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クラスメートのあいつと逃走します

「今の……聞こえた?」

「お、おう。なんか、ぎゃおーって怪獣みたいな声が……」

「よし、逃げようぜ」

「そうだな」

「あ、でも待って。私、足遅いから死ぬわ」

こういう時に、自分の運動神経の悪さを呪う。普段はなんとも感じないんだけどね。

「ちっ、お前、体重何キロ?」

「綿菓子のようだわ」

「言ったな?暴れんなよ?」

「は?何言ってんのお前、頭……」

おかしいの、と聞き終わる前に目線が高くなった。背中と膝の裏にしっかりと水神くんの腕が回っている。こ、これが「お姫様抱っこ」というものか!

「非常事態だからな。文句は後で聞く」

水神くん、すごい真剣な顔してる。こうやって見ると、東雲くんに負けず劣らずキレイな顔してるな……。まあ、私は面食いじゃないからお姫様抱っこされたくらいで揺らがないけどね。

それにしても、この人の運動神経どうなってるんだろう。私という邪魔な荷物を抱えているのに、それを感じさせないくらいのスピードで走っている。ほんとにすごいな。

そう思っていられたのも短い間で、

「あ、やっべ」

「ギャオーーー!!」

さっきの咆哮の主と思われる怪物に遭遇。

そうだった。水神くんって、運ないんだった。まさか、こんなところで運の悪さを発揮するとは……。さっきいた場所から動かなかった方が安全だったかも……?

「逃げろ」

「了解」

フリーズしていた水神くんに声を掛ける。私の指示を受けて、再び走り始めた水神くん。後ろを振り返ってみると、怪物が私たちを追いかけてきていた。徐々に、怪物との距離も縮んできている。このままだと、追いつかれちゃう……。私にできることは、水神くんに抱きかかえられてることだけなの?……いや、1つ可能性があるとすれば。

「グリモアールオープン」

そう唱えると、空中に分厚い本のようなものが現れる。青白く発光しているそれは、神秘的で思わず魅入ってしまうほどだ。

「お、おい。それ、なんだよ」

「あんたは、黙って走ってて。後で説明するから」

こんな状況でも質問をしてくる水神くんの図太さに多少イライラしながら、私は魔道書のあるページを開いた。

「汝の敵なる者を燃やせ、ファイアーボール」

時間がないし、長すぎて息が続かないので、短縮詠唱である。肺活量がないのだ。普通の人よりもはるかに。

短縮詠唱だと、魔法が暴走する確率が高くなるらしいが、この際それは気にしなくていいだろう。周りは森で、相手は図体のでかい怪物なのだから。

ファイアーボールを顔面キャッチした脳筋怪獣は、「クキャァッ」と意外と可愛い悲鳴を上げ、のたうちまわっていた。ざまあ、脳筋。

反応が面白かったので、もう4、5発はうってやろう。

「ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール」

ファイアーボールが当たるたびに怪物があげる悲鳴が、ツボにはまってしまったようだ。ファイアーボールをうつのをやめられない。

「お前……笑ってんじゃねえよ」

「あ……ごめん」

私は笑っていたらしい。

多分、怪物の可愛すぎる悲鳴のせいだろう。

「フシュー、フシュー……グルァアア!」

顔面に当たるファイアーボールがよほど嫌だったのか、怪物は先程とは比べ物にならないくらいのスピードで走ってきた。

普通なら、命の危機なので冷静ではいられなくなる。けれど、魔法というある意味強力な武器を手に入れた私は、異常なくらいに冷静だった。

「燃やし尽くせ」

そう言い放つ。

瞬間、怪物の巨体を凌駕するほどの巨大な火柱がたった。少し、某ドラゴンのクエストのメ◯ゾーマに似ていると思ってしまったのは仕方がないだろう。

「うっわ、グロ……」

「……同感」

火がなくなった後の怪物の見た目がヤバかった。焼けただれた肌、ところどころに見える骨。ナ◯シカの巨神兵の成れの果てによく似ている。目を背けてしまいたいほどの酷さなのに、なぜか目が離せない。

「おい、大丈夫かよ?」

黙り込んでいる私が落ち込んでいると勘違いしたのか、水神くんが声をかけてきた。

「大丈夫だから、降ろせよ」

「あ、やべっ……ごめん、忘れてたわ。なんせ、綿菓子のようでしたから」

「水神くん、嫌味かよ……」

やっぱ、この人性格悪い。さっき、命の危機にさらされていた人とは思えないわ。

「水神くん?……俺の名前は誠なんですが、里亜さん?」

く、くっそぉぉ!

こいつ、やっぱ人間のクズだわ!呼べない私も私なんだろうけど、そこをネタにしていじってくる水神くんも水神くんだわ!

「うっせー!誠ですか?誠って呼べばいいんですか?別になんとも思ってないから別に何回でも誠って呼べるよ?呼んであげよっか?……誠誠誠誠……ゲホッゲホッ」

「んだあほ!アホだろ、里亜って!俺の名前呼びすぎてむせるってなんなんだよ!自分の肺活量くらい把握しとけ!」

「誠に言われる筋合いはない!」

「お前、絶対アホだわ!」

アホかもしれない……アホかもしれないけどさ!誠はさっき誰のおかげで助かったと思ってんの?私!私のおかげです!私が遠距離型攻撃職じゃなかったら、きっと今頃はこの世にいないからね?……やべ、興奮しすぎたわ。

「……とにかくさ、色々説明したいわけ。黙って聞けよ?」

「里亜、それ、どっかのウサギと同じこと言ってる……」

「黙って聞けよ」

「はーい」



#####



「ね?わかったでしょ?」

「正直、お前の説明がうますぎてツッコミどころがなかったわ……」

「それって褒めてる?あざーす」

正直、テキトーに開いたページに攻撃系の魔法が書いてあって良かったと思った。これも、日頃の行いがいいせいだと思う。誠だったら絶対今頃は死んでたって。

「つーか、里亜。俺と仲良くする気になってくれた?」

「……おう、寒気がするから寄らないで」

「俺たち、抱き合った仲じゃないか!」

「お前、バカじゃん?」

誠が相手だったらなんとかやっていけそうだ、と思ったことは言わない。だって、言ったら絶対調子に乗ると思うから。

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