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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第二章『(頭が)ヤバい奴ら』
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第二十一話『兄、来る』―1




 デートの予定が控えているという、泰騎以外の一行が天馬家へ着いた時には、夜八時を過ぎていた。そして天馬邸の裏には、潤が手配していたプレハブ小屋も鎮座している。


 出迎えてくれた康成がプレハブ設置に関して、すごい早さで完成してびっくりしました、と感想を述べた。


「抜いた木々は、小屋の必要がなくなり次第元に戻しますので」


 潤は改めて深叉冴に頭を下げる。


 母屋の方から、暗がりにも負けない黄金色(こがねいろ)が、はためきながら近付いてくる。その中心には、ふたつのアクアマリン。


 ワンピース姿の光が、翔の元へ駆け寄った。翔の体を、触角から足先まで観察している。


「お帰りなさい。怪我は……してないわね」

「うん。ただいま」


 少し汚れている服などは気にせず、光は翔の体を抱きしめた。周りも、ハグに驚いたりはしていない。

 翔が少しだけ背を縮めて、光の胸元に頬が当たるようにしているな……。という事にも、ノータッチである。


 時間が時間なだけに、康成は夕食を皆にすすめて母屋へ戻った。拓人もそれに続き、潤はプレハブ小屋の中を点検。凌と深叉冴も潤についていった。


『お熱いことだな!』


 と寒太が二人の周りを飛んでいるが、光には“キチキチキチ”としか聞こえない。

 聞こえている翔も、


「寒太、俺は今、あつくないよ?」


 という反応だ。

 寒太は、やれやれ、と宙を一回転して、巣へ帰っていった。

 翔は翔で「寒太、何しに来たのかな」と柔らかい脂肪に頬を(うず)めて呟いている。


 そんなこんなで、この体勢で数分が経過。

 深叉冴と潤が帰って来たのを確認し、光はいたたまれない気持ちに襲われた。


「あのね、翔……。そろそろ…………」

「光ぅううう!!!」


 ドォォオオン!

 翔が、何かに弾き飛ばされた。

 翔の居た場所に、違う誰かが収まった。


「ああああっ! 光ぅぅう! 久し振りだなぁ! はぁあああ! かわいい! 光は可愛いなぁあああ!!」


 光は、その“誰か”の腕にすっぽり収まり、熱烈な頬擦りを受けている。


Bitte(マジかよ)!」

「もう! 痛いって…………ば……?」


 光が“誰か”を引き剥がそうと腕を伸ばした時には、“誰か”はこつぜんと姿を消していた。


 光が辺りを見回すと、“誰か”は潤の両手を取って鼻息荒く、瞳を輝かせていた。


Wie(なんて) schön(美しい) bist(んだ) du!」

Vi……Vielen(ありがとう) Dank(ございます).Ahえっと……Aber(でも) ich bin(俺は) ein Mensch(男ですよ).」


 がっしり両手を握られている潤は、少しばかり申し訳なさそうに答えた。

 数秒固まっていた“誰か”が、電光石火の速さで後退(あとずさ)る。凄い土埃だ。


「はっ!? 男ぉおお!?」

「何しに来たのよ、お兄ちゃん!」


 光に似た顔。光と同じ、アクアマリン色の瞳。光より太い眉に、光より短い睫毛(まつげ)をしてはいるが、そっくりだ。全く違う点といえば、黒い髪色。


 かなりの美青年――否、“色男”である。


 光の兄は黒い髪を掻き上げ、妹に向かって片目を(つむ)った。


「可愛い可愛い妹に、会いに来たに決まっているぞ!」


 言い放つと、羞恥で赤くなっている顔を両手で覆っている妹から、潤へ視線を移す。


「先程は失礼したな! 光の兄、(あずま)(てる)だ!」

「……初めまして。翔の家庭教師をしている、二条潤と申します」


 潤が頭を下げると、輝は再び潤の手を握った。


「まさか男だとは! 男はNein() danke()だが、美しさに性別は関係ないよな!」

「はぁ……」

「その瞳は本物か!? まさか、異界の精霊かハイエルフか何かなんじゃ……ッうぎゃ!?」


 潤の瞳に手を伸ばした瞬間、輝は突然、何かに弾かれたように吹き飛んだ。


「すみません……。護符の効果で、自動防御(オートセーフガード)が働くみたいなんです」


 木の根元でひっくり返ったまま輝は、そうなのか……、と――よく意味は分かっていなさそうだが――呟いている。


 光は葉っぱにまみれた兄の服を手で払いながら、嘆息した。


「あぁもう! っていうか、お兄ちゃんどうやって入ってきたの? 侵入者防止の、拓人君の結界が張られてるはずだけど」


 輝は、すっくと立ち上がると、また髪を掻き上げた。葉っぱが数枚、はらはらと舞い落ちる。


「こいつに乗っていれば簡易的な結界など、ものともないんだぜ!」


 何もない空間から突如現れたのは、立派な翼が生えた、白い馬。人が“ペガサス”と呼ぶ、ローマ神話に出てくる生物。天馬とも呼ばれる。


「俺様の使い魔、疾風丸(はやてまる)だ! ドイツからも、こいつでひとっ飛びだぜッ」


 輝は、バチコーン、とウインクを飛ばした。

挿絵(By みてみん)


 この男、見た目は西洋人だが、ネーミングセンスは純和風のようだ。


「疾風丸で来たの!? 目立つから止めてって言ってるでしょ!」

「モチロン、隠密(ステルス)モードだぜ!」


 高笑いを繰り返す輝に近付く、ひとつの影。その影の周りには、線香花火のような火花が複数散っている。


「ねぇ……。燃やしていい?」

「翔、ちょっと待っ……」


 止めに入りかけた光の前に潤が割って入り、更に凌を呼んだ。

 凌が翔に水を掛けて鎮火し、取り敢えず、無駄な発火は免れた。


「で? 本当の、兄君の来日の理由は?」


 疾風丸の首を撫でながら、深叉冴が言った。


「おぉ。深叉冴! 日々、光の護衛、ご苦労だな!」


 と笑っていた輝だが、珍しく真面目な深叉冴の眼光に負けて、肩を竦める。

 輝は光に向かい、声をワントーン下げて言った。


伯父(おじ)さんと伯母(おば)さんが、殺された」


 


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