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第十八話 第二層 その①脳筋とか殲滅とかする奴は大抵変化球に弱い








◆◆◆




 1 異世界ガイゲンシュピァ陣営謹製重層位相領域『光輝の(ノーライトノー)(ライフ)』第二層 エリシャス大遺跡




 


 第一層を秒速でクリアし、無事次のエリアにたどり着いたアストとリリス。

 そんな彼らを待ち構えていたのは、なんとも奇妙な空間だった。



 煌びやかなネオン、そして地面はカラフルな正方形で均等に敷き詰められており、手前には《START》と書かれた看板がある。

 賑やかなジャズ調の音楽とただっ広い空間の中央に設置されたルーレット。

 空中にはカートゥン調の立体映像で描かれた二つのサイコロが楽しそうにコロコロと転げまわっている。



「リリスさん、これって」

「あぁ、うむ。もしやとは思うのだが」



 二人が頭に思い浮かべたのは、主に六面ダイスやルーレットを使って行う盤上遊戯である。

 サイコロやルーレットの出目に従い、駒を動かしていき、最終的にゴールを目指すとても有名なゲームだ。




「いや、いやいやいや。まさかですよね。こんな世界の存亡を賭けた戦いの只中でまさかそんなお遊びをやるわけないですよね」

「そ、そうだな。きっとこの会場自体が巨大なモンスターで、隙をついて我々を食おうとかそういう魂胆なんだろう!」

 



 なんとか否定しようと躍起になる二人。

 だがその時、無情にもアナウンスの言葉が煌びやかな天井に映し出された。





《第二層エリシャス大遺跡――――クリア条件:サイコロを振り、出た目のマス目に従いながらゴール地点を目指せ<到達系>》




 すごろくだった。

 言い逃れの余地なくすごろくだった。




「えっ? 嘘でしょ? 本当にスゴロクやるんですか」

「世界の命運を賭けた戦いでスゴロクやるのか!? 正気かガイゲンシュピァ!」



 二人はしばらくの間天井に向かって延々と抗議と文句を垂れていたが、しばらくして最早どうにもならない事を悟り、諦めてスタート地点に立つ事にした。



「とりあえず、やってみましょうか」

「う、うむ」



 二人がスタート地点に立つと辺り一面のネオンが輝きを増し、壮大なファンファーレが奏でられた。




「凝ってますねぇ」

「アストアスト、私ちょっと楽しくなってきちゃったぞ」



 戦闘モードからアホの娘モードに切り替わりかけているリリスを尻目にアストが天井を眺めると、空中に浮かぶサイコロの立体映像が乱回転をはじめ、そのまま弾丸の様な勢いでアスト達に向かっていき




「リリスさん危ないっ!」

「む?」



 そして彼らの手前で実物の巨大サイコロとなって現れたのだった。

 回転するサイコロを避け、回転が止まったところで恐る恐るそれを拾い上げるアスト。




「これを拾えって事でしょうか」

「だろうな」



 抱え込むように巨大サイコロを持ち、アストはしばらく思案した後



「リリスさん、最初振ります?」

「うむ!」



 とりあえず相棒に渡してみる事にした。










「では、いくぞアスト」

「お願いしますリリスさん」




 おっかな半分ワクワク半分といった出で立ちでリリスがゆっくりと巨大サイコロを持ち上げ



「良い目よ来い!」




 腰の入った良いフォームで投擲した。



 宙を舞うサイコロの様子を固唾をのみながら見守る二人。

 

 果たして出た目の数は……



「おおっ!」

「やりましたよリリスさん! 六です! 六!」




 いきなり六である。

 早くゴールに辿り着きたい二人にとってこれほど嬉しい数字はない。

 アスト達はアナウンスに従いながら意気揚々と六の目の数だけステージを進んだ。


 アスト達が歩を進むたびに足場はぴかぴかと輝いて、気分はまるでスターである。




「さぁ、何が待っているのかなー」

「楽しいぞアスト、これ楽しいぞ」



 すっかりルンルン気分でスキップなども踏んじゃったりしながら辿り着いた六のマス。

 正方形で区分された光る床には以下の文言が記されてあった。





《空から大岩が降ってきて大混乱。一回休み》




「「へっ?」」




 二人が呆けた声で天井を見上げると、そこには突如現れた大岩がまるで殺意を剥き出しにするかのようなスピードでこちらに向かってくる姿が見て取れた。




「むっ」




 刹那リリスが右手の『口』を解放し、迫りくる大岩に向けてブレスを放つ。

 生命エネルギーの奔流が一瞬で大岩を消し去り、上空は再び静けさを取り戻した。




「中々にスリリングなすごろくだ。今後は警戒レベルを上げて進まねばならんな」

「…………」

「アスト?」



 反応のないアストを訝しむリリス。



「どうしたのだ?」

「……上を見てください」



 アストに言われた通り天井を見上げるリリス。

 するとそこには――――



「なっ!」




《一回休みのマスが踏まれました。三分の間、プレイヤーのダイスロールは無効化されます》



 ダイスロール、つまりサイコロを振る行為全般が意味を為さなくなると書かれている。

 要するに三分間の移動制限だ。


 試しにアストがサイコロを投擲するも、部屋は何の反応もせず、ただ時間だけが流れていく結果となってしまった。




「まずいですね。このすごろく、妨害役としては一級品だ」



 モンスターの大群をものの三秒で倒した彼らに対し、容易に三分間の拘束を強いるこのゲームの厄介さにアストは遅まきながらようやく気づく。



(敵を倒せば終わりの<討伐系>と違って<到達系>は遅延と妨害能力に長けている。それをさらにすごろくというゲームのルールに落し込む事で行動阻害に特化させているわけか。随分やり手だなガイゲンシュピァ)




 しかし敵を褒めた所で行動不能時間が縮むわけでもない。

 そこでアストはこの一回休みを利用して、ある検証を試みようと決心した。




「すいませんリリスさん、少し手伝って頂けませんか」

「任せるがいい!」



 まだ内容も聞かない内から快諾するリリスに感謝の言葉を述べつつ、アストはある提案を伝えた。



「この『ゲーム』がどれだけの拘束力を持つか調べたいんです。リリスさん、とりあえずゴールまで飛んでみてもらえませんか?」

「うむ! 了解したぞ!」



 そう言ってリリスは紅蓮のオーラを纏いながら宙を飛び



「では、行く――――ふみゅ!?」



 直ぐに可愛らしい声を上げながら落下した。



「大丈夫ですかリリスさん!?」

「あ、あぁ。ダメージの方は問題ない。それよりこれは……」

「推測になりますが、恐らくゲームのルールが物理法則を支配しているんだと思います」




 すごろくにおいて勝手に自分の駒をゴール地点に置く事は出来ない。

 何故ならその行為はゲームそのものの意味と価値を奪い、勝負そのものを否定するルール違反だからだ。

 そしてこの空間はそういったルール違反を物理的に許さない。



「“正当な手段を踏まずにゴールへ辿り着く事はルール違反だから出来ない”というすごろくの原則がこの空間全体に張り巡らされているのでしょう、少なくとも無理やりゴールへ辿り着くやり方だとさっきのリリスさんみたいに強烈な妨害を受ける事になるんでしょうね」



 アストは改めてリリスに謝罪の言葉を述べ、それから今後の事を話し合った。



「正直大人しくルールに従うのが一番の近道だと思います」

「それについては概ね同意だ。しかしアスト、思うにこのすごろく、ただのすごろくではないぞ」

「……でしょうね」




 床に書かれた一回休みの文字。

 アストにはこれがどうしても偶然には思えなかった。



(サイコロか運気、はたまたその両方か。敵が妨害に特化した構成で組んでいるとしたら、その辺りをいじっている可能性は大いにある)




 これは思った以上に長引きそうだとアストはそんな確信めいた予兆に苛まされるのだった。









 結論から言えば、アストの案じた推論はおよそ正しかったと言える。

 以下に記すのが彼らが踏んだすごろくのマスである。




《突然地面が爆発した。一回休み》



《壮大な音楽に思わず耳を傾けてしまった二回休み》



《ふかふかのベッドでゆっくり就寝。三回休み》



《不思議な光に包まれた。5マス戻る》



《大変、モンスターの群れに出会ってしまった。モンスターとの戦闘》



《強くてニューゲームって素敵だよね。ふりだしに戻る》



《人生一からやり直しましょう。ふりだしに戻る》



《とりあえずふりだしに戻る》



《まぁゆっくりしてけや。五回休んでふりだしに戻る》





 ついてないとか不運とか、そんなレベルを軽く超えた糞引きの数々に、二人はその都度叫び頭を抱えながら健気にサイコロを振り続けた。


 そしてかれこれ一時間、二人が幾度もの妨害に苦しみながら辿り着いた現在地はというと――――




《空から大岩が降ってきて大混乱。一回休み》




 スタート地点から数えて六マス目、即ち二人が最初に到達したマスである。




「うわぁああああああああ! このすごろくインチキだぁああああああ!」



 半分涙目になりながらリリスが拳で大岩を砕く。

 天井から振って来た大岩は見るも無残に木端微塵となった。



「ズルイ、ズル過ぎるぞこのすごろく! ちっとも良いマスに止まらない」

「こんな所で、躓くとは、思っても、みませんでしたね」



 精神的に堪えているのかそう語るアストの声は切れ切れだ。




(一見馬鹿馬鹿しい仕掛けだけどこのスゴロク、本当に厄介だ。早い所打開策を見つけないと本当にヤバいぞ)



 ダンジョン×ダンジョンズは競争競技である。

 どちらが先に最終階層の守護者を倒せるかを競うこのゲームにおいて一時間の足止めというのはあまりにもマズい。



「どうするアスト、全てマルっと上手くいく起死回生の打開策があれば隠さず教えてくれ」

「一かバチか、この空間ごと壊すってのはどうです?」

「うむ、賛成――――と言いたいところだが流石にリスクが高すぎるな」

「ですよねぇ」




 最悪、こちらの手札を無駄に晒すだけの結果になる事を考慮すると破壊作戦はあまり効果的とは言えない。

 さらに言えば、戦いは未だ序盤の第二階層。

 切り札を切るにしても些か早急すぎる。




(となるとやっぱりマトモにゲームクリアを目指すしかないわけなんだけど……)




 イマイチいい案が浮かばず天を仰ぐアスト。




「ん?」



 幻想か錯覚を疑い、視覚を瞬かせる。

 


 ネオン煌めく天井から何かが降りてくる。

 ふよふよゆらゆらと飛来してくる謎の物体。

 その姿にアストは見覚えがあった。



「いや、でもありえない。というか何故に!?」

「どうしたのだアスト」

「あー、えっと。リリスさん。上から何か降って来るのが見えます?」



 半ば混乱気味のアストの言葉通り上方を確認するリリス。




「むっ。むむむっ?」




 思わずリリスも目頭を押さえ、二度三度と自身の視界を確認してしまった。



 天井より飛来する謎の物体。

 その外縁は色とりどりのバルーンで覆われていた。

 そこまではまだいい。

 ともすればこのエリアの装飾かと見間違える程には景色とマッチしている。



 問題はその中心だ。


 沢山の風船に囲まれたその中央に何故かいる少女。

 彼らはその人物に心当たりがあったのだ。


 金髪のツインテールに何を考えているのかわからない無表情。

 そして極めつけはトレードマークの赤い作務衣である。




「ロリー!? なんでここにいるの!?」




 アストの驚愕を含んだ呼びかけに、件の少女ロリーは、バルーンの気球にふよふよと揺られながら言った。




「ぷぅ」





 さっぱり意味が分からなかった。

 












「お手紙をね、届けにきたの」



 着地早々ロリーは何を考えているのか良く分からない顔でそう言った。



「手紙? もしかしてヨミから?」



 アストの質問にこっくりと頷くロリー。



「ふむ。状況は大方把握したが何故ロリーが使いに出されてるのだ?」

()らない」

「知らないか。なら仕方ないな!」

「ちかたない」



 リリスとロリーの頓珍漢な会話を聞きながら、ふと小さな疑問を覚えるアスト。




「あれ? リリスさん、ロリーの事知ってるんですか?」



 彼の質問に少女と龍人は互いに顔を見合わせて




「ちょっと前にいっしょにあそんだ」

「うむ。言うなれば遊び友達というわけだ」




 ねーっと仲良さそうに頷き合うロリーとリリス。

 どうやらアストの預かり知らぬ所で色々とあったらしい。

 


「成程」


 彼女達の出会った経緯についてはアストも中々興味深くはあったが、今は戦場の只中である。

 詳しい話はまた今度聞こうと心に決め、アストは早速ヨミからの手紙を読む事にした。




「それじゃあロリー、ヨミから預かった手紙を見せてくれる?」

「いいよ」



 作務衣をごそごそとまさぐり無事に手紙を取り出すロリー。

 アストは少女から手渡された手紙を丁寧に開き、内容を隣のリリスと共に確認する。



「……これは!?」





 果たしてそこに書いてあったのは――――。








こんな事がありましたin異世界サルワティオ運営本部ヴィーケンリード邸



リリス「ふんふんふーん♪ きょうのご飯はなーにっかなー♪」


(リリス、うきうき気分で廊下をスキップ)


リリス「ん?」



(リリス、天井の蛍光灯にぶら下がるクレイジーな幼女を発見)



リリス「何をやってるのだ?」


ロリー「なまけものごっこちてたら降りれなくなっちった」


リリス「何故蛍光灯でそんな事をしようと思った!?」



(リリス、クレイジーな幼女の発言に圧倒される)



ロリー「もち良かったら助けてくれるとありがたいの」


リリス「う、うむ。そこへ至る前の経緯について色々聞きたいところだが、とりあえずあいわかった。ていっ」



(リリス、華麗なジャンプで幼女を救出する。素のスペックからして脳筋ゴリラ)



ロリー「ありがとう見()らぬお方。わたしはロリー。『タ』はいらないのでつけないでほちい」

リリス「? よろしくなロリー。私はリリストラ・ラグナマキア。気軽にリリスとよんでくれ」

ロリー「了解ちた。リリスは良い人。絶対忘れない。ところで助けてもらったところ大変きょうしゅくなのですが、良ければもう一つ私のお願いを聞いてほちい」


リリス「なんだ?」



(クレイジーな幼女、珍しく眉毛をキリッとさせて、威風堂々とのたまう)



ロリー「うんこちたい!」

リリス「!?」

ロリー「このままじゃうんこがもれてまう!」

リリス「!? !?」

ロリー「このままじゃかつやくきんが崩壊するの!」

リリス「わかった今すぐトイレに行こう!」

ロリー「うんこ!」


 こうして幼女の大切な何かを守るため、『最後の真龍』は廊下を飛んだ。

 ロリーとリリス、二人の美しい友情の始まりの物語である。








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