第四十七話『会議2』―1
《自化会》本部。
会議室には、動ける会員が集められていた。
《A級》九人、《S級》五人、《SS級》二人。この前会議をした時から、人数が約半分に減っている。更にここから担当場所を振り分けなければならない。
横目で会長の臣弥を見やれば、いつもの締まりのない顔であんパンを咥えている。拓人はブチ切れそうな頭を鎮める為に、深呼吸をした。
演台に両手を突いて音を鳴らすと、全員の顔が前を向く。それを確認して、話を切り出した。
「あー、昨日ここで起きた事は聞いてる。大変な時に最上位のオレらが不在で悪かった」
一度頭を下げ、次に顔を上げた時――余程怖い思いをしたのか、泣いている《A級》の少女が目に入った。拓人と同じグループの少女だ。
「愛、泣いてもいいけど、他所行ってくれ」
名指しすると、愛の体がびくりと跳ねた。
「オレたちは下級会員を守る為に居るんじゃねぇ。自分の身は自分で守るのが基本だろ。その上で、一般人に危険が及ぶのを防ぐってのが、本来の活動内容の筈だ」
悪意から人を守り、保護する為に力をつけている筈である。ただ、その本質を忘れさせるような活動内容が多いのも事実。
「今回の件で本部に居た奴等がしなきゃならなかったのは、養護施設に居た子どもたちの保護だったわけだが……守るべき対象の被害を一番大きくしてどうすんだ」
このひと言には他の会員も頭にきたのだろう。大半の会員の目付きが鋭くなった。
刺さるような視線を突き付けられても、拓人は淡々と続ける。
「オレに対して敵意を向けるんなら受けてやるから後で来い。そんで、オレはそんな奴にゃ背中を預ける気にならねぇ。っつーわけで《S級》の朱莉と澄人と瀬奈は福岡までついて来い。その他は全員本部で待機だ。質問がある奴は挙手しろ」
《S級の》朱莉、澄人、瀬奈は表情が全く変わらなかったので名前を挙げられた。澄人と瀬奈は、拓人と同じグループの会員だ。
そして、上がった手はみっつ。
「じゃあ、澄人。何だ?」
当てられ、澄人は座ったまま質問を飛ばす。
「前に資料で貰いましたけど、《天神と虎》って何人でしたっけ?」
「正確な数は不明だけど、約三百人らしい。今回みたいに虫が含まれると、更に増えるだろうな」
敵の数を聞いて、今まで拓人を睨んでいた会員の顔面が蒼白になっていく。
「次、瀬奈」
瀬奈は明るめの茶髪を指先で弄びながら立ち上がった。
「拓人さぁ~ん。それを全員殺せばいいんですかぁ~?」
「いや。保護対象が二名と一匹居る。一人はこの前ここに来た、光さんな。後で写真見せるから、しっかり覚えとけよ」
はぁ~い。と手をもう一度手を上げて返事をし、瀬奈は席に座った。
「最後、朱莉」
朱莉は金髪の人形を抱いて座ったまま、静かに言った。
「移動手段と出発時間は?」
「今日の午後一時に駐車場集合。そこから飛行場まで向かう。飛行機は借りるから、武器は各々いつものを準備しといてくれ。予備の弾もしっかり持っとけよ。無い奴は“匣”まで取りに行っとけ。弾の在庫は先週オレが補充しといたから」
朱莉に――というより澄人と瀬奈に向けて言うと、三人が揃って首を縦に振った。
イラついてんのは分かるけど、ちょっと強引だよなぁ。と潜めた声が聞こえたので、拓人の自然も自然とそちらへ向く。
発言者の体が強張った。
「そんなに睨んだるなや。相手ビビっとるやん」
新しい声がした方へ、視線が集まる。
口元にピアスがついている、黒髪の小柄な男が入り口に立っていた。右手を上げて入ってくる。
「祝、早かったな」
「夜中に《P・Co》の人らがぎょーさん来てアレやコレやって色んな腕つけてくれてなぁ。あ、拓の友達も来てくれたで」
「景だろ? あいつ、神経繋げるの楽しみにしてたからな」
「そやそや。康成さんの弟さんな。お陰で鬼かっこええ腕が手に入ったわぁ。おーきにな!」
祝が腕を曲げて、マットコートの施された黒いメタルアームを見せた。しっかり神経が繋がっているので、指も一本一本動いている。
拓人は、シリコン素材を選ばねーあたりが祝っぽいな、と思いながら「気にすんな」と歯を見せて笑う。
「へー。祝、カッコイイ腕になったね。俺じゃ絶対手に入らないから羨ましいな!」
翔が目を輝かせて、至近距離で祝の腕を見る。
「お前にしたらええ趣味しとるやん」
祝も悪い気はしていない様子だ。
「ところでさぁ」
くるり。翔の視線が祝の腕から、《A級》がかたまって座っている辺りへ移る。
「今拓人に文句言った奴、拓人が言ってる意味も分かってないくせに喋らないでくれる?」
過去に見た事のない顔で睨まれ、発言者がまたしても体を強張らせた。代わりに、隣に座っている会員が口を開く。
「要するに『足手まといは来るな』って事……ですよね?」
「分かってんじゃん。拓人は優しいからね。弱い奴は大人しく生存率が高い方に居ろって言ってんだよ。それに文句があるなら、こっちについて来ればいいんじゃない? 俺が合成生物の前に放り出してあげるからさ」
イラついているのは拓人ではなく、翔のようだ。現在の許嫁の安否もはっきりしないので当然だろう。寧ろ、今まで大人しかったのが不自然なくらいだ。
その様子に、祝が瞬きを繰り返した。
「お前、言うようになったやんか」
「祝程じゃないよ」
「どーいう意味や」
「そのままの意味だけど? あと、その腕後で触らせて」
『はーい! ふたりとも、黙んなさい!』
いがみ合っているのか、じゃれ合っているのか……そんなやり取りの間に、力強い女の声が割って入った。




