表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第五章『秘密』
210/280

第四十六話『新種』―2

 

――数分後――


「ちょっと……吐きそうなんだけど……」


 青い顔で口元を抑えるミコト。


「……あれは……カッコイイのかしら……」


 同じように青い顔で眉間を狭めている光。

 その足元を、トットットッと涼しい顔で歩く尚巳。


 ユウヤはご満悦だったが、女性人気は皆無なものを創造したらしい。


 これから地下に居る出来損ないと戦わせるんだ、とか何とか言っていたユウヤにミコトが「わたしたちは遠慮するわ」と言って離れてきた。


「男子ってホントあーいうの好きよねー。信じらんない!」

「ミコトさん」


 しー、と光が口の前に人差し指を立てる。

 ミコトも、話し相手が出来た事で気が緩んでいたのだろう。口にファスナーを閉めるジェスチャーをして、一度黙った。すぐにファスナーを開く。


「ところで、さっきの話なんだけど。逃げ道なんてここには無いわよ」

「でも、アキトさんやゴロウさんはバイトへ行くわよね?」


 光が問うと、ミコトは、ああー、と天井を見上げた。


「あの二人も、博多から出たらドカンよ」


 ユウヤの許可が無ければ、市外へ出る事も出来ないらしい。


「ユウ君が作らせた装置を中心に、半径二十キロ離れたらアウト。体半分グチャグチャよ」


 実際に見た事があるのか、ミコトの顔が歪んだ。

 光も、それは悲惨ね、と自分の手首を見る。黒いバンドに赤いランプがひとつ。

 とてもシンプルだ。こんな小さなものにそんな威力が有ることにも驚きを感じていた。


「ユウ君は色んな技術者を連れて来ては色々作らせて、ちょっと気に入らない事があるとすぐに殺しちゃうの。だから、コレの外し方も今となっては知ってる人が居ないのよ」


 ミコトは自分のリストバンドを見せるように手を振った。


「ユウヤ君がミコトさんにコレを着けるなんて、アタシには意外に思えるんだけど……」

「あー……わたし、面白半分で自分で着けちゃったのよね。しかもユウ君、解除方法を聞く前に作った人を殺しちゃうんだもの」


 本当に後先考えないのね、と光は内心呆れ顔。


 光は世界征服など出来るとは思っていないが、少なくともユウヤは本気だ。力を持っている子どもは強い。何故なら、全力で向こう見ずだからだ。

 破滅へ向かっていようとも気付かず、気にせず、前だけを見ている。

 普通ならば止まる道を突っ走るのだから、強いものだ。


(お兄ちゃんも似たような所があるのよね……)


 類が友を呼んでしまったのかと思う。

 本日何度目かの溜め息をついた時――、


「光さん、お元気でしたか?」


 窓の外から声を掛けられた。ここは三階。目の前に人が浮いている。


「あなた……」


 光が目を大きくしていると、コンコンと窓をノックされた。


「開けてもらえますか?」


 にっこりと微笑んでいるのは、ユウヤと瓜二つの顔。違う所と言えば、人当たりのよい笑顔と口元のホクロ。

 光をさらった張本人。


「東陽君……」


 鍵を開けると、東陽が窓を開けて入って来た。


「『アサヒ』が本名なんです」

「アサ君、久し振りー」


 ミコトはひらひら手を振って東陽を歓迎。


「騒がしいけど、何かあったんですか?」

「んもー! アサ君敬語やめてよー!」

「ごめん、ごめん。なんか癖になっちゃってて」


 はにかむ東陽の背中を、ミコトがバンバン叩く。


「なんかー、《自化会》から人が来てんのよねー。えっと、何て言ったっけ?」

「洋介さんと……こうじ君……だったかしら」

「そーそー! コウジの方はさっき……」


 何を思い出したのか、ミコトは青ざめて口元を押さえ込んだ。


「……ユウがまた何かやったんだ?」


 東陽が困り顔で小首を傾げる。


「うぅ……ユウ君はいつも何かしらやってるけど……。一体何と合成したらあんなのが……」


 ミコトの背中をさすりながら、アサヒが嘆息した。


「ったく、あいつは……。派手にやるとアシがつくから止めろって言ってんのに……」


 それはもう手遅れじゃないかしら……。と思いながら聞いていた光へ、アサヒが顔を向ける。


「ごめんね光さん。怖かったでしょ」


 返事をする前に、東陽が話を続けた。


「ポロッと光さんの事を話したら、ユウヤが『連れて来い』ってうるさくてさ。でも僕は《自化会》から動けなかったから、お使いを頼んだんだけど……」


 視線をミコトへ移す。


「シンジさんは?」

「死んだわよ」


 やっぱりかー、と東陽。


「あの怪我じゃそうなるだろうと思ったんだ」


 ユウは役立たずが嫌いだから……。と表情を曇らせた。


「ねぇ、東よ……アサヒ君。翔には会った?」

「翔さんには会ってない。拓人さんや他の上級会員にも。あ、凌さんと康成さんには会いましたよ」


 意外な名前が出てきて、光は怪訝な顔をする。


「凌君……は、翔と決闘した人よね。勉強を教えてもらうって言ってたけど……。康成さんは……」


 いつも天馬家で家事をしている筈だ。外出するのは買い物の時くらいだと、光は思っていた。


「ふたりとも《自化会》の本部に居たよ。康成さん、会長の第二秘書だったんだね。危うく殺されるところだったよ」

「秘書……」


 それで、家で家事以外にパソコンへ向かったり、書類に何か書いたりして、その書類を会長宛てとして拓人に渡していたのかと合点がいった。


(アタシったら……ちょっと疑ってたわ……)


 疑心暗鬼になっていたのだろうか。少し自分を恥じた。


(拓人君も倫さんも何も言わないんだもの)


 つい、他人に責任を向けてしまう。

 そもそも《自化会》とは本来関係ない自分にそんな話題が持ち上がるわけがないのに。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ