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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第二章『(頭が)ヤバい奴ら』
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第十六話『自然と化学の共存を促進する会』―4




「すみませぇぇえん」


 拓人の登場から遅れる事、約五分。

 通り過ぎた筈の情けない声が、戻ってきた。金髪長身の、大型犬(ゴールデンレトリバー)のような少年。半ベソをかきながら、息を切らせて走ってくる。


 ぜぇはぁと。威は両膝に手を突いて、息を整える為に呼吸を繰り返した。

 威が姿勢を正すのを待たず、祝は金髪の頭を拳で叩く。


「あんな大量の棘まみれを野放しにしたら、被害がでかなる事は分かるやろ。おれが()ったからええもんを。これ以上《自化会(ウチ)》の戦力が削られたら――」


 拓人は祝の口を手で押さえると、固まって動かないサボテンを横目で見やった。


「あー、威。何でお前のミドリは格技場から出てきてたんだ? しかも、増殖してるし」


 拓人の質問に、威は殴られた頭を擦りながら、潤んだ目を泳がせてから俯いた。


「す、すみません……あの、副会長に……『ミドリを増やしてみろ』って言われまして……その、それで、ミドリジュニアを作る事には成功したんですが……全然、言う事を聞いてくれなくて……」


 秀貴の名前が出たからか、威が自分の式神を扱いきれていないからか……拓人の表情が険しくなった。

 それに関して、洋介は前者だと思ったし、祝は後者だと思った。

 実際には、両方だ。


「制御出来ないなら、消してからその場を離れるべきだろ。何で放置した?」


 威は再度目を泳がせた。小さな声で、朱莉ちゃんの……、と呟いてから続ける。


「人形を、あんなにしちゃったから……おれ、テンパっちゃって……」


 と聞いたところで、一同はサボテンの棘に引っ掛かっている人形の残骸へ目を向けた。そして一同は思った。

 まぁ、怒るだろうな――と。


 祝は大袈裟な仕草で溜め息を吐くと威の後方を見やりながら、少しばかり声を張った。


「っちゅーても、あの人形も武器なんやろ? 訓練でああなったんやったら、仕方ないやん」


 言った本人にフォローのつもりはなかったが、威は「ありがとうございます」と頭を下げた。更に「でも」と言葉を続けたのだが、それ以上の声は飲み込まれた。しかも、表情は硬直してしまっている。その顔のまま、錆ついた機械のように首を回して、後ろを確認した。


 威の背後に立っている朱莉は無表情で、無言だ。


 震える声で、ごめん、と謝る威に向かってひと言、しつこい、と言い放つと、朱莉は変わり果てた姿の人形へ歩み寄った。


「祝さんの言う通りです。私の未熟さが招いた結果なので、怒ってはいません。元から、こういう顔なんです」


 朱莉は棘から人形を解放すると、もげた人形の四肢を抱きかかえた。

 首の皮一枚で繋がった状態の人形と、どこかに目玉を落としてしまったらしい人形と、白い綿(はらわた)が露わになっている人形が、朱莉の後ろに整列している。


 夜中の暗い廊下で出会ったなら、そこいらのB級ホラー映画よりも肝の冷える絵面(えづら)かもしれない。


 祝は、そんな呪い人形の行進を眺めていたのだが、ある事に気付いた。朱莉の視線は人形でも威でもなく、拓人へ向いている。

 しかも先程すれ違った時よりも、明らかに負の――怨念と呼んでもいい――念が込められた眼をしている。それも、会釈の動きに合わせて流れた髪によって、すぐに隠れてしまったのだが。


 朱莉はそのまま足早に立ち去り、威もミドリジュニアとやらを消して「失礼します」と告げて走り去って行った。

挿絵(By みてみん)




 後輩二人がこの場を後にし静かになったところで、洋介は空になった試験管を弄びながら拓人に向かって言った。


「いやぁー、さっきの……あかり、だっけ? すんごい顔で拓人の事睨んでたけど、彼女に何したの?」


 祝も気になったので拓人の反応を伺う。だが、拓人から発せられた言葉は期待から外れたものだった。


「いや。全く心当たりがねぇ。っつーか、話した事すらねーよ」

「それであの剣幕はないやろ」

「本当だっつーの」


 拓人の答えには、洋介も納得していない様子だ。が、さして興味もないのだろう。洋介は「ところで」と、話題を切り替えた。


「千晶を見なかった?」

「あぁ。あいつなら、寿(とし)と一緒に昼飯食いに出かけよったで」


 祝から得た情報に、洋介は複雑な表情で「へぇー」と漏らした。目は笑っていないし、口元が引き攣っている。

 祝と拓人は同時に嘆息し、祝は半眼で洋介の肩へ片手を乗せた。


「なぁ、洋介。ええ加減、小学生に嫉妬するんは見苦しいで……」

「嫉妬? この僕が? やだなぁ、祝。勘違いも甚だしいよ。一体、何年僕の相棒をやっているのかなぁ?」

「一年と半年くらいや。……まぁ、ええわ。言うても聞けへんのやし」


 祝は肩を竦めて溜め息を吐くと、窓の外を見上げた。

 空は青いし、雲は白い。そのコントラストが目に痛く、すぐに視線を屋内へと戻した。





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