表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第五章『秘密』
218/280

第四十七話『会議2』―5



「ねぇ、拓人」


 翔が話しかけると拓人は椅子を回して、起きたのか、と立ち上がった。


「どっかおかしいとこ無いか?」


 拓人が翔の髪を掻き分けながら頭の状態を見る。特に問題はなさそうだ。出血は止まり、傷は塞がっている。


「うん。大丈夫。ありがと。でね、拓人に訊きたいことがあるんだ」


 なんだよ、と返されたので、翔は上体を起こして壁にもたれ掛かった。頭の中にある疑問をどう言い表すか逡巡(しゅんじゅん)し、言葉を紡ぐ。


「ここじゃない別の世界とか空間から人をよべるとしたら、逆にこっちから向こうへ行く事も出来るって事なのかな?」


 翔の言いたい事が理解出来ず、拓人が「は?」と間抜けな声を出した。翔の言いたいことはよく分からないが、少し考える。


「並行世界とか多元宇宙って事か?」

「うーん……例えば、死後の世界とかさ……」


 拓人は、知るかそんな事、のひと言で済ませる事も出来るが――もう少しだけ真剣に考えてみた。


 拓人自身は、妖精も精霊も妖怪も神も……自分たちが住んでいるこの世界に居るのは一部だけで、ここではない“何処(どこ)か”にはもっと居るのだろうと思っている。

 拓人の天空も、普段消えて居ないのに呼んだら出てくるのだ。では、消えている時は何処に居るのか?

 それはきっと、ここではない“何処か”だろう。拓人はそう考えている。

 “何処か”で寝ているのか、暮らしているのか……可能性が高いのは前者だ。


 例えばの話、と切り出す。


「瞬間移動をするためには一度体を粒子化して再構築すればいい……ってのが一説にあってな。あの世から来るのは魂だけの状態だから可能だな。体っていう実体がねぇわけだから。でも、今の科学技術じゃ生きた人間が空間を移動するってのは、オレが知る限りじゃ不可能かな……とは、思う」


 そう言ったものの、それはあくまで科学の話。実際に空間を移動する存在も知っているので、一概に言える事ではない。

 深叉冴や、輝の疾風丸がその例だ。


 ただ、それらが空間を行き来する“原理”の説明をしろと言われると、それは拓人も専門外なので分からない。

 そもそも、自分が扱っている結界符ですら“どうしてその中に居る存在を外界から遮断する事が出来るのか”という原理を述べろ、と言われても“そういう力を持っているから”としか答えられない。


 つまり、“そういう力を持っている”人が別の世界とこちらの世界を繋ぐ可能性というのはあり得る。そういう事だ。


「光さんたちみたいに、別の世界から直接“()べる”人なら出来るのかもな」


 翔も考えた。が、足りない知識では答えは出なかった。


「そっか。ありがと。俺、ちょっと出掛けてくるね。十二時までには帰ってくるから」


 立ち上がり、靴を履く。軽く伸びとストレッチをする翔に拓人が、どこに行くんだ? と首を傾げた。

 翔が、窓のサッシに足をかけて、振り返る。


「ちょっと、薔薇を買いに」


 そう言い残すと、翔は窓から飛び出した。


「……そーいやあいつ、半分寒太だっけか……」


 失念していた事が意識に浮上する。

 当たり前のように窓から出ていった翔に、拓人が呟く。そして、開け放されたままの窓から下を覗く。


 脚を折ったらしい翔が、地面に這いつくばっているのが見えた。


「いや、そこは羽出して飛べよ」


 誰も聞いていない事は百も承知だが、拓人は突っ込まずにはいられなかった。




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ