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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第二章『(頭が)ヤバい奴ら』
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第十七話『赤い女子大生と現役小学生』―1




 ミドリジュニアの群れが格技場から脱走する、少し前――。




「お嬢!」

「あら、英喜(ひでよし)。だぁれ、それ」


 声を掛けたのは滝沢で、振り向いたのは千晶だった。一拍遅れて、ゆっくりと寿途も振り返った。

 『それ』と指を差されたのは凌で、ビジネススマイルを顔面に貼り付けた状態をキープしている。頭を下げ、「初めまして。荒井千晶さんと、嵐山寿途さんですね。ボク(・・)は――」と、祝に会った時と同じ挨拶を進めた。


 滝沢の名は“英喜”という。“ひで”が秀貴と被るので、皆からは専ら、姓で呼ばれているわけだ。だが千晶は《自化会》に入る前から滝沢と知り合いなので、彼女だけは滝沢の事を『英喜』と呼んでいる。


 凌がここに居る経緯(いきさつ)を聞き、千晶は、そうなの、と納得して見せた。それに難色を示したのは、未だ凌の事を信用していない、滝沢だ。


「天ちゃんとそれなりに渡り合えるなら、あたしからは言う事ないわ」


 苦々しい表情を浮かべている滝沢に対してそう言い捨てると、千晶は寿途の癖毛を撫でた。


「それより、あたしはこれから寿君とデートなの」

「それは失礼しました。行ってらっしゃいませ」


 深々と頭を下げて見送る滝沢に、千晶は背中を向けて手を振った。反対の手で寿途の頭を撫で回しながら、真っ赤なシルエットは正面玄関の方向へ消えた。




 千晶は現役大学生で、現在二十歳。対して寿途は、現役小学生で、現在十一歳。年の差が(ここの)つもあるわけだが、千晶は寿途の事を恋愛対象として見ている。“強くて小さくて可愛い異性”なら、千晶の許容範囲だ。年の差は気にしない。条件さえ満たしていれば、年上でも構わない。ただ、この条件を満たす年上というものに、千晶は出会った事がない。


 寿途の真意は誰にも――本人にも――分からないが、彼は基本的に、構ってくれる人になら懐く。

 少々歳の離れた姉弟(きょうだい)にしても、見た目が全く似ていない二人だ。稀に、千晶が誘拐犯と間違われる事もある。

 この日も、そうだった。


「こんにちは。ボク、お姉さんとお出かけかい? 良いねー」


 見回り中の巡査に声を掛けられた。直球に職務質問をされる事はまず無いが、こんな感じで話し掛けられる。そしていつも、千晶は胸を張って答えるのだ。


「お巡りさん。姉弟じゃなくて、カップルって呼んでくれないかしら」


 と。そして毎度のように疑いの目を向けられる。疑問の眼だろうが奇異の眼だろうが、千晶にとっては気に留める程のものではない。寧ろ、注目されるのは快感ですらある。でなければ、わざわざ髪も目も真っ赤にした姿で街中を闊歩(かっぽ)する筈がない。


 千晶も、それなりにベテランの犯罪者だ。彼女自身の生い立ちも関係して、相当な派手好きである。なので――余談ではあるが――武器は派手に連射出来る機関銃を愛用していたりする。

 寿途は「千晶、ごはん、行こう」と、千晶の手を引いた。


「じゃあねー。お巡りさん、ばいばぁーい」


 千晶は、腑に落ちない表情をしている巡査に向かって手を振った。




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