第五十三話『憑依』―5
中からは様々な形をした夥しい数の合成生物が、雪崩のように次々と出てくる。
戦意の無い者は体育館の中に留まっているようだが、殆どが外へ足を向けている。
百体から二百体近い数の合成生物を相手にするだけの技量を、朱莉は持ち合わせていないが……。
ドガッ。
朱莉に攻撃を仕掛けた合成生物の体が触れるか否かというところで、その合成生物は吹き飛んだ。
他の合成生物にぶつかり、ドミノ倒しの如く何体か転んでいる。
秀貴が朱莉に持たせた、潤が所有しているものと効果が同じ“自動防御”の符が作動しているお陰だ。
これの効果で、朱莉の体には汚れひとつ付いていない。
しかし、守るだけでは合成生物の数を減らせない。
戦意の無い者は放置し、敵意を持って向かってくる合成生物を排除するよう努める。
金髪の人形はナイフを持って果敢に切りかかる。
朱莉は、ものは試しとミドリに話し掛けてみた。
「サボテンになって針を飛ばすの、出来る?」
頼りにされた事が余程嬉しかったのか、ミドリは大きなサボテンへと姿を変えた。
散弾銃にも負けない勢いで針を飛ばす。
数体は混乱に乗じて走り去ったようだが、針にやられて倒れたり悶絶している合成生物たちが障害となり、雪崩は勢いを失っていた。
ミドリの針ならば、多くの合成生物を抑え込む事が可能。
朱莉が気持ちを明るくして横を見ると、そこには前面だけ針の無くなったサボテンが居た。
すぐに針が生えるわけではないようだ。
朱莉は少しだけ気持ちを暗くして、静かに言った。
「取り敢えず、後ろを向いて……残りの針も飛ばして」
丸裸となったミドリだが、布で出来た金髪人形が健闘している。
絶命している合成生物は少ないものの、足止めとしては上出来だ。
だが、それでは勝てない。
どうしたものか……と朱莉が迫りくる合成生物を眺めていると、銃声がした。
合成生物が二体、緑色の液体を噴出させながら倒れた。
「朱莉、チョー囲まれてんジャン!」
テンションの高い声と共に、両手に拳銃を持った瀬奈が現れた。
中庭の奥からは、澄人も銃を構えて近付いてくる。
その後ろに素っ裸の浩司が股間を隠して浮いているが、朱莉は完全に無視した。
「アンタ元々戦闘向きじゃナイんだからぁー…………って、何ソレぇ!?」
「そいつ、威のミドリじゃないか?」
瀬奈と澄人が同時にミドリを指す。
自動防御されている朱莉は、襲い掛かってくる合成生物たちを払い除けながらいつもと変わらぬ表情で「貰った」とだけ答えた。
「威ってば、アンタの事好きだったもんねー」
とは、吹っ飛ぶ合成生物にトドメを撃ち込んでいる瀬奈で、
「案外、威の霊魂がミドリと融合してたりして」
と苦笑しているのは、澄人だ。
びくりとミドリが反応した。
それには誰も気付かない。
代わりに、朱莉は針が復活した事に気付いた。
再びミドリに、針を飛ばすように指示を出す。
「もし威なら、この裏山に置いて帰る」
いつもより幾分か低い声で、そう添えて。
ミドリは指示通り、合成生物に向かって針を飛ばし続けた。




