ほんの始まりの始まり
ども!黒兎です!
えー、『落ちこぼれ魔王の勇者召喚』や『男女比1:9のこの世界で、童貞貫いていたら最強だった件』が途中にもかかわらず、新しいの書いてしまいました。
優しい目で見守りつつ、楽しんでいただけたら幸いです。
「さあ覚悟なさい、桐崎 千佐都。五大元素の一つ、火精霊に愛されし鳳凰堂 杏火が、あなたをパートナーにしてみせるわ!」
学舎最上階に付けられた大時計。通称時計塔。その天辺で闇世の中あげられた彼女の高い笑い声は、とても恐ろ恐ろしいものだった。
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『えー、二年生の諸君、進級おめでとう。校長の鳳凰堂 信玄じゃ‐‐‐‐』
決まり文句から始まった校長の話。続けて季節の話や学業の話、学業に取り組むべく生徒の姿勢についてなど話していたが、この物置小屋のような部屋にその声の主‐‐‐‐鳳凰堂 信玄と名乗った者はいない。
部屋の中にいるのはただ一人の青年で、青年は部屋の隅で黙々と機械をいじり続けている。
では、どこから声が聞こえるのか。声の発生源は青年が個人的に作ったスピーカー型ゴーレムと言われる魔法道具だった。
青年の意識には音が一切届いていないようだったが、スピーカー型ゴーレムからの音は流れ続けている。
数十分経ち、校長の話も終盤に差し掛かる。
『‐‐‐‐昨年一年間は基礎の勉強ばかりで退屈じゃったと思うが、今年からは違う。今年からは本格的に魔術について学び、実践を経験することになるじゃろう。様々な経験を通して、彼の偉大なるマギカへの道を目指してほしい……』
一度校長の声が収まる。すると次の瞬間、部屋全体に響くような音量がスピーカー型ゴーレムから発せられた。しかし、依然として青年は反応しない。
『これにより学校長としての言葉を締めくくる。それと同時に、パートナー選択の開始を宣言する。皆が知っての通り、今年度は二年に一度のパートナー選定の年じゃ。毎回のように、行われていなかった年の生徒たちも参加し、二年生と三年生同士でパートナーとなるのじゃ。学年の壁を越えお互いに相応しいパートナーを見つけてほしい。自身と相性の良い者を選ぶも良し。お互いに弱点となる物を補い合える者を選ぶも良し。ここでパートナーとして選んだ相手は、卒業後も続く関係となる。きちんと選ぶのじゃぞ』
最後にパートナー選択の期間を言い校長の声が聞こえなくなると、スピーカー型ゴーレムからはさっきまでの進級式の静けさはなくなり、なにか騒動が起きているようなドタバタ音が聞こえ始めた。
「やっと完成した……。っと、あれ?スピーカーの調子おかしいかな。進級式出席しなくてもいいから、せめて聞いておけとか言われて起動させておいたのに……。変な音しか聞こえないな」
青年は完成したと言った物を机に置き、スピーカー型ゴーレムを手に取る。
「特に変なところはないんだけど……。進級式が終わって片付けでも始まったかな」
まあいいかと、スピーカー型ゴーレムを机に置き、先ほど机に置いた完成品を手に取る。
「作業に没頭すると何も聞こえなくなるからなぁ。あ、履き心地が微妙だな。性能や効果だけじゃなくて、そういうところも改良していかないと……」
青年は自己分析ができているにもかかわらず、完成品‐‐‐‐ブーツをいじり始めるとぶつぶつと独り言ちながら歩いたり跳ねたりと完成品の確認とその後の微調整に没頭してしまう。
いろいろ試しているところにコンコンとドアをノックする音や、鍵のかかったドアノブをガチャガチャと回すという来訪者を示す音が響く。しかし青年は気づく様子がない。その後、二度三度と繰り返されるがブーツの調整に夢中になりすぎており反応しない。
「お邪魔しまーす」
来訪者に全くの無反応だった青年に向かって、分厚い板が爆風と共に飛ぶ。分厚い板は青年の頭にいい音を響かせ、部屋の奥にあった窓を割って外に飛んでいく。
青年からは苦痛を伴った悲鳴があがるが、来訪者は気にしている様子もない。
青年が板が飛んできた方向に顔を向けると、そこには鍵がかけられていたはずのドアがなくなっており、代わりに一人の女性が立っていた。
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「桐崎 千佐都」
ドアの前に立つ女性が桐崎 千佐都‐‐‐‐俺の名前を呼ぶ。
俺にそもそも知り合いと呼べる人は数えるくらいしかおらず、ましてやこんな綺麗な知り合いなどいた覚えがない。そんな彼女の訪問やそれに伴った頭の痛みなど、突然の出来事に頭が困惑していた。
「私は鳳凰堂 杏火。貴女には私のパートナーになってもらうわ」
彼女‐‐‐‐鳳凰堂 杏火はそう言うと、ドアがあったはずの場所を潜り、俺の前で腕を組み仁王立ちしてみせる。
「パートナー?」
「ええ。すでに知っているでしょうけど、今年はパートナー選別の年。ということで、桐崎 千佐都には私のパートナーになってもらうわ」
いきなり押し寄せ人の部屋のドアを壊し、人に被害を与えておきながら謝りもしない女に、挙句の果てにパートナーになれと言われても、はい良いですよと言えるほど俺はできた人間じゃない。
「やだ」
「ふふん。そうよね。精霊の加護持ちで、称号までもっている私から直々に誘われて、断るはずがないわよね」
「いや、おもいっきり断ってるんだけど」
俺の拒否を無視したのか、はたまた断られるとは思っていなかったのか、勝手にしゃべっていた彼女だったが、さすがに二回目の拒否には気が付いたみたいだった。
「今、なんて言ったのかしら」
「断るって言ったんだが?」
ピシッと空気が凍り付いたように彼女の顔が一瞬だけ固まった。
「ふ、ふふ。そう。私の誘いを断るとは言い度胸ね。今ならまだ許してあげるから私のパートナーになりなさい?」
彼女は頬をひくつかせながらも笑顔を維持していた。
「いや、謝る理由もないし。魔法技師を目指す俺にパートナーなんぞいらん」
「くふっ、ふふ……」
俺の最後の一言で彼女の笑みは消えたと思ったら、彼女は俯き、今度は恐ろ恐ろしい笑みを漏らしはじめた。
「そう。わかったわ……。なら、我が校を卒業していった先輩方に倣って模擬試合といこうじゃない」
「……はぁ」
「なにため息ついているのよ!」
彼女は俺がため息を吐いた理由がわからないようで、おかんむりのようだ。
「いや、俺戦闘向きじゃないし。しかもそんなの受ける理由もないんだけど」
「そんなの知らないわ!この私があなたをパートナーとして選んでいるの!あなたはそれを受け入れればいいの!」
この女はいったい何を言ったいるんだ。自己中心的すぎるにもほどがあるだろう……。
「付き合いきれん」
俺はブーツに手をかざし立ち上がる。
「ふっ、何処に行こうというの。私の後ろにある扉からじゃなければこの部屋からは出られないのよ。それとも後ろの窓からでも出ていく?」
彼女はそう言い、俺の後ろにある無残にも割れてしまった窓を指さす。
「あなたのこの研究室があるのは、この研究棟の最上階層。地上十階の高さ。未だ過去の誰も成功させたことの無い浮遊魔法が使えない限り窓から逃げるなんて、私じゃない限り無理ね」
私じゃないと無理って、こいつ結構な自信家だな……。実は相当な魔術師なのか?確かさっき加護と称号持ちとか言っていたっけ。まあ、いいや。そんなに自身がおありなら、試作品の実験に付き合ってもらうか。
「確か、未だ成し得ない浮遊魔法……って言われていたっけ」
「ええ。って何をしているの!?」
何を驚いているんだか。自分から選択肢を与えておいて。
俺は驚く彼女を他所に、割れて悲惨な姿となった窓を開ける。
「なにって逃げるんだよ」
「なっ!?」
俺は窓枠に足をかけ一足に、地上十階の空へ背中から飛ぶ。
「じゃ。もし、追いつけるって言うなら、模擬試合のことくらいは考えてやるよ」
彼女に言葉を残し、俺は何もないはずの空を踏み体の向きを変える。そのままの勢いで空に向かって、それなりのスピードで飛んでいく。
彼女はいつの間にか窓まで来ており、そこに見える顔には驚愕と好奇心を綯い交ぜにしたかのような表情が現れていた。
読んでくださりありがとうございました。
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