クラスメートのあいつが分かりません。
「てかさ、思ったんだけど寝る場所とかってどうすんの?」
「あ、それな」
これから何日かかるかわからないけど、お風呂に入れなかったりするのは嫌だ。さっきのウサギがくれたアイテムの中にお風呂みたいなものがあると信じたい。
『簡易住宅を出しますか?』
「え……?」
「赤崎、どうかした?」
「いや、お風呂欲しいなって考えてたらさ頭の中に声が……」
「あれじゃね。さっきのウサギが言ってたこの指輪の機能?だと思うけど」
「ああ、これか」
確か、ボックスに入っているアイテムのリスト出現とアイテムの出入の操作ができるんだっけ。この先何があるかわからないから、リストと説明書見ておこうかな。
「水神くん」
「なに?」
「私がもらったアイテムのリスト確認している間、ここら辺の見回りしてきてくれない?」
「別にいいけど、どうしたの?」
「いや、私の方が文章読むの速いと思っただけ」
「ま、そりゃそうだな」
「なんかごめんね。私、肉体労働とか絶対できないから……」
「うん、それは知ってる」
何故か嬉しそうに笑っている水神くん。
……なんだか得体が知れなくて気持ち悪い。
「赤崎は考える役で、俺は実行部隊だから。それぞれに出来ることしよーぜ」
「……水神くんいい人だね」
「お、そう言ってくれると嬉しいわ」
「じゃあ、私絶対ここから動かないから。水神くん、絶対戻って来てよ?」
「おう、迷わないように気をつけるわ」
そう言って、笑う水神くん。
教室にいるときはあんまり笑わない印象があったけど、本当はよく笑う人なんだ……。
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まずアイテムの確認か……。
『アイテムリストを表示します。
100アイシアが100枚……』
あ、なんか知らない単語が出てきた……。
ウサギ特製説明書を先に読んだ方が良かったかな?このアイテムリスト表示を止められればいいんだけど。
『アイテムリストの表示を停止しました』
あ、便利ですね……。
表示も止まってくれたことだし、説明書を読みますか。
『うさぴょんお手製、説明書だよ!』
表示には、丸文字と一緒にニコニコ笑っている二頭身のウサギの絵が書いてある。……大丈夫かな?
『まず、この世界について知ろう!』
かなり細かい地図が書いてある。大まかな地名も書かれていて、今後役に立ちそうである。
更にページをめくる。
『この世界は三大陸に分かれているんだ!君たちでいうところの南極大陸、ユーラシア大陸、アフリカ大陸って感じ?気温差が激しいんだよね。あと、文化の違いとか発展に差があるよ。
乗り物は馬車とかが基本かな。
今、里亜ちんたちがいるところなんだけど一番大きいユーラシア大陸……アイシア大陸って言うところだよ。お金の単位は“アイシア”。単位が1変わるごとに緑、紫、青、赤、黄色と貨幣の色が違うんだ。セークリッド王国、レリジェン王国、トーリエ神聖国という大きい3つの国があるんだ。里亜ちんがいる森はこの3つの国の真ん中にある聖者の森ってところだよ!』
ウサギの書いていることがよく分からなくなってきたので、前のページに戻った。
……3つの国がドーナツの輪のように並んでいて、そのドーナツの穴にあたる部分にこの森はあるようだ。
なるほど、理解できた。
『魔物がいっぱいいる危険な森だから、気をつけてね?もしも魔物に会ってしまったら、目を合わさずに息を殺すこと。つまり、気配を消してね。魔物は刺激されなければおとなしいから!まあ、例外はいるんだけどね……。
あ、でもレベル上げなきゃいけないんだよね。魔物を倒さなきゃいけないってことだ。それなら、うさぴょんがあげたアイテムの中に武器が入ってるの。里亜ちんには魔道書と杖、まこちゃんには剣と槍が入ってるはず!
職業についても説明しなきゃだよね……。』
このページはここで終わっている。
次のページに書いてあるということか。
『まず、里亜ちんの職業ね!里亜ちんは魔道師系の職だよ。その中でも最も力を持つ“魔女”を上級職にもつ魔法少女なんだ。魔道師系の職は、武器に魔法を使う。魔法の威力は術者の魔力によって決まるんだ。試しに今、頭の中ででいいから“ステータスオープン”って言ってみて!そうすると、里亜ちんの能力が数値化されて出てくるから。』
これは後で試そう。今は情報を多く仕入れることの方が重要なはずだから。
『分かった?里亜ちんの魔力はね、すごいんだよ。今まで魔法の修行とかやったことないでしょ?初期値が1500以上あるとかチートなんだから!まあ、それは置いといて。魔法のことなんだけど、呪文を唱えることによって発動するんだ。呪文は魔道書に書かれているよ!魔道書を見ながら唱えてもいいけど、呪文を覚えられるなら覚えた方がいいと思う。ま、里亜ちんの頭なら覚えられると思うけどね。呪文は強力なものになればなるほど長くなる。短縮呪文もあるんだけど、正式な呪文を唱えた時の3分の2の威力しか出なくなるから気をつけてね。無詠唱が出来れば一番いいんだけど……まあ、今の時点では難しいかな。杖は魔法の飛ばす方向を決めたり、魔法が暴走しないように制御したりするものだよ。
次は、まこちゃんの職業についてね!まこちゃんの職は剣士系で、人間でなれる職の中では一番力を持つ剣聖を上級職にもつ剣聖見習いだよ。剣士という名の通り、剣を武器とします。うん、そんくらいかな。あ、あとまこちゃんは運がとってもないから気をつけてね!』
水神くん、運無いんだ……。一緒に行動するときは気をつけよう。
『後ね、2人にやってほしいことがあるんだけど……』
その先の一文を読んだ。
……やっぱりあのウサギ、絞めてもらえばよかった。
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「へえ、俺運無いんだ……」
「そうらしいよ?」
目に見えて落ち込んでいる水神くん。
その様子がなんだかおかしくて、思わず笑ってしまった。
「んで、ウサギ絞めてほしいとか……なに書いてあったわけ?」
「……あのさ、“なんでこんなことで”って思うかもしれないけど笑わないでね?」
「ああ、任せろ」
「あのさ……お互いのこと、名字じゃなくて名前で呼べってさ……」
「え……俺に名前呼ばれんのそんなに嫌なの?なに照れてんだよ」
水神くんの馬鹿にしたような口調に
「は?照れてないし、別に呼べるし。水神くんが嫌がるかと思っただけですー」
思わず見栄を張ってしまった。
「じゃあ呼んでみろよ、里亜」
この人女子の名前呼ぶの慣れてる感がある……。さっき見栄はっちゃったし、しょうがない。
「その口閉じろし、まこちゃん」
「……ま、まこちゃん?」
これなら、私が知ってたアニメの中の登場人物のあだ名と同じだし。
「せめて普通に呼べよ!」
「まこちゃんうざ子だから呼びたく無いんだよ!」
私もまこちゃんもすごく大きい声で言い合った。何故だかそれは嫌ではなくて、男子と言い合ったことが今までなかったことに気づいた。
「里亜はさ、なんでそんなに俺の名前呼ぶの嫌な訳?俺のこと好きなの?」
「はあ?なに言ってんのお前。友達でも無い人の名前なんて呼びたく無いからだわボケ」
「えー、一緒にいるんだから仲良くしようぜ……」
「それはこれからのまこちゃん次第!」
引き続き大音量で言い合っていると、突然獣の吠える声がして。
「ギャオーーーォォス!!」
「え……」
私たち、死ぬかもしれません。