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第五十二話『正義と矛盾』―4

 

「よいしょっ」


 左手に銃を持っている拓人が、右手で小さく円を描いた。今度は衝立(ついたて)のような壁が、廊下から生えるように(そび)え立つ。


 掛け声ジジ臭ぁー、とヤジを飛ばされるも、拓人は気にせず飛び出した。

 教室の壁を蹴って跳んだ直後、後ろの窓ガラスが飛散する。


 確実にユウヤの攻撃範囲内。

 それでも、ユウヤが能力を発動させるまでの一瞬の溜め時間を利用し、ユウヤの背後へと回り込んだ。

 それに気付いたユウヤが、すかさず顔を拓人へ向ける。が、その先に拓人の姿はない。

 代わりに、廊下の後方にある手すりが捩れ飛んだ。


「あっぶね! やっぱ見るだけで捩れるんだなー。おーい、祝。気を付けろよー」


 ユウヤの射程外に居る祝に声を掛ける拓人はというと、祝とは逆側の射程外に居た。

 この距離に居れば、超能力での攻撃は届かない。

 だが、ユウヤの警戒心がMAX状態の今は下手に近付けない。


 どうしたものか……。と拓人が考えていると、リュックを背負った凌と、天后が三階から降りてきた。


『あら。后ちゃんのご主人様、元気無いわね?』


 と天空が問うと、人の姿になっている天后は肩を竦めた。


「心の古傷を抉られた上に、霊体のターゲットがどこかへ行っちゃったのよぉー」


 天后は口に手を添えて、やーねー、と洋介を非難したが、凌はそれが自分に向けられたものだと思い、更に気を落とす。

 それに気付いた天空は励ますつもりで、


「でも、霊体って事は洋介は死んだんでしょ? なら、凌の任務は完遂じゃないの?」


 言葉を繕う。

 しかし、凌はうんざりした様子で息を吐き出した。


「依頼は完了したけど、今回のケースは特殊だからな」


 次に、背中にあるリュックを親指で示す。


「もし、誰かに取り憑いて国外へ逃げようとするなら、コレを取りに戻ってくるだろ。だからコレはオレが持っとく。三階の理科室へ向かう人物がいたら、多分それが洋介だ。オレは下が気になるから、少し降りてみる」


 少しばかり早口で告げると、凌はユウヤの事は無視して階段を降りていった。

 今の会話から洋介が死んだことを悟ったユウヤは、あいつ結構使えたのに! と舌打ちした。

 

「ったく……。ところで、(てる)のにーちゃんはどこ行ったんだよ!?」


 洋介と共に居た筈だが、周りに集中する為に盗聴器の音は切ってある。正直、そんな事を気に留めている暇はない。


「まぁいいや。今はにーちゃんたちを、俺の超必殺技で冥府へ送ってやんよ!」


 ユウヤは両手を広げ、それぞれを拓人と祝へ向けた。両側共に同じ距離に標的が居るので、動こうとはしない。


「なぁ、祝。ロケットパンチとか出来ねーのか?」


 緊迫している場の空気を一気に緩めた拓人の声。祝は半眼で「アホか。出来ても捩られるやろ」とあきれ半分で返す。


「んじゃ、仕方ねーな」


 拓人が左手に銃を構える。まっすぐ、ユウヤに銃口を定めて。

 ユウヤが、おそらく超必殺技名であろう「アルティメット・螺旋!」と叫んだ声と発砲音とが重なり、一拍遅れて祝が「今、なんて?」と間抜けな声を出した。




◇◆◇◆




 同時刻。

 霊体となった洋介はまだ空中をさ迷っていた。


『何だいあの赤ん坊!』


 ミコトに取り憑こうとしていた洋介だが、どうやら失敗に終わったらしい。

 洋介はシロと共に誰も居ない教室で、どうしたものかと思考を巡らせていた。

 その教室の前を、マヒルとイツキが駆けていった。


「あー、この手があったかー」


 洋介はのんびり手を打つと、走る二人の後ろをつけた。




◇◆◇◆


 

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