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襖の向こうは

作者: ゆき


トンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白く………は?


ここはどこ?私はだ、、、れかは知ってる。

とりあえず川端先生が作った主人公ではない。




慌てて後ろを振り返ると見慣れた襖と見慣れた自室が見える。

一軒家の二階にある砂壁と襖で分けられた六畳二間の東側の和室が私の部屋、西側の洋室が結婚して出て行った妹の部屋である、はずだった。


休日の昼間、妹が残して行った漫画の超大作を読んでいた私は自室に持ち込んでいた分を読み終え、続巻を求めて妹の部屋に入った。はず。

しかし実際は読み終えた漫画数冊を片手に雪山で佇む私。


室内用のモコモコ靴下に水が染みて冷たい。


私は冷静に一歩、二歩と下がり、襖を閉めた。


靴下が冷たい。








「はぁーーあッ!?!?!?」


スパーーンッ!と音を立てて襖を開けると、やはりそこは雪山であった。


南窓の外にはいつも通り遊べと訴える愛犬の鳴き声。

足元では万年床である私の布団が濡れた靴下に汚されている。

目の前は襖と砂壁に挟まれた半間の雪景色。


私は訳が分からず呆然とその場にへたり込んだ。




しばらく座り込んだままポーっとしていたが、母の声で覚醒した。昼食に呼んでも降りてこない娘を呼びに来たのだ。

当然、襖の向こうの雪山に母も驚いていたが、そこは年の功かオタク歴の違いか。

とりあえずご飯にしましょ、と言って母は襖を閉めた。


そう、先日55歳になった母はオタクという言葉があったのか疑わしいような時代から活字やその他諸々の中毒患者である。

私が把握しているだけでも愛読書は司馬遼太郎、レ・ミゼラブル、パトリシア・コーンウェル、ジュール・ヴェルヌ、ジェフリー・アーチャー、モンゴメリ、おばあちゃんは〜シリーズ、赤川次郎、高村薫、宮部みゆき、大沢在昌、森博嗣、誉田哲也、菊地秀行、篠田真由美、高里椎名、茅田砂胡、コロボックル、ハリー・ポッター………敬称略。

所々作者が思い出せないしこれで全てでもないが、すでに雑食感満載。シリアスもコメディもエロもグロも気にしない、面白ければ良いとのこと。

最近は新書系を読み尽くしてコバルト文庫とかティーン向けまで読んでいる。

読書以外にも料理、お菓子作り、音源収集、洋裁、和裁、刺繍、編み物、パソコンなんかへの拘りっぷりもオタクそのもの。

例えば料理は普段は普通の家庭料理だが、"趣味の料理"を作るときは朝食の片付けをした直後から夕飯の準備が始まる。

ブイヨンって自作するものじゃないよね?

他の趣味に関してもさして変わらない情熱を捧げる母の1日は何時間あるのか不思議で、何にもしてない自分をちょっと情けなく思ったり。。。


母の紹介と自己嫌悪は置いておいて、食事をしながら我が家に出現した雪山について話し合う。

とりあえず、あの雪山は常にあるのか、雪山側から襖が開けられるのかを検証しようということになった。

もしあちらから侵入されることがあるならばあの部屋は壁に塗り込めなければならない。

次開けたら元に戻ってるといいね、と言いながら二階に上がり、廊下から妹の部屋を開けた。

普通に妹の部屋だった。

やった、やっぱりあれは二人して頭ヤバかったんだよと笑い合いながら妹の部屋に入り、自室に戻るべく襖を開ける。

雪山だった。

今度は私の部屋がなくなったのだ。


キャーともニャーとも聞こえるような叫び声をあげた私を廊下から見ていた母は首を傾げて私の部屋を開け、傾げた首をまた反対側に傾げた。




父も巻き込んで三人で色々検証した結果、私の部屋も妹の部屋も廊下から部屋に入る扉は今まで通りの普通の部屋に繋がっている。

私と妹の部屋の間にある襖は雪山に繋がっている。

雪山から見た襖は片面が2枚の襖で片面は素通しで何も無いように見える。襖は自分が出てきたときの襖しか見えない、と言って通じるだろうか?


ひとつ説明しておくと、我が家を改築した際に各自の部屋の壁や建具のデザインを各自で好きに選んだ為、襖の柄は部屋によって異なる。

問題の襖は私の部屋側が和室らしい柄で妹の部屋側は壁紙とお揃いの洋室らしい柄になっている。


つまり、私の部屋から雪山に出ると壁紙風の妹の襖が見える。襖の周りを一周してみたが私の襖は見えず、私の部屋から見えた雪景色が見える。反対も同様で、妹の部屋から雪山に出ると私の襖が見えて裏からは妹の部屋から見える雪景色だ。

襖の面裏は同じ場所にあるらしく、各部屋から見える景色と互いの襖の裏を背にして見る景色は一致した。

襖があるはずのところは何もなく、エアカーテンの様な違和感に触れる。雪に足を取られて転んだ時にそのエアカーテンに上体を突っ込んでしまったが、やんわりと受け止められて跳ね返り、壁に背中をつけて落ちる様に座り込んでいた。襖側に突き抜けることもその場で切断されることもなかった。

切断については母が言ったことで自分では気づかなかったが、部屋に帰って襖周辺の説明をした時に転んだことを叱られたのだ。何が起こるかわからないんだから一歩一歩慎重に行動しろと。最も過ぎて反論の余地がない(涙)


ちなみに、私は無防備に雪山に出たわけではない。一周する前には生き物の気配がないか警戒もしていたし、ちゃんと慎重に歩いていた。ただ、あまり運動神経が良くないだけだ。

装備は春になってクリーニングに出すつもりだった冬服やダウンコートで完全武装した上に腰縄を付けて、縄の反対側は自室の学習机に結んでいる。

縄は我が家の庭を愛犬の為に改造した時の残りが20mほど残っていたのでそれを使った。はじめは荷造り用のビニール紐を使おうとしていたのだが、強度に問題があるのではないかと言って父が納戸から縄を探して来てくれた。


話を戻そう。

・私と妹の部屋の襖はどこかの雪山に繋がっている。

・襖が空いていると雪山から私達の部屋や襖が見えてしまう。

・襖を閉めると雪山から襖は見えなくなる。


ええ、やってみましたよ。

雪山から侵入されるか否かが最大の問題だもの、やらざるを得ないよね。


まず、母に襖の前に待機してもらい、襖を閉めて5秒したら開けてもらうことにした。

次に3,2,1,とカウントを取って腰縄を付けたままの状態で襖を閉めた。

腰縄分の隙間を開けた襖が目の前にあった。

今度は腰縄をビニール紐に変えて同じことをした。

襖が消えて、襖と柱に挟まれたペラペラのビニール紐が切れた。

予想はしていたが軽くパニックになり、襖があった空間に手を突っ込んだ。

しばらく空間を弄っていたらぐっと手を押し返す感触が私を襖の出る空間から追い出し、襖が現れた。

私は約束通り襖を開けてくれた母にしがみついて泣いた。何年振りだ?


とりあえず、最低限必要なことはわかったので、襖を両側からガムテープでギッチリ目張りして封印した。




封印はしたが、私の好奇心は日毎少しずつ育っている。

襖の向こうはまだ雪山なのだろうか?それとも妹の部屋なのか?

あの雪山はどこなんだろう?雪山は現実と同じ様に昼間に見えた。晴れ晴れと凍てついた太陽が見えた。

地球上のどこかなんだろうか?国内にはもう雪はないし、南半球?それとも異世界?

こんなことがあったのだ。異世界だっておかしくはない。

雪山はずっと雪山なんだろうか?四季はあるのか?雪山の遥か下に見えた赤い屋根は………




誰が住んでいるの?




私はいつまで好奇心を抑えていられるだろう。

好奇心は猫を殺すと言う。

次に襖を開けた時、そこには何があるか、何がいるか、私がどうなるのかもわからない。

それでも、私の好奇心は育ち続けている。

日々膨らむ好奇心をどう抑えたらいいのか、それがここ最近の一番の悩みだ。



【襖の向こうは 完】

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