第一話『足音』―1
二人の少年が元人間を見下ろしている。
それらは四肢が分断されているのだが、頭数から四人分である事が伺える。
暗くてよく見えない。だが、茶褐色の髪を持つ少年がうんざりと息を吐いた。
ブーツの爪先で、転がっている腕を小突く。
「ほんっと、大の大人がわぁわぁと騒いでくれやがって……」
「まぁまぁ。仕事も終わったんだし、早く掃除屋さんに連絡して帰ろうよ」
こちらは、銀色に近い灰色の髪をした少年だ。
染髪なのだろうか。傷んだ髪が、僅かな月光に反射し光っている。
灰色の髪の少年が、パンツのポケットからふたつ折りの携帯電話を取り出したと同時だった。
音も無く走った銀色の鋭い光が、灰色の髪を携えた頭を首から分断させた。
灰色の髪の毛が地面に着いたのに一拍遅れ、茶褐色の頭も地面へ転がった。
それから更に数秒後。
二人の体も後を追う。
◆◇◆◇◆
少年二人の命が消えたのと同時刻。
耳を澄ませば、フクロウの鳴き声が耳に届くような時間帯。
山の中ともあれば、それは比喩ではなく現実である。
遠くから聞こえる穏やかなフクロウの鳴き声に、草木を踏み荒らす音と、男の怒声が加わった。
「このクソガキ共が!」
情緒の欠片もない濁声が響く。
その濁声の男は、右手に自動拳銃を握っている。
銃砲刀剣類所持取締法のあるこの日本では、あまり目にする機会のないものだ。
まっすぐに腕を伸ばし、その銃口を人影――男の言葉を借りるなら“クソガキ”――へと向けた。
月も雲に隠れた暗闇。
湿った枯葉を踏む音と共に、溜め息がひとつ。
「うるさい」
気だるげな声で、右手を動かしながら人影は言う。
手ぶらの様だ。
人のシルエットをした頭部から一本伸びた毛束が、風に揺れた。
次の瞬間には、暗闇が赤く照らされ、辺りの景色が鮮明に浮かび上がった。
橙色に光る木々に、野草。陰影のコントラストにより、景色が切り絵のようにも見える。
下へと続く坂もあることから、ここが山の中だという事が覗えた。
しかし同時に、紅く染まった木々の葉は熱波に煽られて半数が散り去っていく。
瞬く間もなく、鮮やかな紅色に黄金の差し色をした業火が男を包み込んだ。
「うん。やっぱり俺は強い」
頭から伸びた触覚のような毛束をピコピコ動かしながら、人影……、十代半ばほどに見える少年は満足げに呟いた。
刹那――。
男が何の前兆もなく、爆発した。
◇◆◇◆