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第十六話 第一層 その①広域殲滅特化型鎧騎士のAoE






◆◆◆











【ダンジョン×ダンジョンズ サルワティオVSガイゲンシュピア戦基本ルール】







①制限時間は無制限。先に敵のダンジョンの最終階層に到達し、ダンジョンを守る守護者を倒したチームの勝利とする。



②両陣営は、総コスト十万ポイントの範囲内でユニットの召喚、及び祝福カードの使用が認められている。ただし最終階層を守る守護者のみコストはゼロとして扱われる。



③本試合においてスローンズクラスのユニットの出場は、各陣営二体までとする。その他のクラスのユニットについてはコストの範囲内で自由に出場して良い。



④両陣営の守護者が共に敵ユニットを全滅させた場合、又は守護者が同時に倒された場合は連合より派遣された三人の審査員の合議で判定を行う。審査員の決定は連合の決定であり、いかなる不服申し立ても認められない。



⑤試合の決着後、両陣営は速やかに契約を履行しなければならない。



⑥両陣営はダンジョン×ダンジョンズの理念である『困難への挑戦、護界の精神、力の証明』を常に心がけ試合に臨むこと。










◆◆◆










 1 連合直轄異世界区域コンメディア上位位相第七地区アケロン








 試合開始早々、アケロンスタジアムの観客達は急などよめきに襲われた。



「えっ? 嘘だろ? データと違くね」

「でも表記はスローンズだぞ」

「どゆこと? ミニオンしかいないんじゃなかったん?」



 どよめきの原因はガイゲンシュピァのダンジョン『光輝のノーライトノー僕ライフ』に現れた二人の侵入者にあった。





「これは一体どういう事でしょう!? ガイゲンシュピァのダンジョンに現れたのは二人のスローンズです! 最大戦力がミニオン三人という触れ込みだった異世界サルワティオからまさかスローンズが現れようとは!」




 観客の気持ちを代弁するように驚いてみせたアナウンサーは、そのまま解説席の隣に座るタヌキの様な眼鏡男にマイクを向けた。




「特別ゲストのタヌキンさん、これは一体何がどうなっているのでしょうか!?」



 マイクを向けられた眼鏡の大柄な男、タヌキンはにこやかな笑みを浮かべながら、アナウンサーの質問に答えた。




「はい、どうもータヌキンでーす。いやぁイキナリやってくれましたねぇサルワティオ。まさかスローンズを二体出してくるとは考えてもいなかってですよ。移籍の情報はなかったし、何よりこんなユニット観た事ありませんから恐らく彼女達はサルワティオから輩出された存在なんでしょうね」

「つまりこの二人はサルワティオが土壇場で引き当てたユニットという事でしょうか!?」

「そう考えるのが一番自然だと思いますよ。ついてますねぇ」



 タヌキンの解説を聞いた観客達は一斉に歓声を上げた。






「すげぇ、すげぇよ! こんな隠し玉持ってたのかよ!」

「奇襲としては満点だな」

「序盤から面白過ぎぃいいいい」



 熱狂する観客達。

 そんな彼らを尻目に橙色の髪の美女スーツェは至極冷静に状況を推察していた。



「何を考えているのかしら、彼ら」

「ん? そりゃぁ何も考えずに騒いでんだろ。むしろちっとも盛り上がってない姉ちゃんの方が、この場じゃ浮いてんぜ」



 隣でビールをあおるグラサン金髪男の意見をスーツェは頭を振って否定する。



「そっちじゃないわ、サルワティオの連中よ。最大戦力を全て敵陣にぶつけるなんて愚の骨頂よ」

「んなことねぇだろ。防御を捨てて敵陣にカチコミかけるなんて最高にロックじゃねぇか」




 今日会ったばかりの男の頭の悪い発言にスーツェは大きな溜息を漏らした。




「……えっと、貴方名前は?」

「キングだ。人は俺のことをキングと呼ぶ」

「そう、キング。残念だけれど貴方の意見は成立しないわ」

「あん?」




 とても賢そうには思えない自称キングに向けて、スーツェは出来る限りわかりやすい説明を試みた。




「貴方の言う通り、確かに攻めを重視した速攻型の戦略が上手くいく場合もあるわ。けれどこの試合に限って言えば下策中の下策よ」



 視界を彩る複合現実のチャンネルをガイゲンシュピァのダンジョンの最奥に合わせると、スーツェは何もない空中を人差し指で叩いた。

 すると彼女の眼前に『霊子ネットワークメニュー』と書かれた文字映像が浮かびあがり、スーツェはそれを慣れた手つきで動かしていく。




『視界の共有化申請を行いました』

『視界の共有化申請が受諾されました』




 立て続けに表示されるメッセージ。

 申請が上手くいった事で、スーツェと自称キングの視界が無事共有化されたのだ。



「彼女が守護者である以上、どう頑張ったって勝ち目はないわ」




 二人の視界に映るのは真白な空間に佇む絶世の美少女だった。

 真白の衣を纏った白髪の剣豪【星斬り】ヒミングレーヴァ・アルビオン。

 絶対にして不倒の守護者である少女は、一分の隙なくそこに在った。



「サルワティオの奇襲は上手くいったわ。もしかしたらガイゲンシュピァの連中よりも早く最終階層まで到達するかもしれないわね」



 でも、そこまでだ。

 彼らは決してダンジョンを踏破する事が出来ない。

 もし仮に奇跡や幸運、類まれなる偶然が幾億と重なり起ころうとその程度で・・・・・どうにかなる相手ではないのだ。




「折角獲得したスローンズよ。二人とも守備に回していれば少なくとも負ける可能性は大きく狭まったはず。そのチャンスを捨てて最大戦力をむざむざ死地に向かわせるなんて、最早わざと勝ちを捨てているとしか思えないほどの暴挙だわ」



 同じユニットとして、彼らを無駄死にさせるような戦略を取るサルワティオの神の愚かさがスーツェには許せなかった。

 あり得ない勝ちを夢見て特攻をかけるのは勇猛ではなく蛮行である。

 それがサルワティオの神にはわからないのだろうか。



「俺は姉さんの意見には反対だぜ」


 ビールをあおりながら自称キングは事もなげに言ってのけた。



「神ってのは傲慢でどうしようもない奴ばかりだが、それでも自分の世界の連中のことに関しちゃ全知だし全能だ。そんな奴が必敗の采配なんてすると思うか?」

「普通ならそうね。けれど」

「けれどもヘチマもねぇよ。姉さんの言うとおり勝ち目がゼロだっていうなら連中も大人しくスローンズを守護に回しただろうさ。連合への体裁を整えるために多少の攻勢をアピールしたかったとしても精々一人が限度だろう」



 それが上限いっぱいの二人である。

 何もないはずがないとキングは断言した。




「少なくともあの采配には明確な意図がある。ダンクロはごっこ遊びじゃねぇんだ。負けたら相応のペナルティを支払わなけりゃならねぇ状況で守備じゃ無く特攻を選択したって事は勝ち筋の一つや二つは用意してんだろうよ」



 意外にも筋の通った意見をぶつけてきた金髪グラサン男の言葉にスーツェは少しだけ驚きを覚えた。



「貴方、結構マトモな感性しているのね」

「なんだい姉さん、インテリジェンスな俺の魅力に惚れちまったのか? だったらこの後食事でも――――」

「しないわよ」



 迫るグラサン男の顔を力強く押しのけて、スーツェは複合現実のチャンネルを再びガイゲンシュピァの第一層に切り替えた。



 風吹きすさぶ荒野を歩く二人のスローンズ。

 漆黒の甲冑に身を包んだ鎧騎士と、頭に角を生やした凛々しい女性。

 ほんの少しではあるが、スーツェは彼らの動向に興味を持ち始めていた。









◆◆◆








 2 回想 異世界サルワティオ運営本部ヴィーケンリード邸執務室






 話は十日程まえまでさかのぼる。




「今回の決戦、僕とリリスさんの二人で攻めるべきだと思います」



 リリスの無茶ぶりに乗っかったアストがほざいたのはそんなトンデモ意見だった。



「「はぁっ!?」」




 ダムルードとカルバオウルの声がハモリ合い、執務室に重厚なハーモニーが生まれた。



「おいアスト、お前自分が何を言ってるのかわかってんのか。お前さんの考えた案ってのは戦じゃ絶対にやっちゃいけねぇやつだ。その特攻は必ず失敗するぞ」

「いくらなんでもその作戦は否定させてもらうよアスト・フェアー。君の作戦は全ての勝ち目を捨てた上で敗色まで濃厚にしてしまう愚策中の愚策だ」




 矢継ぎ早に放たれる仲間達の反対意見。

 彼らの言はもっともであり、百人が百人頷くような正論だった。




「お二方の意見はわかります。けれどそれは僕達が【星斬り】に勝てないという前提での話でしょう?」



 立て続けにほざかれるアストの弁。

 先程とは打って変わり、誰も彼もが静かになった。

 そして揃ってアストの事を白けた目で見つめている。


 唯一の例外がリリスだ。

 彼女だけは目を輝かせて、アストの話を聞いている。

 どうやらアストが無茶ぶりに乗った事が嬉しくて仕方ないらしい。

 羞恥と申し訳なさでアストは何だか無性に死にたくなった。



「あのなぁアストよぉ、お前自分が何言ってるのかわかってんのか」



 ため息交じりに口火を切るダムルード。

 その隻眼には心底からの失望が見て取れた。




「わかってるつもりです」

「……そうか。ちなみにアスト、お前らのコストってどれくらいか知ってるか」

「二万ポイントと聞いています」

「だな。お前もリリスも二万ポイント。スローンズの最下限だ」




 ダンジョン×ダンジョンズにおけるスローンズのコストは二万を最下限スタートとし、その後試合の功績に合わせてコストが増大していく。




 無論在籍している異世界の所属リーグや本人の能力如何では最初から膨大なコストを課せられる場合もあるが、一般的なスローンズであれば登録されたてのコストは一律二万ポイントだ。

 これは最底辺の月天リーグにおいてもスローンズが使えるようにとの配慮であり、おかげでアストとリリスもこうして無理なく初陣に参戦出来るのである。



「で、こっからが本題だ。アスト、お前【星斬り】のコストを幾らだと思って見積もっている?」



 ダムルードの問いにアストはしばらく思案し、それから自分の想定したコストのおよそ十倍の値を口にした。



「一千万、いや二千万ですか」


 言っていてアストは絶望的な気持ちに襲われた。

 一般人に近い最下位クラスのユニットであるフォロワ―と自分達のコスト差ですら一万と数千だ。

 それがもし、一千万単位の差であればどれほど隔たりがあるのだろう。

 【星斬り】との想像すら出来ない格の違いにアストは頭を埋めたくなった。



 しかしこれはあくまでアストの妄想である。

 現実はそんな生ぬるいものではなかった。





「【星斬り】のコストはな――――六京だ」



 悲痛な面持ちで告げられた驚天動地の十七桁。

 あまりの数の多さにアストは思考を凍結させ、へなへなとその場に崩れ落ちた。



「アスト、しっかりするんだ!」






 駆けつけるリリスの声が兜に残響されて聞こえてくる。






 アスト


 アスト


 アスト――――!














◆◆◆








 3 異世界ガイゲンシュピァ陣営謹製重層位相領域『光輝のノーライトノー僕ライフ』第一層


アンヴィロフ荒野










「アスト!」








 リリスの呼びかけによってアスト・フェアーはハッと我に返って辺りを見渡した。




 風吹きすさぶ荒野のど真ん中でなお凛々しく輝く相棒の美貌を眺めながら、アストは自分の意識が過去に飛んでいた事を認識する。





「すいませんリリスさん。ちょっとあの時の事を思い出していました」

「あの時というと作戦会議の事か?」

「はい」



 「あの時」という曖昧過ぎる時間定義に対し、完璧な答えで返すリリス。

 二人のツーカーぶりは今日も見事に健在だ。




「ほら、この荒野って僕達が初めて観た【星斬り】の映像のロケーションに似ているじゃないですか」

「確かにな」



 死後の世界に転生した初日に見せられたダンジョン×ダンジョンズの記録映像。

 そこに映し出されていたラスカイ・コールキンと【星斬り】の決戦も荒野を舞台にして行われていた。




「あの時はまさかご本人と戦う事になるなんて思ってもいませんでしたよ」

「流石はアストだな!」




 リリスの屈託のない笑みに対し、アストは沈んだ声で反論した。




「いや、全然大したことないですよ。というか立案した僕自身が一番驚いたんですからね。何ですか六京って。京なんて単位が個人に対して使われるなんて思ってもいませんでしたよ」




 【星斬り】の数値はアストの口にした想定がままごとに感じられる程圧倒的だった。

 今となっては誰も彼もが勝負にすらならないと言う理由が良く分かる。

 五桁VS十七桁、比べる事すらおこがましい程の戦力格差の開きにはさしものアストもド肝を抜かれたものだ。



「いいや、やっぱり流石だよアスト。だってお前はそれだけの開きがあるとわかっているダムルード達を見事に説き伏せたじゃないか」




 心から相棒を誇るように言い切るリリスの姿にアストは返すべき言葉を失った。


 そう、確かにアストはダムルード達を説き伏せた。

 だからこそ今こうしてアストとリリスは仲良く敵の中枢に忍び込んでいるのであり、それを成果だと言われれば確かにそうだと言えなくもない。




「でも――――」

「ん?」

「いえ、なんでもないです」




 続けて現れそうになった弱気な言葉をアストは懸命に飲みこんだ。




(いけないな。いつまでもウジウジしていたら出来る事も出来なくなってしまう)



 マイナスな方向に行きかけた自身の気持ちを上手く軌道修正して気持ちをきっちり切り換える。




「まぁ【星斬り】の事は着いた時にでも考えます。まずはそれまでの冒険をしっかり楽しみましょう」

「うむ!」






 元気よく頷く相棒から活力をもらい、アストは思考を冒険モードに切り替えた。






「それでリリスさん、ここは何をしたらクリアなんでしょうね」

「ふむ。<到達系>なら、この階層に来た時点でアナウンスがあるはずだからな」

「ですね。だとすると<討伐系>の線が濃厚ですね」

「うむ」




 ダンジョン×ダンジョンズにおける階層のクリア条件は様々だ。

 そしてこのクリア条件は原則として、無視する事は出来ない仕様になっている。

 なぜならこのクリア条件をクリアしなければ探索者は次の階層に進む事が出来ないからだ。




 指定された敵を倒す<討伐系>や目的地点への到着を目指す<到達系>、提示された問答を解き明かす<答察系>といった様々な試練をクリアする事で、探索者は始めて次の階層へ進む事が許される。

 故にクリア条件は絶対であり、そして同時にダンジョンを運営する側もまた、これを必ず提示しなければならない。



「まぁ、わからぬ以上は進んでみる他あるまい」

「ですね…………んっ?」



 その時だった。



「リリスさん」

「あぁ」



 ほぼ同時にそれら(・・・)の気配を感じ取った二人は、即座に臨戦態勢に入った。


 遠くから聞こえてくる生き物の足音。

 巻き起こる土埃。

 そして――――






《第一層アンヴィロフ荒野――――クリア条件:迫りくるモンスターの大群を殲滅せよ<討伐系>》


 茜色の空に表示される蒼白い文言のアナウンス。

 明記されたクリア条件を読み終えると、アストとリリスは背中合わせに向き直りそれぞれ状況の報告を行った。



「地上戦力はゴブリンとコボルド、それに武装したオークの大群、それにトロルにオーガにジャイアント、機動性の高そうなのはダイヤウルフと後はバイコーンに魔馬に乗ったデュラハンが確認できます」

「こっちも凄いぞ。バジリスクにナーガにミノタウロス、あの腐ったのはグールか? おお! あれはライカンスロープ、そしてあの一つ目はサイクロプスか! 空からはハーピーにガルーダ、そして白い貴婦人シルキーが見えるぞ。うむうむ、多種多様なモンスターがこれだけ集まると壮観だな」



 次々と、続々と現れる様々な姿のモンスター達。

 魔物の大群はアスト達を囲むように四方八方から出現し、隊列を組みながらこちらの方へと寄って来る。




「アスト、探知の魔術を」

「済ませました。現在数は九千強。一万には届かない位ですね」




 アストの報告にリリスは短く首肯する。

 種々雑多な魔物達はなおも数を増やしながら進軍を続ける。

 多勢に無勢、おまけに遮蔽物の少ない荒野で取り囲まれたこの状況に、アストは冷静な評価を下した。



「三秒ってところですかね」



 三秒。

 その数字が意味する事を理解してリリスはくつくつと笑った。



「随分と余裕を持ったな」

「最初ですからね。焦らずゆっくり(・・・・・・・)やりましょう」




 言外に九千強の魔物の軍勢に対してこの程度なら三秒もあれば十分だと言ってのけたアストに対し、リリスも異論なく「うむ」と頷いた。



「では私がドンで一秒後にアストがドドンでいいな!」

「タイミングは任せますよ、こっちはいつでもいけますから」




 ドンにドドン!

 擬音を交えた空前絶後に雑な打ち合わせを終えた二人は、示し合わせたように同時に呼吸を整えてから





「では――――」

「――――行くか!」





 一気呵成に動き出した。





「はぁあああああああああああああっ!」






 一秒。

 裂帛の気合と共にリリスが極超音速で駆動した。

 深紅のオーラを纏った最後の真龍が、一筋の光流となって直進する。

 膨大な熱量を帯びた光の奔流は、進行方向に存在する魔物の群れを塵ひとつ残さず滅却していく。



 だがしかし、このミサイルのような破壊力を帯びた突撃は、その実回避行動に過ぎないのだ。




 二秒。

 本命が動き出す。


禍焉(かえん)最弱出力」




 その一言こそが滅びの宣告。

 アストの内側から眠っていたソレが湧き上がる衝動のままに目を覚ます。




「ウゥウ、グルルルヴゥゥウウグワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」






 暗く、昏く、瞑く。

 果ての無い奈落のような黒い躯を軋ませながら放たれる殲滅の咆哮。

 同時に鎧の形質が変異を遂げ、黒鋼の騎士の体は翼の生えた醜悪な獣へと成り下がった。

 角に牙、そしてうねうねとグロテスクに蠢うごめく触手に紅い眦まなじり――――アストの内側より這い出でる死の獣性が全ての生命を貪らんと躍動を始める。




“サァタベヨウ、イマタベヨウ、スグタベヨウ”



 ソレの囁きにあえて耳を傾けながら、アストは膨れ上がった死の欲動を一気に外へと弾き出す。

 刹那、アストの肉体から溢れだした漆黒の波動は、極超音速で周囲一帯を覆い尽くし、ありとあらゆる生命を問答無用に狩り尽くした。


 ただ触れるだけで存在を消滅させる死の業病は平等かつ無差別に何もかもを飲み込んでいく。

 物質界を冒涜する暗黒の侵略者に慈悲はない。

 起動から一秒すら経たない僅かな時間でこの空間を闊歩する数千の命を手中に収めた。




 そして飲みこまれた魔物の大群は、断末魔の叫びすら上げる間もなく




「――――丁度三秒です」



 その存在を、破却されたのだった。




《第一層アンヴィロフ荒野のクリアを確認。三十秒のインターバルの後、生き残った探索者を第二層へ移します》




 空に映し出された蒼白い文言のアナウンスを見て、アストはゆっくりと死の流出を抑えていく。

 十秒ほどで漆黒の災厄は完全に収まり、彼の身体もいつもの鎧兜姿に戻っていた。



「アスト!」



 紅の流星と化したリリスが猛スピードで近づいてくる。

 旋回からの接近、そして着地――――オーラによって制御された彼女の飛行は、その見た目の猛々しさからは想像も出来ないほど静かなものだった。 



「大丈夫か!? 動けるか?」



禍焉(かえん)の影響により黒く枯れ果てた大地に降り立つリリスの表情は一抹の不安を帯びていた。

 無理もない。

 幾らアストの肉体とはいえ、禍焉はかつて彼らの世界を滅ぼしかけた災厄だ。

 自分達の死因でもあるこの黒鎧を、根底から信用する事など例えリリスでなくとも不可能である。




「大丈夫ですよリリスさん。出力も極限まで抑えましたし、僕はこのとおりピンピンしています」


 似合わないマッスルポーズで自身の健在をアピールするアスト。



「そうか、……うむ、ならば問題ない」


 和らいだ表情のリリスを見て、アストもほっと胸を撫で下ろした。



(リリスさんにはできるだけ笑っていて欲しいからね)



 このような問答は、トレーニングでアストが禍焉を使用する度に繰り返し行われてきた。

 けれどアストは一度としてそれを煩わずらわしいと感じた事は無い。

 むしろ、リリスにいらぬ心配をさせている自分自身の不甲斐なさにやきもきする程だ。

 けれどそれはそれ、これはこれである。

 ここは戦場、禍焉の起動と共に発生した様々な精神的モヤモヤは一旦綺麗にリセットして、アストは勢いよく宣言した。




「さぁ、リリスさん! この調子でどんどん進んでいきましょう!」
















リリス 「ところで結局AoEとは何だったのだ?」


ヨミ 「AoEはエリアオブエフェクト、つまり範囲攻撃や範囲効果の略だよん。主にMOBAやカードゲーム周りで使われる用語だね」



リリス「えむおーびーえー?」


ヨミ 「……ふむ。どうやらリリスっちはデジタルゲーム全般について疎いようだね。よろしい。ならばこの天才ヨミちゃんがじっくりネットリその身体にMOBAを叩き込んであげようじゃないか」


リリス 「なっ、ちょっ、えぇっ!?」






 この後めちゃくちゃMOBAした




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