表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/280

第五十二話『正義と矛盾』―5

 



 時は少し遡る。


 洋介がミコトに取り憑いて、彼女の体を乗っ取ろうとしていた時だ。洋介はミコト目掛けて一直線に接近した。

 ところが、彼女の体に入りかけた時……何かに突き飛ばされた。洋介は訳がわからず、首を捻る。


 ミコトは洋介(こちら)に気付いていない。

 黒猫は洋介に黒い眼を向けて、なぁなぁ鳴いている。


(でも、彼じゃない)


 黒猫の名前を聞いた時に思い出した。

 “なおみ”。

 (オス)なのに女みたいな名前だと真っ先に思った。が、以前、祝に訊かれた拓人の相方の名前の答え。

 それが彼だ。

 まさかこんな所で猫にされているとは夢にも思わなかったが。


(彼は六合(りくごう)の実験で雪乃さんより後ろの番号だったから、何の能力も持っていないはず)


 猫が何らかの特殊能力を持っている線は皆無に等しいだろう。

 だとしたら……。


 赤ん坊を見やる。

 まだ自分の力で歩くことすら出来ない赤ん坊が、洋介(こちら)を睨み付けていた。超能力を持つ両親から生まれたのだから、その子どもも何かしらの能力を有していても不思議ではない。


 しかし、まだ自我があるかどうかも分からないような赤ん坊にそんな事が……?

 そんな考えも浮上するが、洋介はコーセーを危険だと判断し、離脱したのだった。




 そして現在。洋介は再び地下へ来ていた。二人の目的地がここだと分かっていれば、ついて来なかったかもしれない。

 だが、今のコーセーは両親が目の前に居るからか、洋介の存在に気付いていないようだ。


 洋介は、まだ出会って日の浅いこの家族を天井付近から観察する事にした。

 コーセーはきゃっきゃと手を伸ばし、マヒルに手を握られている。


 イツキはミコトに頭を下げた。


「ミコトにはこんな子どもを押し付けてしまって、本当に申し訳ないと思っているよ」

「そんな! イツキ様、顔をあげてよ! あたし、コーセーの事ちゃんと守るから! それで、全部終わったらあたしが引き寄せる(・・・・・)から!」


 ミコトは自分の胸元をこぶしでドンと叩いた。


「ミコトの能力は便利だけど、こっちは疲れるんだよなぁ。今も足がガクガクしてんぜ?」


 マヒルの指の先には、確かに笑っている膝がある。


(もしかして、二人が全力で走ってたのって、ミコトさんの能力だったのかな?)


 洋介は顎に手を当て、眼下の四人を眺める。ミコトの能力なのだとしたら、イツキが自分の能力を使って来なかったのにも納得がいく。


「っつーか、ミコトが敵の心臓を引き寄せりゃ、この件は終わると思うんだけどなぁ」


 マヒルの発言には洋介も驚いた。ミコトは、体内にあるものまで“引き寄せる”事が出来るのだろうか――と。

 そんな洋介よりも驚いているのは、ミコト本人だ。


「うっそ! ヤダヤダ! グローい! 無理! 前にヤクザの心臓引き寄せまくった時、あたし三日間ご飯食べられなかったんだからね!?」


 今にも泣き出しそうなミコトにマヒルが折れ、


「わかった、わかった。もう言わねーから泣くな」


 と、自身の体を少し浮かせてミコトの頭を撫でた。


「とにかく、ミコトはコーセー連れて早くこっから出ろ」

「うん。待っとく……」

「おう! 全部終わったらケータイに連絡入れっから。コーセーの事よろしく頼むわ」


 号泣しながら頭を縦にブンブン振るミコトと、まだ紅葉ほどの大きさしかない手に別れを告げて、マヒルとイツキは地上へと戻った。


(今生の別れかもしれないのに、案外あっさりしたものなんだなぁ)


 これなら、芹沢君の家の方が百倍楽しかったな。

 少し物足りなさを感じながら、洋介はミコトに抱かれるコーセーをチラリと一瞥し、二人を追った。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ