし、今此処に静謐の森を創り為す。広く渦巻く魔力の中、常に相違する存在を見つけ出さん。森の監視者ヴァルト・ヴァッヘ”」


 すると視界が暗転し、周囲の物が薄い白のラインで縁取られる。

 そして目の前にある幌馬車の覆いの先に居る人の行動が青い人影となって見えるようになる。

 手で目を隠せば白のラインが消え、青い人影だけが見える。

 目で見える範囲だけかな、ちょっと遠くも見れないかな……と思うと視界が前に進んでいき、畑で 農作業をしている人らしき様子が映し出される。

 おぉー……疲れたように腰を叩いてる。凄い。


 試しに魔物が居るか探そうと思うと視界が元の位置に戻る。どうやら範囲内に居ない物は探せない様子。

 ナターシャは使ってみた感想を天使ちゃんに話す。

 因みにスマホの画面は相変わらずカラーだからとっても目に優しい。多分必要な情報だから認識してくれてるんだろう。


ナターシャ

[今探知魔法使ってみたけど面白いね。人の動く様子が丸わかり]


天使

[それに敵探知も重ねてみるともっと面白いよ! 敵は赤い色でマーキングされるから☆]


ナターシャ

[へぇー……]


 ナターシャは試しに“我に仇なす物を知らせよ”と詠唱してみたものの、敵が居ないようなので特に変化が無かった。

 周囲を見渡しても青い人影だけが見える。


ナターシャ

[敵探知使ってみたけど変化ないね]


天使

[なら味方探知を使ってみる? “我に味方する者を知らせよ!”でいけるよ♪]


ナターシャ

[おっけ、試してみる]


 ナターシャが味方探知を詠唱すると、青い人影の一部が緑色になる。

 そしてこの幌馬車に乗り込む緑の人影が3人程。

 サイズ的に言うなら大人2人に子供1人。


「姿が見えないと思ったら、こんな所に居たんですねナターシャ様」


 小さい方の緑の人影が右隣に座って話しかけてくる。

 その人影に意識を集中すると輪郭や顔の造形がリアルになって誰か判別出来るようになる。クレフォリアちゃんだ。まぁ声で分かったけども。

 ナターシャは優しい声で返事を返す。


「お帰りクレフォリアちゃん」


「はい。ただいま戻りました」


 クレフォリアも嬉しそうに帰還を告げる。

 前に座る2人にも意識を集中すると輪郭がはっきりして、ガレットさんと斬鬼丸だという事が分かる。


「ガレットさんと斬鬼丸もお帰り」


「ただいま戻りましたよ」 「ただいまであります」


 そして何事も無かった感じでナターシャはLINEに戻る。


ナターシャ

[味方は緑なんだね。青は中立?]


天使

[まぁそんな感じ♪ 物陰越しは敵味方中立程度しか分からないけど、目に見える範囲ならいつも通り色の認識が出来るよ]


 それを聞いたナターシャが色を認識しようとすると暗転が直り、いつも通りのカラフルな景色に戻る。

 しかし壁越しの青や緑の人影は見えたまま。近くに居るクレフォリアやガレット達は緑色に縁どられる。

 少し馬車から身体を乗り出して見渡すと、見える範囲の人は中立か味方か分かるように縁どられる。これは便利だ。

 身体を戻し、元の位置に座ったナターシャは天使ちゃんに向かって再びLINEをする。


ナターシャ

[なんかこれFPSでチート使ってる気分になる]


 ちょっとズルい感じがする。

 その言葉に対して天使ちゃんが一言。


天使

[そもチート持ちなのに今更では?]


ナターシャ

[確かに]


 天使ちゃんの言う通りだな。考えるだけ無駄か。

 ナターシャがLINEで天使ちゃんに同意すると共に出発の号令がなされ、馬車が動き出す。

 サウス村まで残り2時間。ナターシャは察知魔法を切り、いつもの見慣れた状態で馬車の外の景色を楽しむ事にする。

 そして楽しみながら遠い目で考える。


 最大察知距離2000㎞以上か……魔力無限チートってやべぇ……

 俺、異世界の魔力型OTHレーダーになっちまったよ……

魔力チートによる弊害

理論上は円の面積と同等の距離まで察知可能。(31400km。馬鹿じゃないの)

ただ伸ばせば伸ばす分察知範囲は狭まるので最大2000㎞くらいが現実的な距離ですね。

(縦の直径が10㎞の楕円なら横の直径がそれくらいまで伸びる)

道中の障害物や風の影響なんかを考えたら長く見積もっても直径500㎞くらいが限界ですが、それでも凄まじい距離。


因みに魔力量が一般レベルの人でも使用できます。(なお魔力消費量は無視する物とする)

瞬間最大距離で2㎞まで察知出来るようになります。(常時展開する場合は半径2.5mくらいが限度じゃないかな)

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