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第五十四話『別れ』―4

 

◇◆◇◆




 凌の読み通り、イツキは屋上に居た。

 絵面だけでいえば、犯人を追い詰めた刑事のような構図となっている。場面だけでいえば、凌に()がある。


 凌は決して、無能ではない。

 社長である雅弥が言っていた通り、戦力としては《P×P》のナンバー3という立場に居る。

 頭も決して悪くはない。

 自分の事を『ナンバー3だ』と思っているわけではないが、最近、自信を喪失する出来事が続いているので焦っていたのかもしれない。


 そう。

 凌は完全に失念していた。


(除霊ってどーすりゃいいんだ!?)


 凌自身、霊は視えるが、それを(はら)った事などない。

 対話の末に成仏した霊ならば居るが、無理矢理あの世へ送った事は皆無だった。


 何しろ、洋介が生きた人間のように立ち回るものだから、“霊”という認識すら薄れてしまっている。


「やあ凌君。君は真面目だね。僕を殺したから仕事は終わったはずだよね?」


 洋介とイツキはそこはかとなく似ている雰囲気なので、違和感なく言葉が入ってくる。

 イツキは優しい笑顔を湛えたまま、凌に語り掛けてくる。

 だから、霊と話しているのだという感覚が麻痺してしまう。


「天后、除霊出来るか?」


 藁を掴む思いで、声をひそめて天后に訊くも、彼女は難色を示した。


「肉体から無理矢理引き剥がす事は出来るけど、黄泉へ連れていく事は出来ないのよね。それは担当が違うっていうか、管轄が違うっていうか……自我のない霊なら簡単なんだけど……」


 万策尽きたか――と、凌が諦めかけた時。呑気な、だが澄んだ声が割って入ってきた。


「凌、除霊出来ないの?」


 頭のてっぺんから、みょん、と触角を伸ばした人物……翔だ。他に人物の姿はない。


「あの人は要らない人?」


 イツキは殺してもいい人物か? と訊きながら、翔は凌の隣に並んだ。東陽は屋上の入り口辺りで後ろを警戒しながら立っている。

 凌は少し考え、


「出来れば生きたまま拘束したい」


 と告げる。

 すると翔は薄い笑いを浮かべ、分かった、と床を蹴って前へ跳んだ。

 凌と戦った時とは別人のような動きに、凌は目を見張る。


 トン。

 イツキの体を翔の禁刀が突いたかと思うと、洋介がイツキの背中から“剥がれ出た”。


「翔。君がこんなに素早く動けるだなんて、驚きだよ」


 半透明の洋介が、険しい顔を見せる。

 素早くイツキの身体から離れようとする洋介と、フォン、と(くう)を斬る軽い音。


「俺は俺に戻っただけだよ。バイバイ、洋介」


 翔の禁刀は洋介の湯気のような霊体を、両断した。

 実に呆気ない終わりに、凌は二の句が継げない。

 しばらくの間、洋介が消えた虚空を見上げていたのだが、洋介は再生しない。

 完全に消滅したようだ。


「……何かオレ……最近ホント良いトコねーんだけど……」


 凌は気を落として嘆息している。 


「っつーか、お前も元仲間に対してあっさりしすぎじゃね?」


 凌の指摘に、翔は小首を捻った。

 血が一滴もついていない禁刀を鞘へ収めながら。


「だって、洋介は光を泣かせた悪い奴だよ? 俺の敵だもん」


 チンッ。

 小気味よい音をさせて刃が隠れたと寸分違わず、足音がふたつ近付いてきた。


 光と東陽だ。


「翔、怪我はない?」


 筒状のケースを持っている光の姿が見えるなり、翔は表情を明るくして光の元へ駆け寄った。


「もう。戻って来ないから心配し……」


 ピシ、ピシ……ミシ。

 ゴ……ゴ……ゴゴゴ……。

 軋む音と共に、振動が体を揺らす。


「大変。崩れるかも」


 翔が言い溢してすぐ。

 校舎が二階から崩れ始めた。


 程なくして、轟音と地響きが激しくなり――校舎は完全に倒壊した。





 

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