第五十七話『世界の平和より』―2
《P×P》の三人と別れ、翔たちは《自化会》本部へと帰ってきた。光は、潤と凌と共に一足先に天馬家へ戻る事となり、別行動だ。
《自化会》会員の面々は正門から中へ入り、翔と拓人以外は我が家ともいえるその建物を念入りに見回している。
「思ったより綺麗だね」
「校舎全壊させた事を思たら、カワイイもんやな」
「だな」
これが、《SS級》三人の感想だった。
爆発の痕跡はあるものの、しっかりと片付けられている。寿途の力が多く働いたのだろう。
ただ、それでもやはり人目に晒せる状態ではない。拓人の結界が無ければ報道沙汰だ。
『お帰りー!』
大手を広げて迎えてくれたのは、霊体となった千晶だった。
一番に翔をすり抜け、拓人に手を振り、祝の体に手を突っ込んでいる。祝が全身に鳥肌を立て、怒鳴り散らす。
「何さらすんじゃダボカスが!」
『あぁーら。女は幽霊でもダメなの?』
「うるっさいわい! 成仏させたるぞコラァ!」
きゃーっ! と笑いながら飛び回る千晶。拓人にとっては見慣れた光景だ。千晶が、半透明で飛び回っている以外は。
暫し戯れたのち、千晶に案内されて本部へ入った。
「翔様、お帰りなさい。祝君もご無事で何よりです。副会長代理は会長室までどうぞ」
康成に笑顔で迎えられ、翔と祝は食堂へ。拓人は会長室へ上がった。
食堂へ入ると、康成が二人に座るよう促す。
「お疲れ様です」
翔にオレンジジュース、祝にジンジャーエールが出された。
ストローを挿さず、祝はグラスを傾ける。
「康成さん。おれらこんな悠長にしとってええんか?」
「ええ。片付けは寿途君のお陰で粗方済みましたし、修繕、立て直しに関しましては会長と深叉冴様と拓人君でお話しなさるでしょうから」
自分用の湯呑を持って、康成も二人の近くへ腰を下ろした。
「それなんだけど、光が大変な時に父さんは何してたの?」
福岡にて、光が深叉冴に『帰って』と命じた事を、翔は知らない。それを察した康成は深叉冴から聞いた一連の流れを翔に伝えた。
「深叉冴様は、輝君と行動を共にした時に伝えられた事を秀貴さんに伝えたりと、飛び回っていたんですよ」
輝の伯父が遺した手記についても、それに含まれるのだろう。秀貴が作成したという、“副会長代理”に関する書類を臣弥へ届けたのも深叉冴だ。
見えないところで頑張っていたらしい父の働きに、翔は「ふぅん」と気のない声で答えてから、ストローでジュースを吸い上げた。
「ま、父さんはおっちょこちょいだけど、そこそこ使えるもんね」
「お前、相変わらず深叉冴さんへの態度悪いな」
思いきりぶん殴りたい気持ちを抑えて、祝が声を低くした。
仮にここで翔を殴りでもしたら、康成に殺されるかもしれない。祝は心の中で盛大に嘆息した。
「翔兄さん、祝兄さん、お帰りなさい」
車椅子を操る寿途が、食堂の入り口をくぐった。表情はいつもと変わらず乏しいが、晴れやかな雰囲気を感じさせる。
千晶が壁をすり抜けた。寿途の頭上辺りを、円を描くように浮遊している。
「寿君、すんごく頑張ったのよー!」
「はい。寿途君が居なければ、被害は三倍くらい膨れ上がっていたかもしれません」
赤髪と藍色の髪が交互に褒める。
話題の人物は照れているのか、口元を僅かに緩めて視線を落とした。
「そう。すごいね。寿途、お疲れ様」
「ほんま、寿はまだちっこいのに頼りになるなぁ」
翔と祝に褒められ、陶器のように白い寿途の顔が赤みがかっていく。
そして、唐突に自分の失敗を思い出した。
「で、でもぼく……お父さんにケガさせた……」
「何てことないよ」
「死んでへんのやから大丈夫やろ」
『別に、寿君の所為じゃないし』
「あんな所に居たあの人が悪いんですよ」
矢継ぎ早に言葉を返され、寿途はもう、何も言えなかった。
慰められているのか、本心から言われているのか……。いずれにしても、父親が敬われていないのは少し引っ掛かる。が、これもいつもの様子なので、気にしない事にした。




