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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第五章『秘密』
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第四十五話『行き先』―4

 

 そんなに喜ばれるとは思っていなかった潤だが、拒絶されなかったので翔に向かって言葉を続ける。


「一応、教える事は教えたが、それが身になっているか確認しないと依頼の完了にはならないからな」


 それを聞いて、やったぁ! と両手を叩いて喜ぶ翔に潤は、


「とはいえ、俺は部外者だからな。敵地が学校なら、俺は校庭で待機している形になる」


 校庭にいる敵は俺に任せろ、と言っているのだろうが、翔には伝わっていないだろう。


「キメラ相手に出来るとか、めっちゃ面白そうじゃがん! 校庭に()る奴は任せてな!」


 潤が遠回しに言った事を通訳しつつ、泰騎も挙手した。


 完全に別組織で、何なら最近まで敵対視していた組織なのだが――幸いと言うべきか、この場には《P・Co》を敵視している者が居ない。


「《自化会》は怪我人だらけで戦力が大幅ダウン中なので、助かるのう!」


 死んでいるが除籍されていない男が歓迎すらしている。


「深叉冴さん、簡単に言いますけど《自化会(ウチ)》には《P・Co》さんを恨んでる奴が結構居るんですよ?」


 拓人が呆れ顔で指摘した。

 深叉冴は驚愕の顔で、そうなのか!? と叫んでいる。


 この前の会議を何だと思ってたんだ……。拓人は口に出さないように心の中での呆れを溜め息として吐き出して、康成へ顔を向けた。


「本部……そんなにヤバいんですか?」


 聞かずとも、分かっている。だが、現場に居た人物の口から聞きたかった。


「洋介君は逃亡、浩司君も依然行方不明。千晶さんは死亡して、祝君は両腕欠損、寿途君は右脚負傷……。養護施設の子どもたちが合計十五名死亡。その他重傷者二十名……ってトコですね」


 無事な会員を挙げた方が早い被害状況だ。


「そういえば、千晶さんを殺した犯人……拓人君の後輩じゃないかって、千晶さんが言っていましたよ」


 言いながら、康成はハンカチを取り出し、中から何か摘み上げた。

 カラン、と軽い音を立てて、薬莢を脱いだ銀色の銃弾がテーブルに置かれる。


「これ、千晶さんの頭部に撃ち込まれていた弾です」

「浩司ですね」


 手に取る事もなく拓人に即答され、やっぱりですか、と康成が銃弾をハンカチへ戻す。


「浩司はオレが担当します。あいつが逃亡したり千晶を殺すに至ったのも多分、親父の所為でしょうし」


 活麗園(かつれいえん)で起きた事も、秀貴と朱莉から聞いている拓人はここに居る他のメンバーよりも状況把握に明るい。

 言い方に少々トゲはあったが、康成は頷いた。


「千晶さんの話によりますと、洋介君と浩司君は一緒に行動している可能性が高いそうです。洋介君が浩司君を殺していなければ……ですが」


 洋介の性格を知っているからこその発言。彼は、邪魔だと思えば浩司を殺してひとりで行動しているだろう。


「洋介が《P・Co》と関りがあったとしても、今回向かう先は《P・Co》ではなく《天神と虎》か海外でしょう。海外なら、故郷があるロシア。もし、洋介が浩司を殺していた場合、死体探しは後回しです」


 拓人が淡々と言い終え、茶を啜る。

 洋介の両親が元々 《P・Co》の人間で《自化会》に殺害されたから元々裏切る可能性は十分あったという事については昨晩、秀貴(ちちおや)から聞いていたので、拓人は先程『洋介が元々 《P・Co》の人間だ』と聞いても驚かなかったわけだが……。裏切るかもしれない人物を長年在籍させていただけではなく、組織の上部に置いていた《自化会》の体制について不満と呆れが膨らむ一方だ。


 ここで、話題に乗り切れていなかった翔が口を挟んだ。


「ねぇねぇ。洋介って《P・Co》に居たの? 何で今は《自化会》に居るの?」


 首を捻り触角を“?”のような形にして、翔が眉間に皺を寄せている。


「洋介君……本名はキリル・スミルノフって言うんですけど、彼のご両親は《P・Co》の工作員をしていたんです。で、過去に《自化会》に潜り込んでいて――」


 康成がイチから教えている間に、倫は空いた食器類をまとめて流し台へと運んだ。



 


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