表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第二章『(頭が)ヤバい奴ら』
83/280

第二十一話『兄、来る』―2


 光は瞬きを忘れるくらい固まっていたが、数秒を跨ぎ、口を開いた。


「伯父様と、伯母様が……?」


 幼少期世話になった二人が死んだと。特に、伯母は光にとって師とも呼べる存在だ。そんな人物が死んだ――否、殺されたとあっては、心穏やかではいられない。


 (やすり)で心臓を削られるような痛みが光を襲う。光の大きな眼が、涙の膜で覆われた。が、光は浅く短い呼吸を一旦止め、眼を瞑り、深呼吸をしてから、瞼を開いた。


 力強く輝く生命(いのち)の色をした瞳を直視した兄は、感嘆の息を吐いた。

 そんな兄に、光は問う。


「誰に?」


 短い。だが、彼女が今、一番知りたい事だ。


 輝は、光の青から眼を逸らせた。


「それが、まだ分からないんだ。ただ、遺体の損傷が激しくてな。人間の力じゃ無理だろ……って感じでなぁ……。伯父さんの書斎から本が何冊か消えてるのも気掛かりなんだぜ」


 輝は腕を組んで、難しい顔をしている。


「お兄ちゃんは、何をしてたの?」

「仕事に出てた」


 と、バツが悪そうに肩を竦め、溜め息をひとつ。


「しかも俺様は、容疑者になってんだぜ」


 はぁー、とまた溜め息。


 気丈な態度に戻っていた光が、再び眼を大きく見開いた。


「何で!?」

「あー、第一発見者がご近所さんだったんだぜ。同居人の俺様が疑われるのは必定ってヤツだ。まぁ、所属してる協会にアリバイ工作の手回しをして貰っているから、大丈夫だぜ」


 だから日本に来れたんだ、と輝は言う。疾風丸をこの場から消しつつ、


「取り敢えず、立ち話もなんだから中に入ろうぜ」


 自分の家でもないのに、輝は先頭に立って皆を誘導した。




 家の中では、康成が夕食の準備を終えたところだった。輝の姿を見るなり、すぐに追加を準備しますね、と再び台所へ向かった。


 人数が更に増えたので、倫は拓人と一緒にテーブルと椅子を追加している。

 急な来客にも慣れたものだ。


 光は一度自室へ戻り、文庫サイズほどのポーチを持って来た。食事が冷めては申し訳ないので席につくと、それを太腿の上に乗せた。


 輝が来た事により、いつもの数倍賑やかな食卓。輝は光と潤の間を陣取ると、土産だ! と小さな箱を数個、テーブルに広げた。


「色んなフレーバーティーだ! 伯母さんが棚に並べてたのを持って来たんだぜ!」

「不謹慎でしょ!?」


 光が指摘するも、輝はきょとんとしている。


「容疑者のわりに、なかなか余裕だな、輝君……」


 普段能天気な深叉冴ですら、半眼である。


「はっはっは! 本当に欲しかったものは取り損ねたんだがな! そう褒められると照れるんだぜ!」

「誰も褒めてないから!」

「そうプリプリ怒るな妹よ! まぁ、怒った顔もcharmant(かわいい)けどな!」


 光は、もう嫌……、と頭を抱えてしまった。

 妹がそんな調子なので、輝は反対隣に頭を振る。

 黙々と肉じゃがを口へ運んでいる潤に、


「潤、お前の目玉を片方俺様にくれないか?」


 夏の太陽に反射する海面のように、輝く瞳を向けた。

 潤は箸を止め、紅玉(ルビー)のような瞳をぱちくりさせている。


 ガタンッと椅子を鳴らして立ち上がったのは、凌だ。


「冗談だとしても、(たち)が悪いですよ!」

「え……。俺様、大真面目」

「もっと悪いです!」


 凌に怒鳴られても、輝はやはりきょとんとしている。


「翔の目玉も綺麗だから飾っているんだが、それより鮮やかな(あか)い瞳を持つ人物に出会えるなんて、運命だップギャッ!」


 潤の眼に手を伸ばした途端、輝は再び護符の力で吹き飛ばされた。

 吹き飛んだ方向に居た光は、予め後ろに下がっていて無事だったのだが、輝は翔に激突する事で止まった。

 但し、翔もろとも床に転がっている。


 翔は、自分の上に乗っている未来の義兄に殺意を向けた。


「輝……本当に殺すよ……」

「おいおい。仲良くしようぜbruder(兄弟)。って、箸が刺さった口で、よく喋れたものだな!」


 転んだ拍子に中咽頭(ちゅういんとう)へ刺さった箸を抜いた翔は、血の味しかしない……、と不貞腐れた。まだ残っている食事を、残念そうに眺めている。

 康成が「翔様!」とタオルを差し出してきたので、翔は口一杯にタオルを詰め込んだ。

 しかし、康成は「違いますよ! 貫通して、(ぼん)(くぼ)からも血が出ているんです!」と指摘。

 翔は初めて、頭の後ろからも流血している事に気付いた。


 口から出したタオルは、血を吸って重くなっている。

 追加で持って来られたタオルを首筋の中央へ押し付け、翔はむすりと輝を見やった。


「俺の目玉だって、輝は俺が『いい』って言う前に取っていったし……」

「それから、光は俺様の事を邪険にするようになったんだぜ……」


 しょぼん……、と項垂れる輝だが、場に居る大半の人間は「そりゃそうだろ!」と胸中でツッコんだ。


 


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ