第四十八話『出発』―5
普通の人間ではない事は、シルエットを見ただけで明らかだった。
ドンッドンッドンッ。
瀬奈の両手にある9mm拳銃から煙が出ている。
足ばかりを狙った弾が、合成生物たちの動きを止めていた。
「拓人さんが言った通り、トリガーに指二本引っ掛けたら両手撃ちがマジやりやすくなったぁー!」
感謝感謝! とピースする瀬奈に拓人も、
「衝撃を上手く肩甲骨の方へ逃がせるようになったな」
とピースを返す。
瀬奈の腕は細いなりに筋肉質なのだが、如何せん指が細い。
アニメだか映画だかに感化せれて二丁持ちに拘っていたのだが、上手くトリガーが引けず、照準がブレブレだったので拓人がアドバイスをしたら、思いの外上達が早かった。
「っつーか、キメラが居るって事は、結界、こっから張っとくべきか?」
とは言ってみたが、この道は一般人も通る。日常的にハイキングコースにしている地元民も居るだろう。
「半径百メートル以内には、人間サイズの生物は居ない」
と言うのは、潤だ。彼のピット器官に感知されないという事は、つまりそういう事なのだろう。
「ねぇ、キメラについてる首輪っぽいのが光ってるよ」
翔の言葉に、雪乃が青ざめる。
「翔さん、離れてください! その首輪には四硝酸エリスリトールが入って――ッ」
ドゴンッ――とくぐもった轟音がした。爆発音だ。
ただ、被害はゼロだった。
翔の目の前には、土のドームが出来ている。爆発はその中で起きていた。
「っしゃ! 今のはなかなか速かったんじゃねーかな!? ね、泰騎さん!」
ガッツポーズをしているのは拓人だ。
「上出来! 被害が無かったのがその証拠じゃろ」
金髪と灰色頭がハイタッチをしている横で、翔はポンと手を叩いた。
「もしかして、ふたりが今朝一緒だったのって、秘密の特訓をしてたからだったりするの?」
カッコイイ! と目を輝かせる翔だが拓人は、そんなハッキリ言われると何か恥ずかしいな……、と渋い顔をした。
そんな拓人の特訓相手は白い歯を見せて笑う。
「実際、二時間やそこらでこの完成度じゃからな。バケモン級じゃで」
それに翔は目を丸くした。
「すごいね拓人。俺なんて潤に合格貰うまで一週間も掛ったのに」
しかも、今日が合格試験のようなものなので、厳密にはまだ合格を貰っていない。
しかし、二か月は掛かると思われていたものが一週間で形になったのだから、御の字だ。
拓人が土で作ったドームを消すと、原形を留めていない焦げた肉片やら体液やらが散っていた。
「わー。跡形もないね」
呑気な声を出す翔に拓人は、一週間前のお前の仕事後みたいだな、と半眼で告げる。
雪乃が抹消ほうきのディア――巨大なハエトリグサ――で掃除を終わらせ、道は元の状態に戻った。
泰騎が、何アレめっちゃ便利じゃがん! と感動している。
「俺がミンチにした人間も、このディアが食べてキレイにしてくれるんだ」
何故かとても得意げな翔に、拓人がまたしても半眼で、お前は少し反省しろよな、と小突いた。
「でも、ディアは雪乃じゃないと扱えないんだよね。前に竜忌が持ったら食べられそうになってたもん」
「竜っちゃん、無事で良かったな」
知らない人物について話すふたりを、凌は後ろから、ちょっとした疎外感を抱きながら眺めていた。
「仲間に入りてぇんなら行けばええのに」
心の中を見透かされたのかと驚きつつ、凌は首を横へ振った。
「ち、違います! オレたち、遠足に来たんじゃないですし! そんな、雑談しながら楽しく散歩だなんて――」
「えっこれって遠足じゃなかったの?」
驚愕の表情をしている翔。ついでに澄人も目を見開いて固まっている。
「センセー、バナナはおやつに入るんか?」
祝は意地悪い顔で拓人に訊く。
「バナナが一本十円でバラ売りされてた時代の話は知らねーよ。因みに、オレならおやつには含まねーな」
「ま、“おやつ”っちゅーモンはそもそも間食の事やもんな。おやつイコール菓子ってのは違うんよなぁー。ほんなら、拓は“バナナがデザート派”っちゅー事か」
拓人は、何でバナナがある事前提なんだよ……。というどうでもいい疑問を祝へ向けた。
遠足気分の人間も含め、一行は敵地となっている廃校へ向かって進む。




