第1話 黒瀬隆は死にました
頑張ります!温かい目で見てください
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・・・ここはどこだ?
今まで暗闇にいたのか、やけに景色が眩しく見える。
目を細めると今の自分の状況に少しの混乱を起こした。
見知らぬ受付台の椅子に座らされているこの状況。
キョロキョロと周りを見ながら、自分がなぜこんな場所にいるのか空を見つめ思い出してみる。
確かあれは午後6時ごろのことだった・・・。
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その日は観測史上最高気温を記録したとても暑い日。いつものように仕事で怖いお兄さん方へ挨拶回りが終わった仕事の帰り道だった。
あまりの暑さに汗で体に張り付いたシャツを気持ち悪いと思いながらネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外し、パタパタと空気を送り少しでも涼しくしようと試みていた時。
目の前に見知らぬ美少女が現れたのは・・・。
白髪紫眼の少女、身長は165センチ程度女性の中では少し大きい方だろう。
外人さんかなぁ?すんげー美人だなぁ・・・。
そう思いながら横を通り過ぎようとするとそれに合わせて少女もまた俺の動きに合わせ体の方向を変える。
俺は思わず立ち止まり少女の顔を見た。
少女は人々を魅了するような笑みを浮かべるとその白い手で俺の頬を人撫でする。
30前半のおっさんで女性経験もそこそこ持ち合わせていたが、その時は年甲斐もなく恥ずかしく顔が真っ赤になってしまう。
しかしそれは次の瞬間に蒼白に変わった。
少女はその艶のある髪をなびかせながら車道に出たのだから・・・。
ブッ!ブー!と大型トラックのクラクションが周りに鳴り響き、俺はとっさに荷物を捨て少女のいる車道へと身を投げ出した。
普段から仕事で裏関係のことをやっていたので、俺の心はすっかり乾ききっていたはずだ。
いつもの俺ならそのまま体が硬直して、動かなかっただろうが今日ーー否今の俺は違う。
相手が可愛い女の子だからか、それともあの彼女の吸い込まれそうな瞳につられたのか、どちらにしても早く彼女を救わなければ。
俺は少女の白く華奢な手を掴むと自分の方に引き寄せた。
ーー早く出ないと!
と顔を向けた時には、すでにトラックは直ぐそばまで迫っていて避けることは不可能。
俺は少女を咄嗟に抱き寄せる。
ダンッ!と言う音がなったと同時に体の中からボキンッ!と子気味良い音が響き、地面に叩きつけられるたび体中から嫌な音と痛みが走って行く。
口元は鉄の味がひろがり、肺に血が溜まっているのか息が出来なくなった。
フシューと肺から空気が漏れ、景色がだんだんと暗く暗く深い闇へと包まれる。先程まであんなに暑かった体もいまでは寒さを覚えた。
「おい!どうした!」
「男が一人車道に飛び込んだらしい!」
「やだ自殺?」
と様々な声が聞こえるが所々掠れて聞こえ、何を言っているのか分からない。
少女が、俺のそばまで来るとどこか悲しそうな顔を浮かべている。
「待ってる。私を見つけてね」
姿どおりの綺麗な声が聞こえ俺は思わず笑みを浮かべた。
そうして俺はこの命を散らしたのである。
◇◇◇
「お、俺はあの時トラックに轢かれた筈だ。ま、まさか・・・俺、死んだのか?」
「よく分かりましたね」
パチパチと手を叩く音が聞こえ、俺は上げていた顔を下におろして目の前で拍手をする人物の顔を見た。
黒縁メガネに頭をきっちりと分けたその男はいつの間にそこにいたのだろうか・・・?
俺はゴクリと息を飲み込むと状況を整理し始める。
ーー俺は間違いなく死んだはずだ。あの大型のトラックに吹き飛ばされて・・・、身体中の骨が砕ける音が聞こえたし実際に血だって吐いた。
と言うことはここはあの世?これから地獄か天国かを決めるとか?
俺が思案している時、黒縁メガネは数度頷くと胸元のペンを取りカッチっとペン先を出して、手元にあったメモのようなモノに何事かをスラスラと書き出している。
「状況判断能力もよし、潜在能力も高くまさに最高に適している人材だ」
ーー状況判断?潜在能力?何言ってんだこいつ?
男はこちらのことなど無視してテーブルの上の電話の受話器を取るとポチポチっとボタンを押し始める。
「私だ死亡者 黒瀬 隆 の高い適正を確認した。転生の手続きを始めてくれ」
ガチャっと受話器を置き、眼鏡をクイっと上げた男性は俺を見つめてくる。
「あ、あの一体ここはどこなんでしょうか?」
「うむ。大方貴方が思っているところで正解だ。ここは全死者が最初に行き着く場所で『審判の部屋』と呼ばれている」
汗が頬をつたるのを感じながらゴクリと唾を飲み込んだ。
「そ、それじゃあやっぱり俺って死んだんですね?」
「その通りだ。お前は本来まだまだ生きられる筈だったんだが、余計なことをして命をドブに捨てたな」
「へ?」
今この人なっていったんだ?
「君があそこで飛び込まなければ、死人などでなっかたのさ。君があの少女を助けようとしたことで君は晴れて亡者の一員になってしまったわけだ」
「な、なんだよそれ・・・。それってどう言うことだ!」
怒鳴って男に詰め寄るが男はどこ吹く風で俺を無視し手元にあった資料に目を落とした。
「君の経歴を見たが普段からあんなことをするタイプではなかったはずだぞ?なぜそんなに触発された?相手が少女だったからか?一様言っとくがあのままお前が飛び込まなければトラックはそのまま逸れてガードレールに衝突し、運転手の怪我程度で被害が最小限に留まったんだぞ?」
「なんだって・・・?」
男は冷たい目を俺に向けて眼鏡をあげる。
「ヒーロー気取り、不純な目的、ふむ実に人間らしい愚かな考えだ。反吐がでるね」
容赦ない男の言葉を聞きガラスのハートを持つ俺は思わず顔を背け涙が目に溜まって行く。
だって仕方ないと思う。こんな訳の分からない状況の中説教まがいの言葉をズケズケ言われるなんて俺には耐えられない。
そんな俺の姿を見て少し考える素振りを見せた男は腕を組みさらに続ける。
「自分のせいとは言えこれで地獄行きとはあまりにも不便だ。そこでお前にチャンスをやろう。乗るか?」
その言葉を聞いて顔を上げる。
今まで生きてきた人生。
「やるよ!なんでもやってやるよ!」
ろくでのない事ばかりしたこの人生を変えるための最後のチャンスだと痛感した俺は何度も頷いた。
「お前には別世界に転生してもらう」
「て、てんせい?」
不思議そうに首をひねるとまた電話が鳴り眼鏡の男性は受話器を取ると「了解しました」と言って受話器を置いた。
「貴重な時間も残りわずかになった。質問、反論などは一切受け付けず一方的に喋らせてもらうぞ?時々地球の中の死者を転生させると言うのが【神和協定】で結ばれていてなお前は晴れてその転生者に任命される事になった。名誉なことだから誇ってもいいぞ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!い、いきなりそんなこと言われても困るぞ!」
と俺がその場から立ち上がり男に迫ろうとしたが、中腰でそれを静止させる。
何故なら男がものすごく怖い顔でこちらを見下しているのだ。
「行ったはずだぞ?質問、反論は受け付けないと・・・?」
「ひゃ、ひゃい!」
思わず返事をしてしまった俺はその場に座り直して男の話を聞く。
「転生先はあまり期待しないほうが良い。どっかの転生物語じゃあるまいし、貴族やイケメンに容易く転生できると思うなよ?転生は全て運次第だ。神にでも祈るのだな」
「そ、そんな余りにも酷いじゃないですか!」
男はどこまでも冷たい目を俺に向け、ハンと鼻で笑って眼鏡をあげる。
「今の今まで困難にも立ち向かわず、楽な道ばかりを選んできた貴様のようなゴミクズにチャンスがあると言う事だけでもありがたく思ったらどうなんだ?
普通ならお前は犯した罪を償う為に地獄でゆっくりと拷問に次ぐ拷問を受ける筈だったのだぞ?行っとくがお前の考える地獄など生易しいものだ」
その周りの迫力と雰囲気に地獄への恐怖心を増す俺は恐怖から冷や汗をかき始めた。
すると突然その雰囲気を壊すかのようにボーン!ボーン!と鐘の音が部屋に響き渡る。
「時間だ。お前には特別にこれをやろう」
と男は懐をガサゴソと漁ると黒いタブレットを取り出して俺に手渡してきた。
「何にでも転生した時のためにこれをお前に預けよう。これはお前の転生する世界の知識が全て入っているうまく活用しろ。それと転生者にはあらかじめ武器と薬、食料を支給しておくから上手く活用しろ。運が良ければ最初から無双できるかもな?」
とあらかた男の質問を聞き終えた俺はずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。
「あ、あなたは神ですか?」
男はまた眼鏡をクイっとあげると今日初めての笑みを浮かべる。
その笑みがとても疲れきったブラック企業に勤め社員のような笑みと言う点を除けばとてもイケメンな笑顔だった。
「私はただの受付だ。神はまあ・・・俺の上司のようなものだ」
「そうなんですか・・・」
「質問はそれ以上聞かないそれでは健闘を祈るぞ」
「ありがとうございま・・・・!」
と言いかけ俺の意識はそこで途切れた。
まるで深い水底に落ちる様に意識が闇の中へと去り。俺はそこから消え去ったのである。
◇◇◇
受付の男はハーと息を吐き出しながら手元にあるたった今送り出した男 黒瀬 隆の生前の記録を見ていた。
凡庸も凡庸、ごくごく一般的なクズ、落ちたサラリーマンという言葉が似合いすぎるこの男のどこを選んだのだろうと思わず眉間に皺を寄せてしまう。
周りから自分は冷たいだの朴念仁、リアルハシビロコウなど呼ばれているが、人一倍お人好しだと言う認識が自分にはあると男は自負していた。
つまり何が言いたいのかと言うとあの男が別の世界でやっていけるのか不安なのだ。
もっと別なやつを選んでも良かっただろうやつも気の毒だな。
眼鏡を上げ書類を整理しているとガチャっと目の前の扉のドアノブが回され白髪紫眼の美少女が中へと入ってくる。
張本人が来やがった・・・。
と心で愚痴を吐きながらも男はスッと頭を下げて目上の立場の者に使う言葉遣いで話し始める。
「これはこれは『アナザー』の創造神アルフェンシアス様ではありませんか。私になんのごようでしょうかか?」
アルフェンシアスと呼ばれた少女は、あからさまに嫌そうな顔をすると、黒瀬が座っていた椅子にどっかりと座ってうーんと背を伸ばす。
その姿は些かレディーには相応しくない行動であり、受付の男は溜息を吐いた。
「神がそんな態度ではこちらが困りますよ」
「固いこと言わないでよイフリートのバカ。こっちはお父様から管理権を受け継いだばかりで覚えることがたくさんあるの!やってられないのよ」
受付の男イフリートは再度溜息を吐きたくなった。
ーーなんか今日は疲れる相手しか俺のところにきてないか?
そう心に思いながらもアルフェンシアスに向かって、不安げな顔を浮かべる。
「アルフェンシアス様。本当にあの男でよかったんですか?あの男確かに潜在能力は目を見張るものはありますがハッキリ言ってどうかと思いますよ?」
そんなイフリートの態度に対し、彼女アルフェンシアスの逆に笑みを浮かべて期待を持った目をしていた。
「あの方でいいのよ。確かに他の人よりは少し捻くれてるけど。「少しじゃないですよ」・・・・それ以上に人一倍優しくて正義感を持ってるんだから」
余りにも純粋で子供の様なアルフェンシアスに、もうダメだこの人と言うばりに顔を横に振ったイフリートは異世界へと送られた黒瀬の事を只々気の毒に思ったのだった。
どうでしょうか?
続きは明日ぐらいになる予定です!
評価等ありましたらどうかよろしくお願いします