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湖が丘高校の日常  作者: おやじ
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はかなき日常

人間が想像しうる空想は、起こりうる現実である。


「やっべー、遅刻する!!」

彼の名前は卓郎。高校2年だ。今は遅刻している。

学校は8時20分から始まるのに、今は8時35分だ。

自転車をこぎながら、同じ遅刻ならもっと遅れてもいいだろう、

そんな考えを持ちつつ、根はまじめだから汗をかいて急いで来ました!と

雰囲気だけでも出せるようにしなくては、など、いろんなことを考えている。

学校まではあと少し。ちなみに宿題は終わっていない。


キーンコーンカーンカーンキンコンコーン


1限目が終了するチャイムが鳴った。

「はあ、めっちゃ怒られた。」

「卓郎、おめー寝坊した上に宿題してないんじゃ、怒られないほうがおかしいぜ」

友人の邦夫くにおは卓郎の左の席の秀才だ。

頭が良くて、ピアノが得意で、足も速い。なのになぜかバドミントン部に所属している。

「そういえば」

卓郎は教室を見渡した。

貴明たかあきは?」

「しらねえ、駿も来てねえし。あいつらも遅刻なんじゃね?」

邦夫は席を立ち、トイレへ向かった。

1限終わりに大便に行く。彼の毎日の日課だった。

「俺もトイレ。邦夫、昨日のバチ子ディレックスの世渡り見た??」

そういって卓郎も席を立つ。

何気ない、湖が丘高校の朝の風景だった。

しかしその残り時間はわずかであることを、まだこの学校の全生徒は知らなかった。

ある人物を除いては…。


---


「作戦に変更はありません。

0920より、行動を開始してください。」


---


貴明は目覚めた。

185センチある巨体が、畳の上に転がっていた。

彼は自分が道場にいることを悟った。

そして、朝練のあとに自分が眠りこけていたことも。

彼は少林寺拳法部に所属していた。帯は黒い。

乱取りと呼ばれる要するに殴り合いに関して、彼は県下敵なしの腕前であり、同じ年代に練習相手がいないため、大学の練習に参加しているほどだ。

道場は裏門のすぐそばにあり教室棟とは離れている。

教室棟まで行くにはまず、グラウンドの脇を抜け、野球部の部室の横を通り、地下駐輪場を通り過ぎなければならない。

つまり、遠い。

「あああああああああああああああ!!!!」

貴明は叫んだ。貴明の叫びは道場中に響き渡った。

すぐそばの桜の木の上にいたスズメが1羽、飛び去った。

彼はこうなったら、今日は学校を休むかとも考えたが、まずは時刻を確認した。

スマホの画面を見ると、時刻は9時45分だった。

しかし、貴明の目に飛び込んできたのはそれよりも、Yahhoニュースの通知の内容だった。

「速報:湖が丘高校にテロリスト集団立てこもり」

ざわりと、貴明の血がさわいだ。


---


貴明が目を覚ますちょうど15分前。

駿しゅんは野球部の部室でお弁当を食べていた。

彼は遅刻をしたときは、目いっぱいゆっくりすることをモットーにしている。

昼飯であるはずのお弁当を朝食べてしまうことに、何の疑念も抱かないあほでもある。

野球部の部室にはテレビがあった。アンテナもつながっており、これは4年前の先輩たちが数多の戦いを経て取り付けたものらしいが、駿には詳しいことはわからなかった。

テレビを見ながら、お弁当を食べていると、緊急速報が入った。

「うおおおい!みちょパンのおいしい~が見れなかったじゃねえか!」

駿はひいきにしている美人アナウンサーのサービスショットを阻害されたことに激怒した。

しかし、次の瞬間には左手に持っていた箸を落とした。

『現在、湖が丘高校におよそ100名ほどのテロリストが、生徒、教職員併せて300人以上を人質に立てこもっている模様です』

これは、みちょパンどころじゃないぜ…。と駿を何かが駆り立てた。

お弁当を口いっぱいにかき込むと、彼は愛用のグローブとバットを手に、部室をあとにした。


---


2限目が始まる5分ほど前だった。

突然、担任の教師が教室のドアから転がり込んできたかと思うと、その後ろから複数の男たちが入ってきた。

「おとなしくしていれば、危害は加えない。静かに席に座って、指示があるまで待機していろ」

教壇の上に迷彩服を着て、銃を引っさげた男が複数人いた。

教室の出入り口にも2人ずつ同じ格好をした男がおり、出ることは不可能だった。

軍事オタクの渋谷丸が思わず叫ぶ。

「すっげー!!11.4㎜短機関銃M3、通称グリースガ」

瞬間、破裂音がし、飛び散る赤いしぶき。

短い悲鳴の後、人間が倒れる音だけが教室に鈍くわたる。

「脅しではない。」

銃口から煙を吐きながら、男は静かに教室を見渡した。

邦夫は心底、大便を済ましておいてよかったと安堵していた。

もし大便をする前にこの事態に巻き込まれていれば、おそらく漏れていた。

最悪だ。どんな状況であれ、大便を漏らすことは高校生活において最悪の事態。

ましてや、秀才たるこの国木田くにきだ邦夫が!!!

渋谷丸は幸い、高校の中で一番体脂肪率の高い男だ。腹部をかすめた程度では死なないだろう。

邦夫は冷静に状況を分析し、最適の行動を考えた。

「今はまだ、待つしかない。チャンスは訪れるはずだ…!」

ふと、窓際を見る。

右隣の席に卓郎の姿はなかった。


---


「やべーやべーやべー!!!」

卓郎はトイレの個室にこもったまま、出るタイミングを逸していた。


つづく

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