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第十七話 第一層 その②スローライフ賢者は森を焼き、SSS級オッサン冒険者は光の斬撃を放ち、異世界転生者は隕石を落とす







◆◆◆




 4 異世界ガイゲンシュピァ運営本部司令室









「ふざけるなっ!」



 異世界ガイゲンシュピァの統括神フェヌエラ・ジェンイラスの怒号が鳴り響いた。

 司令室に集まるスタッフ達の視線がフェヌエラに集まる中、当の本人だけは自らが注目されている事に気づかない――――それほどまでに今のファヌエラは猛り狂っているのである。




「話が違うではないか! サルワティオはミニオンが三体の最底辺だったはずだろう!? それが何故、スローンズを二体も保有しているのだ!」

 


 デスクに何度も拳を打ちつけ、鬼の様な形相でモニターを睨みつけるファヌエラ。

 荒ぶる統括神の様子を見かねた女性の通信士が、彼をなだめるべく声をかけた。



「ファヌエラ様、は、発言の許可を」

「……なんだ、申してみよ」

「は、はい。確かにサルワティオはスローンズを二体保有しており、一定以上の奇襲効果があったと認めざるを得ません」

「それで?」

「はい。しかし我々にはコスト六京の【星斬り】が控えております。いかに彼らが上手く立ち回ろうとも、彼女にかなう道理はありません」

「……ふむ」




 顎に手を当て、ねぶるように通信士を見つめ回すファヌエラ。

 胸、尻、腰、足、そして尻を再び見た後顔を眺める。




「君、名前は?」

「ロスカルと申します」

「ロスカル、ロスカルか。実に良い名だ。君の親御さんは中々良い感性をしているねぇ。それでロスカルゥ? 君の発言を要約すると【星斬り】に任せれば安心だと……そう聞こえたのだが、間違いないかね」

「はい。彼女がいる限り我々に敗北はありえません」



 ロスカルの発言を咀嚼するようにうんうん、と頷くファヌエラ。

 


「つまり君は奇襲の尻拭いを【星斬り】に任せる事が私の安心に繋がると、そう考えたわけだね」



 なぞるように彼の指が彼女の髪の毛を這い回る。

 そして




「ふ・ざ・け・る・な」





 充血した瞳が怒気を孕んで威圧する。

 ロスカルはここに来て自らの失態に気づいたのだった。




「す、すいませんファヌエラ様、私、決してそんなつもりじゃ」

「否、否否否いないないないないないないないなぁ! 貴様は確かにそう思ったのだ! 【星斬り】に、ヒミングレーヴァ・アルビオンに委ねれば全て問題ないとォ、そぉううう、思ったのだぁああああああああ!」





 獣のように吠えるファヌエラを止める者は誰もいない。

 何故なら司令室に待機する誰もが少なからずそう思っていたのだ。



「間違っている! 間違っているぞ貴様、いや貴様らかぁ? いいか良く聞け、これは我らとサルワティオの戦だ。相手は負けっぱなしの最底辺、対して我らは至高天を目指す誇り高き存在だ!

 その我らが奇襲を受け、あまつさえ【星斬り】に尻を拭って頂くような結果になれば、どうなると思う!? 間違いなく舐められ、けなされ、見下されるぞ!

 貴様らはその屈辱に耐えられるのか? 私は耐えられん、『最底辺の連中にすら【星斬り】の助けなくしては勝つことのできない弱い世界』等と嘲笑われるなど断じて耐えられん!」




 ファヌエラの言葉は矛盾に満ちていた。

 そも、【星斬り】がいるからと戦力の大半を攻めに回したのはファヌエラである。

 そも、『光輝の(ノーライトノー)(ライフ)』の構成をサルワティオに在籍する三人のミニオンに焦点を当てた造りにしたのはファヌエラである。

 そも、恐らくは一番慢心していたのは他ならぬファヌエラ自身である。




 そんな彼が【星斬り】に尻を拭われるような結果を良しとしないと怒るのは著しく説得力に欠けると言うものだ。



 けれど一方で、最も油断し、最も慢心していた彼の焦燥が司令室の空気を一変させたのもまた事実である。

 戦いが始まってなお、どこか弛緩していた司令室の面々の面持ちは、彼の一喝によりすっかり張りつめたものになっていた。




「司令室の諸君、そして『光輝の僕』に構える番人達よ! 決して【星斬り】に委ねようなどとは考えるな! 自分達の手で侵入者を撃退すると固く誓い、全力以上の力を以て事に当たれ! ガイゲンシュピァの気高き沽券は、諸君らの活躍にかかっている!」




 爆ぜるような承諾の言葉が、司令室全体に鳴動した。

 これに気を良くしたのか、はたまた叫ぶ事でいくらかストレスが和らいだのか、ともかくファヌエラは幾ばくかの冷静さを取り戻したようで、次に彼の口から放たれた言葉は普段相応の声色に包まれていた。




「君、サルワティオ攻略組の映像を拡大して見せたまえ」

「はっ!」





 覇気に満ちた青年通信士が、複数あるモニターの中からサルワティオのダンジョンの様子をピックアップし、その映像規模を拡大する。




「これは……!」





 ファヌエラが食い入るように見つめる映像の先にあったものは―――――。









◆◆◆






 5 異世界サルワティオ陣営謹製重層位相領域『烏合の王冠(クロウ・クラウン)』第一層ノルティラス大密林






 白い岩肌、木々の茂る巨腕、動く度に揺れる大地、雲に隠れて見る事すら敵わないその全容。


 古代サルワティオにおいて祖霊と人を結びつける神聖な地として崇められたノルティラス大密林には、規格外の巨躯を誇る山嶺のゴーレムが、のしりのしりと歩いていた。



 それはかつてアスト・フェアーとリリストラ・ラグナマキアが苦戦を強いられた地獄のチュートリアルの再現――――という訳ではない。



 最大にして絶対の違い、それは歩くゴーレムの数が五十機にも昇るという点にある。




「最大の関門になるとは思ってたが、まさかこれ程とはねぇ」



 

 煙草をふかしながら、ガラハッド・エグゼズは苦笑を浮かべた。

 


 ダンジョン×ダンジョンズにおいて防衛側は、侵入者への障害物をコストゼロで設置する事ができる。

 例えばガイゲンシュピァが自陣のダンジョンの第一層に用意していたモンスターの大群は、事前に培養していた存在であり、それを階層に放っただけのものである為コスト消費に含まれてはいない。

 無論、何でもかんでもコストゼロというわけにはいかず、強さや能力の特殊性を加味し、厳しい連合のチェックをすり抜ける事でようやく障害物として認定されるわけなのだが――――




「隊長、あれは」



 軍服に身を包んだ几帳面な少女ライザに尋ねられたガラハッドは顎先で小さく頷いた。



「信じたかねぇが、あのデカイのは全員トークン、つまり動く障害物と考えた方がいい。どれだけの準備期間で作られたかしらねぇが、あのゴーレムの総勢、相当ヤバ――――」




 続く言葉をガラハッドは言う事は出来なかった。

 彼のバリトンボイスをかき消すほどけたたましい号砲がノルティラス大密林に放たれたからだ。

 五十のゴーレムから一斉に放たれた岩の砲弾は、まるで豪雨のような勢いでガラハッド達の拠点に襲いかかる。

 


「散れお前ら!」




 ガラハッドの命令に従い、格自散開する七人のミニオン。

 新人の中でも特に直接戦闘に優れたものが集められた今回のダンジョン攻略班は、最低でも亜音速のスピードを保ちながら岩の雨が降り注ぐ密林を駆け抜けていく。




「隊長、指示を!」




 ライザに促されたガラハッドは迫りくる岩の砲弾を拳の風圧だけで破壊しながら何かを言いかけ、そして首を振った。




「あー、悪いがさっきも言ったようにウチの神様の指示で俺はあんまり動けない。とりあえずお前らで何とかしてみろ。まずくなったら俺も加勢する」




 自分で言っていて虫唾が走るほど身勝手な理屈を部下達は困った顔で首肯し、そして各々が独自判断で敵の攻略に取りかかった。





「あー、もうマジでこういう目立つ事したくないんだけどなぁ」





 そう言いつつも一番槍で行動に移ったのは【隠遁賢者】イフ・スローラ。

 先天的に授かった莫大な魔力と高名な魔術師たちの英才教育によって若くして賢者の地位を得たスローラは、しかし持ち前の目立ちたくない精神から波乱万丈な人生を良しとせず、老衰で亡くなるまで決して歴史の表舞台に立つ事はなかった。

 だが彼の叡知と困った人を見捨てておけないお人よしな気質は度々国家の危機を救い、ガイゲンシュピァの影の偉人として多くの人に敬われたという。



 そんな彼が短い詠唱で放出した魔術は炎の嵐である。

 これで目立ちたくないとか嘘だろと突っ込まずにはいられないほど派手で鮮烈な焔の渦は森林を焼き払いながら、ゴーレムの大軍を燃やしていく。




「おいおい、それは幾らなんでも派手すぎるってもんでしょうが。いやー、そのノリおじさんにはキツイなぁ」





 等と言いつつ家屋の柱ほどもある大剣を軽々と振りまわす四十路男の名はエスト・リプル

 【遅咲きの大輪】と称されるSSS級の冒険者だ。

 彼は元々最底辺の冒険者として糊口(ここう)をしのぐ日々を送るだけが精いっぱいのうだつのあがらない男であった。

 しかし年が四十を過ぎた頃、日銭を稼ぐために受けたとある依頼(クエスト)を境にエストはそれまで想像だにもしなかった困難と栄華の道を歩むことになる。

 光の聖霊王の娘を名乗る少女との出会い、神が鍛えたとされる神剣ヴァーデスハイトの入手、そして悪食王ブーデローヤの討伐等まるでおとぎ話の勇者のような活躍を遂げた彼はいつしかSSS級の冒険者として大陸中にその名を轟かせた。


 そんな彼が振るう剣ヴァーデスハイトの威力はまさに強力無比。

 山よりも巨大なゴーレムから繰り出される岩の砲弾を剣から放たれる光の刃で烈断しながら着実にゴーレムに近づくエスト・リプル。



「とりあえず、一丁上がりかな」




 そして一閃。

 光の聖霊王の加護を受けた神剣ヴァーデスハイトの光刃は、見事ゴーレムの下半身を断ち切った。



「さぁって次々、と――――ってえぇ……?」




 エストが次の獲物に向かおうとした瞬間、先程切り裂いたはずのゴーレムが上半身と下半身をそれぞれ生やして立ち上がり、二つに分裂した状態で【遅咲きの大輪】に襲いかかって来た。





「あぁ、もう疲れるねぇ!」




 大剣から光の刃を放出しながら音速起動で宙を駆けるエスト。

 今度こそ敵を根絶させるべく力を振りしぼるが、その前に天から巨大な流星が飛来した。



 周囲を巻き込みながら大爆発を引き起こす隕石の一撃(メテオストライク)

 味方すら巻き込みかねない高威力の範囲攻撃を行った人物は、口に手を当てながらキョトンとした顔で辺りを見回していた。





「はわわわわー、もしかしてワタシー、また何かやってしまいましたかー?」





 薄桃色のツインテールの少女シクテアス・マホーンは自身の強大な力を自覚出来ていないのか、不思議そうに小首を傾げる。

 彼女は地球からガイゲンシュピァにやって来た異世界転移者だ。

 神様の手違いで早くに亡くなってしまったマホーンは、そのお詫びとして自分のイメージしたものを具現化出来る想像召喚魔法と、異世界でも使えるスマートフォンを手にガイゲンシュピァに様々な革新をもたらした。

 少々世間知らずで常識ハズレな所はあるが、純真で天然な彼女はその力もあいまって様々な奇跡と発明をもたらし、またスマートフォンのなんでもwikiを使って未開の原住民に文化を啓蒙する等沢山の慈善事業にも取り込んだ。

 そんな彼女についた異名が【単独善幸天使(オートマタドール)】。純真な彼女にぴったりのあだ名である。




 それぞれ一癖も二癖もあるガイゲンシュピァのミニオン達。

 そんな彼らの快進撃を見ながらガラハッドは訝しげに顔を歪めた。





(手ごたえが無さ過ぎる(・・・・・・・・・))





 ミニオン七人にスローンズ一人の大軍勢。

 対して向こうは数十機の巨大ゴーレムを操る一人のミニオン。

 常識的に考えればこちらの優勢は順当な結果であり、今の状況はさして珍しいものでもない。




(本当にそうか?)





 データを調べた限り、カルバオウルは航空戦力に弱いという致命的な弱点こそ抱えているが地上戦では無類の強さと汎用性を持つゴーレムマイスターである。

 その彼女がこと地上戦において同格のミニオン達相手にここまで一方的にやられるものだろうか。




 嫌な予感を覚えたガラハッドは近くでゴーレムを粉砕していたライザに声をかける。




「ライザ! この戦況をどう見る?」

「敵が弱すぎます! 後何か誘われているような息苦しさを感じます!」




 戦術眼に長けたライザの発言に、ガラハッドはますますその疑惑を深めた。




(狙いはなんだ? 再生と分裂だけが取り柄のデカブツを倒させて何の利点がある)




 ガラハッドが周囲を見渡して敵の意図を探っていると、イフとエスト、そしてマホーンが空高く上昇し、それぞれの得意技で地上のゴーレムを一網打尽にしようと動いている様子が見て取れた。





「航空戦力に弱い敵を空から一斉に叩く作戦ですね。決まれば大きな戦果が期待できそうです」

「……まてライザ」




 軍服の少女の言葉がガラハッドの脳内にはびこる嫌な予感を膨らませていく。




「どうしてイフ達はあんな空高く昇りあがったんだ?」

「ですから敵ミニオンは航空能力に乏しく、簡単に制空権を取れるからで……」

「じゃあどうして敵はみすみすやつらを空に上げた? いや、言い方を変えよう。どうしてイフ達は群がるゴーレムの包囲網の中、あんな隙だらけの上昇飛行に踏み切った?」

「……! 隊長、まさか」




 ガラハッドは歯を強く噛みしめながら頷く。




「数が多く、巨体で、再生能力と分裂能力持ち、だが一方で音速起動持ちなら楽々攻撃を避けられて、こちらの攻撃は当て放題。……随分やっこさんの作るゴーレムとしてはショボいじゃねぇか」




 カルバオウルの操るゴーレムの厄介な点はその対応力の高さである。

 敵の攻撃の種類に合わせ、それに見合った魔術結界を展開し、次々と有効打を潰していく――――元々の耐久力もあいまって、彼女のゴーレムはスローンズクラスの攻撃すら耐えうる程の頑強さを誇ると言うのがデータで観た彼女の客観的なスペックだ。




 そのゴーレムが量産型とは言え、こうも一方的にやられるだろうか?

 更に言えば、自身の鬼門である空への進出をこうもあっさりと許すだろうか?





「イフ達を止めるぞライザ」




 結論に至ったガラハッドは、統括神ファヌエラより賜った命令など知らぬとばかりに勇壮に駆け抜け




「嘘だろオイ」

 




 そして直後に自身の行動が一手遅れたことに気づくのだった。


 天空、それもイフ達のいる空域の遥か上空にその砲門はあった。

 まるで空に巨大な穴が空いたかのと錯覚させるかのような大きさの円筒、そしてそれを支えるのは――――




「隊長」

「話は後だ! とりあえず俺に掴まれ!」

「はっ!」




 ライザを回収し、その足で地上部隊の面々の確保に急ぐガラハッド。

 彼の胸中には、してやられたという後悔と敵への惜しみない賞賛が湧き上がっていた。




「あれは一体!?」

「あぁ、俺も詳しくはわからんがな、恐らく『飛ばないカルバオウル』が飛んだんだよ」




 カルバオウルは飛ばない、飛べないのでは無く飛ばないのだ――――サルワティオと戦った事のある異世界のチームが口ぐちに言っていた言葉だ。

 能力的な問題ではなく在り方としてカルバオウルは空を忌避する。

 故に彼女の絶技が及ぶ範囲は地上のみであり、一度制空権さえ握っていればただ大きいだけの的になる。

 それがセオリーであり、またガイゲンシュピァの運営本部が下した結論でもあった。



 だがその結論は大きく、そして致命的に間違っていたとガラハッドは理解した。



 空に現れた巨大な砲門、それを支えるのは彫刻で作られた偉丈夫の様な神秘的な相貌を持つ白きゴーレム。



 周囲のゴーレムと比較しても二回り以上の大きさを持つ白き巨人の名は“アヴァランシェ”。

 稀代のゴーレムマスターが特別な想いを込めて作った最高傑作だ。




「エメスコード:{ステルス完全解除並びに全機能強制起動(アウトラス)}オーダー。さぁアヴァランシェ仕事の時間だ」




 主の言葉に従い、アヴァランシェに施されていた迷彩機能がかき消され、同時に掲げた巨大砲門に莫大な規模のエネルギーが収束されていく。




「これは!」

「……まずいねぇ」

「はわわわわー、どうしましょう」




 急ぎ音速起動でその場を離れようとする飛行組。

 だが遅い。

 気づくのも遅ければ、音速程度のスピードでは物理的にも遅すぎる。




 砲門より放たれた渾身の破壊光線は、逃げるイフ達をまとめて飲みこみ、断末魔すら上げる暇も与えず焼却した。

 音を置き去りにした熱と光の絶対審判は、燃え盛るノルティラス大密林に更なる災禍をもたらしながら尚も止まらず進んでいく。

 稀代のゴーレムマイスターの一世一代の奇襲は華麗かつ鮮烈に成功を収めたのだった。










『カルバオウルゥウウウウウウウウウウ! やった、やったよ! 完璧に上手くいった! 最高だよぉおおおおおおおおおおお!』





 コクピット入信された糞神(ヨミ)の音声を辟易した顔で聞き流しながら、カルバオウルはアヴァランシェと、そして地上に設置された無人ゴーレム達への細かい指示を調律していく。




『今の一撃で確実に三人はやっつけたよ! ミニオン一人で三人やっつけちゃったんだよ! すごいすごいすごい凄ぎるよカルバオウル』

「黙れそして今すぐ死ね。後三人くらいで喜ぶんじゃないよ。サルワティオの存亡がかかってるんだ。ここで敵を全滅させるくらいの気概でやらなくてどうする」

『ヒュー、ストイックゥウウウウウ。そんな所も私は大好きだぜカルバオウル』

「死ね」



 投げかける言葉はいつにも増して剣呑である。

 理由は勿論カルバオウルが心の底から忌避している空への飛行――――というのも当然あるのだが、実はそれだけではない。



 カルバオウルが不機嫌なより深刻な理由

 それは……




『いやー、やっぱりいいね共同開発(・・・・)っていうのはスペックも向上したし量産体制も整った。今後は更に多機能化させたり特化型出したりうーん夢がいっぱい広がるね』



 これである。



 今回の作戦に辺り作成した量産型アヴァランシェとそしてカルバオウルが直接操る改良型アヴァランシェVer航空決戦仕様は、カルバオウルと、そして他ならぬヨミとの合作である。

 しかも業腹な事にこのゴーレム軍団は、基礎設計こそカルバオウルのゴーレム製造技術を利用しているものの、その多くはヨミのインチキじみた発想力と技術力の結晶で成り立っている。

 稀代のゴーレムマイスターですらアヴァランシェクラスの製造には月単位の時間を有すると言うのに、あの糞神は四割弱のスペックとはいえ五十機の量産を神昌も使わずに完成させ、更には本家アヴァランシェのスペックすら目に見えて向上させやがったのだ。



 許せるわけがない。

 認められるわけがない。

 激怒ぷんぷん丸どころではない怒りと嫉妬の焔を、まるで活火山のようにメラメラと燃え盛らせる古代の賢人の姿がそこにはあった。




『でもさでもさ、やっぱりこれはカルバオウルの功績だと思うんだよねー』



 こちらの心の内を見透かすかのようにそうほざくヨミ。



「黙れ殺すぞこの害虫」



 すかさず発せられるカルバオウルの毒を『いやいやいや』と難なくかわしながら、ヨミはいつもの調子で会話を続ける。




『いや、だってさ。これだけ毛嫌いしている私に共同開発を申し込んだのも、そして空からの奇襲を発案したのも君だろう? 聞いた時にはさしもの私も驚いたよ、まさかあのカルバオウルがここまでするなんて、ってね』



 ヨミの台詞は事実である。

 共同開発を提案したのも、そして制空権を握ったと思わせた相手を更に上空から極大範囲攻撃で攻め立てる作戦を発起したのもカルバオウルだ。





『どういう心境の変化かと思ったよ。自分の在り方にこだわる君がここまで尽くしてくれるなんてさ』

「世界の危機ともなれば僕だって多少は折れるさ」




 それに、と付け加えた後カルバオウルは少しだけ呼吸を置いて彼らの顔を思い出していた。

 馬鹿で無謀で己の可能性を決して疑わない二人のルーキー。

 生意気で、向こう水で、自由な彼ら





「【星斬り】を倒そうなんて大バカがいるんだ、それに比べればボクの無茶なんて可愛いもんだろう」




 そんな彼らにあてられたなんて口が裂けても言えないカルバオウルを知ってか知らずかヨミはしきりに『可愛いなぁ』と褒め称えた。



「うるさい気が散る。まだ戦闘中なんだ、いい加減静かにしてくれ」

『はいはい。もう、カルバオウルは恥ずかし――――』




 無理やりヨミとの接続を切って、カルバオウルは作業に集中する。

 一時的に枯渇状態にあったアヴァランシェの動力エネルギーの充填もおしゃべりの合間に済ませておいた。


 八人いた敵は三人減って残り五人。




「さぁ、もうひと仕事といってみようか」











 灼熱の大地と化したノルティラス大密林、そんな森の惨状よりもなお熱した怒鳴り声がガラハッドの脳天を貫いた。





『どういうことだガラハッドォオオオオオオオオオオオオオオオ! 何故貴重なミニオン三人をみすみす見殺しにしたぁあああああああ!』




 怒号の主は彼らの統括神であるフェヌエラ・ジェンイラスだ。

 祝福カード【神話】の使用により一時的にファヌエラと繋がったガラハッドは、理不尽とも言える上司の(そし)りをうんざりした顔で受け止めている。




『お前というスローンズがおりながら、どうして、みすみす、敵の攻撃を、防げなかったんだぁああああああああ!』

「いや、そうは言いますがね。ありゃ敵が見事だったとしか言い様がありませんよ。あの巨体を隠すステルス迷彩もさることながら、まさか在り方そのものを克服してくるなんて思いもしませんでしたわ。連中をその程度と高をくくってたウチらの完敗ですよ」

「言いわけなぞ聞きたくもないわ! ただでさえ未確認のスローンズが二体も攻め込んできて大変だと言うのにお前達までその体たらくでは今後のガイゲンシュピァの進退は決まった様なものだ」



 どうやら向こうは向こうで大変らしい。



(スローンズが二体……ゴーレムの奇襲といいずいぶん思い切った事をするな連中は)



 胸ポケットから煙草を取り出し、まとめ上げた後ろ髪をかきながらガラハッドは辺りの様子を見まわした。




 青空の上から砲門を構える巨大ゴーレム、燃え盛る密林、地を這うのは山嶺サイズのゴーレム軍団。

 まるで地獄のような光景が視界一面に広がっている。



「んじゃ、とりあえずここは俺が片付ければいいっすか」

『当然だ! 条件はとうに満たしている! 連中をこれ以上のさばらせてたまるものか!』

「へいへい」




 そう言ってガラハッドはファヌエラとの【神話】を切り





「つーわけでここから先は俺が相手だ」




 煙草に火をつけながら高らかに宣言した。

 



 地上を徘徊する五十機の山嶺ゴーレム達が一斉に爆裂したのはその直後の事である。

 












ユニット紹介劇場!



・【隠遁賢者】イフ・スローラ


 スローライフ系賢者。ミニオン。コスト3600

 魔術は一通り使えるが、目立ちたがらないシャイボーイ。

 得意魔術は炎系

 典型的な魔術師だけど亜音速で動ける。

 今回の死因:天空からのごんぶと破壊光線



・【遅咲きの大輪】エスト・リプル


 SSS級おっさん冒険者。ミニオン。コスト2800

 多分追放とかざまぁとか一通り経験してる

 得意技は神剣ヴァーデスハイトからの光の斬撃ぶっぱ

 おっさんだけど超音速で動ける

 今回の死因:天空からのごんぶと破壊光線




・【単独善幸天使(オートマタドール)】シクテアス・マホーン


 スマホ使う系異世界転生者。ミニオン。コスト4500

 魔術も近接戦闘も一通りこなすオールラウンダー

 隕石召喚は魔術によるもの。流石にスマホから召喚は出来ない

 シクテアス・マホーンなんて酷い名前だが、アテクシ要素は少なめ。どっちかっていうとキョトン系

可愛らしい少女の姿だが、音速機動が可能

今回の死因:天空からのごんぶと破壊光線





リリス「記念すべき初キャラ紹介がなんでこいつらなのだ!?」

ヨミ「いや、多分もう出てこないし。ここ逃したら絶対誰コイツってなるからね」

リリス「えぇ……」

ヨミ「基本的にこのユニット紹介コーナーは、ここ逃したらしばらく出番ねぇなってユニットをピックアップしていくからそのつもりでよろしくね!」

リリス「いやなコーナーだ!」




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