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番外:活麗園の文化祭3

 

◇◆◇◆



 翔と光はスタンプラリーを終わらせ、景品交換所へと向かっていた。道中、焼き鳥や唐揚げを食べながら。


「光の冥土メイクも見てみたかったな」

「あら、翔が先にお化け屋敷に行こうって言ったんじゃない」


 光としては、自分で多少の化粧を施しているので、正直、冥土メイクで上塗りされるのは勘弁してもらいたい……というのが本音だったりする。

 のんびり歩き、スタンプが埋まったカードを持って交換所へとやってきた二人。


「翔と光ちゃーん!」


 山の中でもないのに、やっほー! と呼ぶ声が聞こえる。

 二人を呼び止めたのは、白装束に天冠を頭に巻いた二人、と……、


「……誰?」


 翔と光は同時に声を発していた。いや、冥土の二人は分かる。長身黒髪メガネと、チビ黒髪八重歯といえば、あの二人しかいない。そして、その二人と行動を共にしている人物と言えば……。

 と、翔の視線がもう一人の服を捉えた。深い緑色のロングTシャツに『OKOME』と書かれている。同じデザインの服を借りて着た事は、翔の記憶にも新しい。


「もしかして、拓人?」


 髪は、光が透けるような輝くプラチナブロンドに対し、目の前の人物は少し赤みが強いハニーブロンド。


「瀬奈にやられた」


 声は、間違いなく幼馴染のものだった。


「折角だから、この格好で校内を練り歩いてやろうと思って」


 とは、メガネの言葉。


「そうそう! お化粧落とすのはそれからで()っかー! ってね!」


 とは、チビの言葉。


「お前らはいいよな。原形がわかんねーくらい塗りたくられてっからさ」


 とは、金髪オカマ……、もとい、拓人の言葉。


「拓人、天空みたいな喋り方に似合いそうだね」


 とは、からあげを咥えている翔。

 光は一人、髪型が人に与える印象は大きいのね、と考えていた。

 五人が景品のクッキーを受け取り、交換所から出ようとした時――。


「あら、翔君じゃない。元気?」


 黒髪ショートの活発そうな女性――恵未とばったり出会った。その腕には、長髪美女、もとい、翔の“先生”をしていた潤。その後ろには、凌と尚巳も居る。


「うん、元気。恵未たちもスタンプ貯めたんだ」

「ええ。翔君は彼女さんとデート?」

「うん。可愛い俺の光だよ。恵未は潤とデート?」

「そうよ」


 ドキッパリと即答した恵未の言葉にいち早く反応したのは、潤ではなく凌だった。


「おまっ! ふざけんな!」


 恵未は潤に絡めている腕に力を入れて、自分に引き寄せる。潤が「痛い」と言ったが、声が小さすぎて誰の耳にも届かなかった。


「何よ、良いじゃない!」

「良くねーよ! 殺されるぞ!」

「う……冗談よ」


 渋々と否定した恵未だが、腕は離そうとしない。


「はーい。人の迷惑になるから静かにしようなー」


 尚巳がスタンプの貯まったカードを人数分受付に提出し、クッキーを貰って帰ってきた。


「はい。恵未にはおれの分もあげるから。そろそろ潤先輩から離れような」


 尚巳からクッキーを受け取り、恵未は唸りながら潤から離れる。

 拓人は、尚巳は恵未さんの親か何かかな? と思いながらそれを眺めていた。そんな拓人の視線に気付いた尚巳が、やはり拓人の服を一瞥してから声を掛けてきた。


「えーっと、拓人はソレ、冥土メイクじゃなくてメイドさん? メイド喫茶してるトコから衣装借りてきてやろうか?」


 因みに、メイド喫茶はアメフト部がやっている。


「何でそーなンだよ。オレはもう化粧落と――」

「いいね! 行こう!」

「わーい! 楽しみー!」


 超ノリノリな友人二人に両脇を固められ、拓人は何か叫びながら連行されてしまった。


「冗談だったんだけど……」


 尚巳がポツリと呟くも、本人たちはもう居ない。


「っていうか、完全に部外者なのよね、私たち……」


 “客”であって、生徒ではないのだ。そこまで自由に出来るものなのかと思ってしまうが……、アレが現役高校生のテンションなのかもしれない。少なくとも、社内と“謙冴の息子”という姿の景しか知らない恵未は、少々呆気にとられていた。

 光は苦笑しながらクッキーの交換を終えた。

 そして、賑やかな“客”がまた来たようだ。


「やー、ほんま今時の中高生ってのはマセとるな!」

「学生に手ぇ出さないでよ。犯罪だから」


 灰色の頭と、紫色の頭。声も賑やかだが、見た目も賑やかだ。

 先に、紫頭、ゴールドの三角ピアス、泣きぼくろ、白マフラーという、個性の塊のような人物――倖魅がカードを持って受付に並ぶ。


「天馬の坊ちゃんと魔女の光ちゃんは学祭デート楽しめたん?」


 泰騎に訊かれ、翔は大きく頷いた。


「うん。唐揚げと焼き鳥は、後でまた買うよ」


 肉の無くなった串が、翔の手元のビニール袋にたくさん入れられている。余程美味しかったのだろう。


「ワシも唐揚げハニーマスタードのソース食うたけど、美味かったわ」

「何それ。俺、塩味しか食べてない」


 翔の眼光が煌めいた。


「翔は味の冒険せん派なん? 色んな味あったから、試してみたらええで」

「ありがと。行ってくる」


 翔は光を連れて、唐揚げを求めて足早にこの場を去った。

 それを見送ってから、泰騎が景品の交換へ向かう。鳴り響く鐘の音。


「わぁ! おめでとうございます! あなたが五十人目となります!」


 受付をしている、料理同好会の女子生徒が総立ちで手を叩く。

 そして、クッキーと共に綺麗にラッピングされたパウンドケーキが手渡された。断面にはドライフルーツが見える。


「わー、ありがと。美味しそうじゃわー。これからも同好会ガンバってんなー」


 泰騎が白い歯を見せて笑うと、女子たちは口元に手を当てて黄色い声を発した。


「イケメンすごー」


 尚巳は口元を不自然に痙攣させた。

 同じ“イケメン”でも、凌は少々とっつきにくい見た目をしているし、潤の見た目に至ってはもはや“美女”な上、更に話し掛けにくい雰囲気を纏っている。

 だからか、今日歩いていても少し離れた場所からコソコソと色々聞こえてきただけだ。泰騎はさぞかし沢山声をかけられた事だろう。

 尚巳は心の中で「イケメンも大変だな」と思った。「泰騎先輩は大変だとは思っていないんだろうな」とも。そしてふと、今し方去って行った人物の事を思い浮かべる。この二人も何だか似てるんだよなー、と思いつつ。


「そういえばさっき、拓人がギャルみたいな化粧をしてましたよ」

(なん)それ! めっちゃ見てぇわ!」

「景さんが、メイド喫茶でメイド服を借りるって連れて行きました」


 補足している凌は苦笑いだ。

 そういえばお前、絶対騒ぐと思ったけど静かだったな。と尚巳が言えば、凌は真顔で「反応に困って何も言えなかった」と返している。

 営業部長がそれってどうなんだ、と少し思いはしたが、勤務中ではないので尚巳は黙っておいた。


「えぇっ!? そりゃ大変じゃ! 写真撮って師匠に送らんと!!」


 何やらよく分からない使命感に駆られている泰騎は、校内マップを広げて一人、人混みに紛れて消えた。


「……拓人、どんまい」


 泰騎が向かったからには百パーセント“着せられる”と確信した尚巳が、胸元で静かに――キリスト教徒ではないが――十字を切った。


「潤先輩! 折角横浜まで来たんですし、お茶して帰りましょう!」


 恵未は文化祭での目的を達成したので、もう次のルートに意識が向いている。


「わー、ボクも行くー。フルーツタルトとか食べたい―!」


 倖魅もノリノリで手を挙げた。


「じゃあ“仏々”に行きましょう。さっきの拓人を竜忌君に見せたいので」


 尚巳が、隠し撮りの写真を皆に見せる。


「お前……いつの間に……」


 凌はスマホの画面を見ながら、少し引いていた。

 恵未はそんな事どうでも良いので、甘味に想いを馳せ、早く早くと潤の手を引いている。

 交換所の片付けも始まったので、一行は“喫茶仏々”へ向かう為、活麗園を後にした。





 

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