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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第二章『(頭が)ヤバい奴ら』
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第十五話『ヤバい奴ら』―2



 静まり返った室内で、翔の欠伸と時計の針の音が時間の経過を知らせる。そんな中、拓人が険しい表情で、顎へ手を添えた。


「それは、本気(マジ)でヤバいですね。頭が」


 なんとなくデジャヴを感じながら、拓人は震えた。今のご時世に、まさか本気で世界征服をしようと考えている連中が居るとは。


「そうなんだよ。ヤバいんだよ! おかしいんだよ! 頭が! 更にヤバいのは、そんな事を本気で考えてる連中が、三百人も集まってるって事なんだよ!」


「なんか、竜忌と拓人もそんな事言ってたね。俺と光で出来るって。世界征服って、楽しいのかな?」


 翔は翔で、(まと)から五百メートルくらい離れたところの話をしている。拓人は呆れた様子で、溜め息を吐いた。


「楽しいわけねーだろ。考えてもみろ。万一、世界中の人間を従える事が出来たとして、それを統治出来るかっつー話だ。それを出来ると本気で思ってるなんて、頭おかしいとしか言えねぇよ」


 深叉冴は何故か、楽しそうだ。腕を組み、大きく頷いている。


「うむうむ。どっかのヒーローものに出てくる、悪の組織みたいだな! 戦闘員は全員、全身タイツを着ておるのか?」


「そんな変態集団、相手にしたくないです」


 うんざりと、拓人が半眼で嫌悪を露わにする。

 謙冴は小さく、そうだな、と呟くと、表紙が黒い手のひらサイズの手帳を取り出した。あるページを開き、皆に見せる。


「全身タイツは着ていないが、団員は(みな)、同じようなオーバーオールを着ているらしい。組織内の役職によって、色や細部が違うデザインとの事だ」


 黒いロングTシャツに、白いオーバーオールを着た人物の写真が貼られている。《天神と虎》の団員らしい。足元はスニーカーだ。オーバーオールの胸元には、星マークが黒糸で刺繍されている。拓人が小声で、黄色のTシャツとデニム生地のオーバーオールじゃなくて良かった……、と神妙な顔で言った。


「因みに、この星の数が多い程、組織内での位が上らしい。最大で五つ星。今得ている情報では、“四天王”と呼ばれている四人のオーバーオールの色が、赤、青、黄、桃色だ」


 ここまで謙冴が説明を終えた段階で、拓人と凌は顔面に感情を宿していなかった。


「し、してん……のう……」

「四天王……、か……」

「支店王?」


 拓人は顔面の筋肉を引き攣らせ、凌は渋面を濁らせ、翔は言葉の意味さえ理解していない。

 潤は拓人と凌の表情を一瞥し、変わらぬ表情を謙冴へ向ける。


「謙冴さん、四天王とは、そんなに驚くような意味を持つ言葉なんですか? 俺は『四方を守る神』、または『組織内で特に優れた四人』と認識しているのですが」


「そうだな……。拓人と凌は多分、お前が思っているのとは違う“四天王”を想像しているんだと思うぞ」


「名称が違うだけで、《P×P》で言う所の“幹部”や、《自化会》で言う所の《SS級》と同じ意味だと思うんだけどなぁ」


 と、景は眼鏡の奥で笑っている。


「四天王が色違いで……」

「戦隊ヒーローっぽいな……」

「オーバーオール戦闘員だらけの?」

「怪盗って可能性も……」

「じゃあ、ボスは尖った鼻が特徴的な丸い体型で、黒スーツにマフラーか……」


 拓人と凌は、余程興味深い話題だったのか――二人で想像上の《天神と虎》について呟いている。翔は置いてきぼりを喰らい、少々ご機嫌斜めだ。まぁ、そんな事は周りの人間にとっては気に留める程の事でもないので、無視されているわけだが。


「っていうか、天神っぽさも虎っぽさも、全く無い衣装って事には誰も突っ込まないんだ……」


 これは、景の意見だ。それに対し謙冴は、組織発足時に予算の関係でこうなった旨を説明した。


「ついでに言うと、団長だけは、背中に虎の刺繍が入ったスカジャンを着ているぞ」


 謙冴の提示してきた情報に、ヤンキーか……、と、見た目が金髪ヤンキーそのものな拓人が唸った。凌はというと、縞マフラーさえ着けてないのか……、と、少し残念そうだ。


「ふふ……。西日本最大級の組織だなんて、凄いですねぇ。お給金はどれ程のものなんでしょうか」


 そんな事を言いながら、康成は景と同じ顔でにっこり微笑んでいる。それに答えたのは雅弥だ。こちらも、似たような笑顔を湛えている。


「スポンサーがついてるのか、自分たちで資金調達をしているのか……って思って、調べてみたんだけど、初期に資金不足が深刻だったから、お金を持ってる、手頃な組織から順に手を付けて行ったみたいだね。給金は安定してないみたいだけど、衣食住は組織内で(まかな)ってるみたいだよ」


 そこはかとなく《自化会》と似通っている組織内情に康成は、どこも大変なんですねぇ、と漏らした。


「ところで、深叉冴君はまだ《自化会》に籍があるの?」

「いや。正式に名前は置いておらぬよ。自由は貰っておるが、儂はあくまで光君の使い魔だからな」


 雅弥は含みのある笑顔で、そうなんだぁ、と返した。深叉冴はその表情と言葉の意味を何となく察し、釘を刺す。


「言っておくが、光君をスカウトしようとは考えんでくれよ。儂の主殿は、あくまで一般人だ」


「ふふ。残念。まぁね。四神の怒りに触れても参るし、声は掛けないでおくよ」


 雅弥は翔に視線を向けて、肩を竦めた。翔は感情の読み取る事が出来ない表情で、僅かに首を傾げている。

 



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