クラスメートのあいつと実験します。
「ここで突然!うさぴょんの瞬間移動講座!正しくは空間移動だけどね!いえーい!ぱちぱち!……なんか、悲しくなってきちゃったよ……はい!使うものは地図です!それと頭!まず地名を指で指す。目をつぶってその地名を頭の中で10回唱える。目を開けたらもう着いてる!簡単でしょ?慣れてくると、地名に限らずにどこでも行けるようになるよ。そうすると、実戦でも使えるようになるかもね。運動嫌いの里亜ちんにはぴったりの魔法……ちょっと!矢が当たるところだったよ!うさぴょん、ウサギじゃないんだからやめてよね。狩れないよ?……何その顔!変な顔〜。んじゃ、バイバイ」
ウサギは、空間移動で消えた。
それにしても、便利な魔法だな。慣れれば、近接戦闘も出来るようになるかもしれない。
「里亜、これからどうする?」
「とりあえず街行かなきゃだよね……空間移動練習させてくれない?」
「おっけ。じゃあ俺はそこら辺にいるから」
「ん」
グリモアールオープン、と呟く。
発光している魔道書はいつ見ても神秘的だ。
魔道書の真ん中らへんのページを開く。そこには空間移動の呪文と説明が書いてあった。
魔道書というものは実に便利なもので、人に教わった魔法や自分が習得していった魔法を自動で追加していってくれるらしい。
瞬間移動の隣のページは、まだ真っ白だ。
ここにどんな魔法が追加されるのかと思うと、楽しみで仕方ない。
『空間移動
・風属性の応用(中級レベル)
・物質をある地点に移動させる
・運搬に便利
・移動させられる距離は術者の魔力量によって決まる
・一度に移動させられる重量は習得レベルが上がると増える
・集中力が重要』
なるほど、集中力ね……。ウサギに講座開いてもらわなくても大丈夫だったかも。
とりあえず、そこら辺にある石とかを移動させてみよっかな。
小さい石を手に取り、指差す。
「空間移動」
だけど、石は動かない。なんでだよ。集中力が足りないのかな?
さっきより集中して、魔法名を唱える。
「空間移動」
だが、石は動かない。
おかしいな……。風属性中級ならいけるはずなのに。
「ブラスト」
突風が吹き、小さな竜巻が出来た。
やっぱり、属性が合わないわけじゃない。では出来ないのは何が理由なのだろう?まだ慣れていないから、重量オーバーとか。……十分あり得る。
「空間移動」
木の葉を指差して、そう呟く。
すると、どこからか石が現れた。
「は?」
理解不能すぎて、思わずそう言った。
一回整理してみよう。
葉っぱを動かそうとして葉っぱを指差したら、そこには石が出てきました。
うん。
おそらく、これは物体を指差して任意の場所に飛ばすものではなく、指差した場所に物体を飛ばすというものなのだろう。
それがわかってしまえばあとは簡単だ。練習あるのみ。
「空間移動」
魔法っていうのは発動条件が分かりにくい。誰か先生でもいれば楽なんだろうけど、私にはいない。
念じただけでその場所に発動してくれるファイアーボールとかはすぐ使えた。アロー系は魔法名を呟いたと同時に弓を引くような動作をしなければならなかった。今でこそ何もしないでも発動するようになったけれど、初回は全く意味がわからなかった。
「空間移動」
誠に一応は出来るようになったって報告しなきゃな……めんどくさい。
もともと魔法適性は高い。すぐに馬鹿でかい石を移動させられるようになった。体重……どれくらいかは知らないけど、まあ大丈夫だろう。
「誠くーん、出来ましたよー」
「はあい」
「うえっ、キモ……」
「そういうこと言うなよ、傷ついたわ」
「ごめこ」
「許す」
どうやら声の聞こえる範囲にいたようで、呼んでから5秒ほどで来た。音をさせないで移動する練習をしていたらしい。
「出来たんだけどさ」
「おう、すげーなお前」
「人は飛ばしたことないから、ちょっと付き合えよ」
「なんか言い方……まあ、いいけど?」
「ん」
対象に触れながらでないと多分ダメらしい。
だから誠に向かって手のひらを差し出したと言うのに、
「は?バッカお前、何考えてんだよ!」
謎にキレられた。
「手で触んないと、移動させられないから」
「……めっちゃ恥ずかしいわ、俺……俺も手でいいのか?ほれ」
誠が手を出して来た。
別に触る場所はどこでもいいと思うのだけれど、この際気にしないことにする。
でっかい手だな、と思った。
「とりあえず、あそこの石の上に移動させるね。……空間移動」
握っていた手の感触がなくなる。どうやら成功したみたい。
「うおおおお!なんだこれ、すげー!」
「う、うん」
「お前やっぱすげえよ」
「あざすあざす」
自分を移動させるときはどうするんだろう?
イメージする、とかかな?安直だけど。
「空間移動」
よし、たぶん成功したでしょ。
一瞬だけだけど、ふわっと浮いた気がしたし……。立ってたのに、座る体制になって移動したのは慣れないからかな?
「あのー……」
でも、移動はできたし!成功は成功である。
バンバン使っていけば、慣れていくはず……。
「里亜さーん……聞こえてます?」
「あ、はい!聞こえてますよ!」
「この体制はやばいと思うから、とりあえずどいてくれね?……いや、俺はこのままでもいいんだけどさ」
「どういうこと?」
「とりあえずそこからどけ!」
誠、顔真っ赤だよ。いきなりどうしたんだよ?ていうか、誠のこと上から見るの新鮮だな……。
ん?
「ああああああっ!!誠のバカ!!」
ファイアーボール!
そう叫んでしまった私は悪くない。