第一話『足音』―2
どこにでもある、何の変哲もない山。
否、山火事で少々焦げている。
燃えていた木々には土が被せられていて、火は無事に収まっている状態だ。
この山、今は“結界”が張られている。
普通の人間には目視できない。
その中に、今しがた仕事を終わらせた人物たちが居た。
「何でお前は、毎度毎度、自分の攻撃で自滅するかなー……」
飴色をした髪の少年――青年ともよべるかもしれない――がうなだれて、大きな溜め息を吐いた。
右手には救急箱。
左手には改造されたマグナム型の銃を持っている。
肩付近まで伸びた飴色の髪の間から、左耳に付いている丸いピアスが、微かに赤く光った。
言葉を投げられた少年は、向かいの木に背を預けて座り込んでいた。
癖のある、江戸茶色の髪をしている。
瞳は赤い。血のような――ワインのような深い赤色をしている。
「だって、俺が攻撃したら、急に爆発したんだもん……」
バツが悪そうに俯く少年。
頭の天辺に太いアホ毛が立っているのだが、今は力なく萎びている。
『攻撃』。
あまり平和的でない単語だ。
ともあれ、銃を持った男を業火で巻いたのは紛れもなく、アホ毛の少年。
少年たちと対峙していた人物たちは、原形など残っていない状態だ。
更に辺りは焼け焦げ、木は倒れ焦げた肉片がそこらじゅうに散らばっている。
この状態を鑑みるに、その中心に居た少年も無事では済まないだろう。
だが、本人は平気そうだ。
飛んできた石が左目に刺さって失明。折れた木の枝が右腕を貫通。
その程度で済んだ。
彼にとっては、これでも比較的軽症の部類に留まっている。
そんな彼は表情を変えず、右腕に刺さっている木の枝を引き抜いた。
そのまま少年は赤い瞳を、自分へ向かってくる琥珀色の瞳へ向ける。
抑揚の少ない声で、こう言った。
「拓人は? 怪我、無い? 生きてる?」
『拓人』は、救急箱を地面に置いて、血塗れの少年の前にしゃがんだ。
「見りゃ分かんだろ。まぁ、魂と体はまだくっついてんよ。あと、お前の攻撃に巻き込まれるのにも慣れた」
穴の開いた相方の右腕に包帯をきつく巻きながら、拓人は嘆息した。
包帯に血が広がっていく。
だが、それもすぐに止まった。
「違うよ拓人。今回は俺の攻撃じゃなくて、相手の爆発……」
「はいはい。さっき、そこに整髪剤のスプレーっぽいのが落ちてたから、それが爆発したんだろ」
にしても威力が凄かったな、と拓人は肩を竦める。
翔は、銃を持ってたから火薬が爆発したんじゃない? と、関心薄そうに言った。
「翔はいつまで経っても、自分で防御するって事を覚えねーよなぁ……」
拓人が、もう何度目かの溜め息を吐く。
翔は所謂“特異体質”というやつなのだが、翔のそれは、中でも“特例”、“規格外”に分類される。
人間の常識など、まるで役に立たない体なのだ。