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第五十五話『義兄弟』―3

 

 体育館の反対側まで来たところで、翔が走り出した。何か見付けたらしい。

 念の為、拓人が光を近くへ引き寄せる。


「東陽、生きてる?」


 フェンス近くの木の下に、東陽は倒れていた。大きな怪我は見当たらないが、頭を打っているかもしれない。

 何せ、周りはコンクリート片だらけなのだ。


 翔がペチペチ頬を叩いていると、東陽がゆっくりと目を開けた。徐々に焦点が合う。


「かけ、る……さん……?」


 まだまどろみの中に居るのか、うわ言のように東陽は声を発した。かと思うと、眼を見開き、跳ねるように上体を起こした。


「イツキさん……! 翔さん、イツキさんを見ませんでしたか!?」


 両腕を掴まれながら翔は、洋介が憑りついてた人だろうなとあたりをつけた。


「知らない。でも人の気配があと一個あるから、それじゃない?」


 大体の場所を指差すと、東陽は飛ぶように駆けていった。瓦礫を浮かせて周辺を捜索している。

 翔は、頭打ってるかもしれないのに大丈夫かな、と思いながら、ぼんやりとその様子を見ていた。

 次第に、翔が感じている“人の気配”が弱まってきたので、大きなコンクリートを素手で退かせようとしている東陽に近付いた。


「そこじゃないよ。こっち」


 向かった先には、コンクリートの塊。東陽が動かそうとしていたものより、更に大きい。

 勿論、東陽の能力では浮かせる事は不可能な重量。

 翔は、潤か雪乃を呼びに行こうかとも考えたが、距離があるので間に合わないだろう。いっそ、死後に霊体として現れれば会話くらいは……とも思った。が、霊視の出来ない人間が霊体として現世に留まる確率が低い事は、今回の一件ではっきりしている。


 マヒルもユウヤも……他の四天王や合成生物(キメラ)たちも、霊体となって浮遊している者は居ない。となると、生きた状態でないと対面できないだろう。


 翔はうぅんと唸り、光を呼んだ。

 手招くと、光は拓人から離れ、足元に気を付けながら翔の元までやって来た。


「コレ、消せる?」


 巨大なコンクリートを指差す。

 光は少しだけ顔を伏せ、そうね……、と再びコンクリートを見据えた。


「少し、離れてて」


 翔と東陽と尚巳が二歩下がる。

 光が撫でるようにコンクリートを触った。次の瞬間、触った場所に残ったのは、ベニヤ板ほどの厚みをしたコンクリートのみだった。

 この下は少し空間があるようだが、人が一人入れる程ではない。

 つまり――。




◇◆◇◆




 イツキはただじっと考えていた。

 下半身は痛みすら感じなくなっている。


 コーセーは無事に脱出できただろうか。と、息子の安否を思うと目頭が熱くなった。

 月は自分で光れない。だから息子には“恒星(こうせい)”と名付けた。自ら光り、周りを照らす存在になってほしい、と。


(ああ。僕は夫としても父親としても不出来だったなぁ)


 自嘲する。


 普通に慎ましく暮らしていたなら、こんな事にはならなかっただろう。だが、“普通”ではなかった自分は道を大きく外れてしまった。

 後悔はしていない。心残りがあるとすれば、息子の誕生日をまだ一度も祝えていない事だ。


 ふと、一番新しい記憶が脳裏に蘇る。地震のような衝撃で目を覚ますと、外に居るし足元は崩れているしでパニックに陥った。

 そんな状況下で、アサヒと目が合った。

 一緒に暮らしていたユウヤと違い、殆ど会う事の無かった義弟。“兄”と呼ばれた事すらない。しかも、マヒルをそそのかして人殺しまでさせたユウヤと瓜二つの顔を持っている。

 違う所といえば、口元のホクロと……。


(オーラの形)


 オーラが竜巻のように体を取り囲んでいるユウヤと違い、アサヒのオーラは穏やかに滑らかな曲線を描いていた。

 色は同じなのに、双子でこうも違うものかと始めは驚いたものだ。

 きっとこの子は根が優しいんだろうな。そう思うと、無意識の内にアサヒを突き飛ばしていた。超能力など、使う余裕もなかった。


 意識はそこで途切れている。


 次に気付いた時、目を開けているのか閉じているのかも分からないような暗闇に居た。腰から下が酷く痛み、何かに潰されているのは明らかだった。

 胸から上は機能しているようだが、きっと出血もしているだろう。長くはない、と思った。


「イツキさん、生きてますか!?」


 突如視界が明るくなり、聞こえてきた声。イツキは口を開いたが……、返事をしようにも声が出ない。




 

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