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第五十三話『憑依』―4

◇◆◇◆




(校舎にキメラはもう居ないようだから、こっちへ来てみたけど……)


 朱莉は、校庭とは逆側となる体育館付近を歩いていた。

 肩にはセダムの姿をしたミドリが、短い根を服の繊維に絡ませて乗っている。

 朱莉の髪が当たる度にくすぐったそうに葉を震わせているものの、悪い気はしていないようだ。

 寧ろ、喜んでいるようですらある。


 そんなミドリを連れ、体育館の横を歩いていた時。

 朱莉はある事に気付いた。


 体育館の中が騒がしいのだ。

 一人や二人の声ではない。

 もっと多くのざわめきが、(ひし)めいている。


(校舎の一階に居たキメラは精々十体。……他の階は分からないけど……)


 報告されていた《天神と虎》の団員数は、少なくとも三百。

 《自化会》の本部へ百体も二百体も飛んで行っている可能性は、極めて低い。

 となると、残りの合成生物(キメラ)は――。


(もしかして……)


 朱莉は体育館の下部にある小窓から中を覗いてみた。

 (おびただ)しい数の足が見える。

 人口密度から推測するに、透明化している合成生物(キメラ)は居ないようだ。


 しかし、足元しか見えないので全貌は分からない。

 耳を澄ましてみれば、聞こえてくるのは不平不満ばかりだ。


()らなきゃ()られるなら、()ってやんよ!」

「こけ来りゃ衣食住に困らんからって聞いたのに」

「何でこげん姿んされんといかんとね」

「もやし炒めももう飽きたばい」

「こんな、死と隣り合わせの場所だなんて聞いてない」


 うんざりしたもの、絶望的なもの、攻撃的なもの。

 朱莉は、そんな愚痴のようなざわめきを聞きながら体育館の表方面へ足を向けた。


 体育館の横には中庭があり、人の手がろくに入っていないそこには雑草が生い茂っている。

 雪乃たちの居る正門側の校庭は、校舎を挟んだ向こうにあり、ここから肉眼では見えない。


 だが、朱莉には疑似式神の人形たちが居る。

 ここの敷地内に人形を放っていて、その人形を通して校内の様子を視る事が出来る。


 右目と左目で一体ずつ。

 両目は朱莉本人の視点。

 同時に何体もの視点で視ることが出来れば便利なのだが……残念ながら、それは二か国語を同時通訳する程難しい。


 特殊な脳を有していない朱莉は、視覚を直接人形とリンクさせる手法が体質に合っているといえる。


 校庭には、雪乃と泰騎と潤が居た。

 血痕も合成生物(キメラ)の死体もない、綺麗な土の上でレジャーシートを広げている。

 そこへ座り、飲み物と共にクッキーらしきものを食べているように見える。

 それはさながら、ピクニックを楽しんでいる大学生たち。


「遠足……」


 口から、思ったことが零れ出てしまった。

 校庭は平和そうなので、一先ず眼を閉じる。


 反対の眼で三階の様子を覗いてみた。

 翔と東陽が向かい合う形で話し合っている。

 翔の後ろには光が居て、真っ赤な薔薇と、紙のようなものを持っていた。


 聴覚は繋がっていないので話の内容までは聞こえないが、談笑しているようには見えない。

 しかし、誰も負傷していないので眼を閉じた。


(東陽君は内通者だって聞いたけど……)


 翔や光の事を攻撃している感じはしなかった。

 他の場所の事は取り敢えず意識の外へ追いやる。

 朱莉は両目を開き、自分の眼に映る景色を見た。


 体育館の周りを半周して表側に差し掛かった時――パキンッと何かが破裂するような……、ガラスが割れたような音がした。


 朱莉が角から顔を覗かせると、体育館の正面入り口に洋介の式神、シロが浮いていた。

 だが、朱莉も他人への興味が薄い為、このシロクマが洋介の式神である事を知らない。


(何で日本にシロクマの霊魂が? 水族館か動物園に居たの?)


 不思議に思いつつ、視線を動かす。

 その先には、壊れた施錠。

 朱莉は、このシロクマが体育館の鍵を壊していた事に気付いた。


 つまり――、


(閉じ込められているキメラたちが、出てくる……!)


 心中で叫んだと同時に、体育館の正面にある大きな扉が破壊された。




 

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