表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第五章『秘密』
211/280

第四十六話『新種』―3

 

 意識を元へ戻す。


「あぁー、でも、洋介さんがこっちに来てるとなるといよいよヤバイな。あの人が裏切ったって聞いたから《自化会》の戦力が二分すると思って帰って来たのに」

「アサ!」


 コーセーを背負ったマヒルが走って来た。


「姉ちゃん、久し振り。コーセーも元気かー?」


 キャッキャと笑っているコーセーの頭を撫でると、東陽が腰を屈めてマヒルと同じ目線になる。


「姉ちゃん、ここは危険かも。コーセーを連れて逃げた方が良いよ」


 先刻、光がミコトに言ったのと同じ事を、東陽はマヒルに言った。

 彼が言うという事は、本当にここが危ないのだろう。彼らにとっては。

 しかし、マヒルはきょとんとしている。


「何言ってんだ? ボスの私が逃げるわけねーだろ」

「コーセーも居るのに何言ってんの!?」


 ミコトが叫んだ。


「赤ちゃんにはお母さんが必要なの! 分かるでしょ!?」

「そりゃ分かってんよ。そんで、コーセーを巻き込みたくねーってのも本心なんだ」

「わけわかんない……」


 脱力したミコトが落ちるように、すとん、と椅子に座った。


「ま、意思は次代に繋げるっつーかな。私はお飾りボスだけど、色々ヤっちまったのも事実だしな。アンチが来るなら、それを()るだけだ」

「部外者のアタシが言う事ではないけれど、マヒルさんはきっと逃げられない。だって、ボスだもの」


 光がきっぱりと言い放つ。

 マヒルは表情を変えない。ミコトと東陽には睨まれた。


「アタシは《自化会》の人間でもない。アタシは魔女なの。逃げようと思えば、いつでも逃げられる。でも、ここに居る。関わってしまったら、それは縁。仕方ないのよ」


 光は東陽に向かって肩を竦める。


「アタシを人質として使いたいなら、それも構わないわ。まぁ、効果があるかは分からないけど。それとも、役に立たないから殺す?」

「貴女を裸にひん剥いて放り出せば、面白いものが見れそうだなとは思いますけどね」


 東陽も同じように肩を上げた。


「賢明な判断じゃない」

「そうね。きっとこの辺り一面が消え失せるわ」


 “誰の所為で”とは言わない。


「アタシにとっては《自化会》も《天神と虎》も人殺しの集団なの」


 またしてもきっぱり事実を述べる。


「でも、それならアタシが同罪なのも事実。そして、こんないざこざに赤ちゃんは巻き込みたくない。それがアタシの意思」


 自力では生きられない弱者の保護を最優先とする。


「だから、アタシは……コーセー君を連れて逃げるのはミコトさんが最善だと思ってるの。当然、これは赤の他人の意見だから聞き流してくれて構わないわ」


 光は言いたい事を言い終え、大きく息を吐いた。


「ごめんなさい。ちょっと、外の風に当たって来るわ」


 何に対して謝ったのか自分でもよく分からないまま、光は職員室を出た。

 その後を、黒い影が追いかける。




「何よあいつ! 何様!?」


 ミコトはおかんむりだ。立ち上がって地団駄を踏んでいる。

 対してマヒルは「私は賛成だけどな」と呟いた。


「ボスも冷静になってよ! だってあいつ、わたし達がやられるの前提で話してんのよ!?」

「ミコトこそ冷静になれ。こういう時は最悪の事態を想定して動くもんだって、災害シミュレーション番組で言ってたぜ?」


 ムキーッ! と頭から蒸気を出して憤慨するミコトを、まぁまぁ、とアサヒが宥める。


「なぁに。どんな奴が来るかは知らねーけど、後で合流すりゃ問題ねぇ。だろ?」


 ピンク色の唇を尖らせて、ミコトは依然ムスッとしたまま、まぁね、とだけ答えた。腕を組んで椅子にどっかり座る。足は机の上に置いて。

 マヒルは、そういやぁ、とアサヒに話を振る。


「《自化会》って、どんな奴が居るんだ?」


 アサヒは口元のホクロに指を添えて、少し考える。


「そうだな。光さんが居るから、あの人は多分ここへ来ると思うな」


 独り言のような呟き。

 マヒルとミコトが、あの人? と揃って眉根を寄せる。


「光さんの婚約者。体中串刺しになって喜ぶ人」

「何それ……異常者?」


 ミコトが青くなる。アサヒは困った顔で笑いながら頷いた。


「ユウとは違った意味でクレイジーだなぁ。自分で自分の腕を刺して、あいた穴から向こうの景色を眺めるような人だよ」


 アサヒが喋れば喋るほどヤバイ人物像しか浮かばず、ミコトは黙ってしまった。オレンジジュースが好きみたい、という追加情報は、彼女の耳には届いていないようだ。


「っていうか光……そんな奴と結婚すんのか……」


 光から婚約を迫ったと知らないマヒルは、光に同情した。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ