表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第五章『秘密』
205/280

第四十五話『行き先』―2

 

 皆の真ん中に出現した深叉冴は、その場でくるりと回って揃っている面々を見回すと、


「大人数だな! 丁度よいから、朝食を摂りながら聞いてくれ!」


 両手を広げて、星が出るようなウインクを飛ばした。


 左前襟の黒装束を身にまとったジジイ口調の少年を先頭に、全員食卓へ向かう。


 人数が増えたのでテーブルを追加し、料理を置く。白飯、味噌汁、鯖の塩焼きにミニトマト。拓人と泰騎の前には温かいお茶が置かれた。

 それらを囲い、揃って「いただきます」と手を合わせる。


 席に座らず腕を組んで立っていた深叉冴が、パンと手を叩いた。


「折角 《P・Co》の子が()るので、そちらから報告しようかの」


 どこに隠し持っていたのか、深叉冴はゴソゴソと背中からフリップを出すと皆に見せた。

 それには、点がみっつ――多分、目と口だろう――ある、黒い髪の毛が生えた顔らしきものが描かれている。そこから矢印が出ていて、その先には、黒い三角形がふたつ乗っかっている黒い大きな丸がある。


「まず、尚巳君は生きておる。健在とは言い難い事に、どうやら黒猫になっておるらしい」


 この場に居る全員がカマキリ男の一件は承知しているので「合成()られたのか」と悟った。


「俺猫嫌いなんだけど」


 とは、全く空気を読んでいない翔の言葉だ。尚巳が黒猫になっている事を事前に聞かされていたにも関わらず、顔面に皺を寄せている。


「黒猫と合成されたって事は何となく分かるんですけど、……それって……元に戻るんですか?」


 凌は、以前冗談で言った事がマジになった! と内心、嫌な汗でびちゃびちゃになってしまっている。

 深叉冴はその場でくるくる回り、裏ピースを目元に当ててポーズをとると、元気よく言った。


「分からぬ!!」


 全力ともいえる声量で応えられたが、答えは出なかった。


「完全に体が分離して、所謂魂が完全に尚巳君のものであれば、深叉冴様なら元に戻せるでしょう?」


 一旦箸を置き、康成が訊く。しかし、深叉冴の表情は曖昧なものだ。


「儂も、猫の状態の尚巳君に直接会ったわけでは何とも言い難いんじゃよ」


 尚巳の場合、精神的に猫より勝っていたから意識……魂は尚巳のままで、体が黒猫なのは彼自身が肉体への執着が弱かったからではないかと、深叉冴は自分の考えを述べてみた。


「虫と合成させられた人たちが自我を保っていたのは、本能で生きている虫より人間の方が魂レベルが高いから取り込まれなかったって事なんですね」


 倫も独自に話をまとめる。


 実際のところは不明だが、その場に居た全員が納得した。


「輝君は召喚術より、現物を扱う……そう、広義で言う、錬金術が専門でな。合成生物についても詳しい彼が言うには、人間と何かの合成は勿論禁忌とされているらしいのだが、体の大きさは関係なく知能の高い生き物と人間の合成は特に危険らしい」


 これは、深叉冴が輝と共に福岡へ行った時に聞いた話だ。


「今回、尚巳君は猫だったからセーフだったのだろうがな。もし、動物の意識に人間の知能が加わった場合どうなるのか……とも言うておったわ」


 輝がそれを楽しそうに話していた事は伏せ、深叉冴は肩を竦めて話を終えた。


「ま、生きとんなら何とかなるじゃろ」


 と尚巳の上司は食事の代わりに出されたお茶請けを口に放り込んで、ししし、と笑っている。


「尚巳は器用だから、きっと何とかしていますよね」


 と、尚巳の元相方もつられて楽観的になっている。以前、尚巳が生きていると知った時には泣いて喜んでいたというのに。


「ところで、光さんは見付かったんですか?」


 拓人が深叉冴に問うと、黒髪赤眼の少年は頭を掻いた。


「見つかった事には見付かったんだが……」

「父さん役立たずだから、光の事置いて来たんだよ」


 昨夜、光には会えたが帰れと言われたので帰って来た、とだけ深叉冴から聞いていた翔が、父をじっとりと睨む。

 深叉冴は深叉冴で、そう命じられれば従うしか……もにょもにょ、と小さな声で何か言っている。


「俺、すぐにでもその《天神と虎》とかいうトコにカチコミに行きたいんだけど」

「ウチの尚巳も居るのに、余計な事すんなよ!」


 凌が声を荒らげた。


「まぁ、光さんなら大丈夫だろ」


 とは、拓人の言葉だ。


「主殿……光君の所へは輝君が行っておるはずだし、……まぁ……多分……」


 深叉冴の声がどんどん小さくなる。その兄の思想に問題がありそうだという事実は、深叉冴の口からはなかなか言えない。

 何せ、生きた人間の眼球を欲しがるような人物だ。正直なところ、何をしでかすか分かったものではない。


「オレとしては、福岡県の人たちが巻き添えを喰うんじゃないかって方が心配かな」


 拓人が湯呑を置きながら言った。


「それは、私も……」


 今までずっと黙っていた雪乃が、小さく声と手を上げた。


「現に、カマキリ男さんの時に怪我人が出ていますし……数が増えると、被害も……」


 控えめな発言を済ませ、雪乃はまた口を噤んだ。


「雪乃さんのつるも《天神と虎》が拠点としている廃校を囲ったり出来ませんしねぇ……」


 康成の何気ないひと言を、雪乃は掬い上げた。


「私と切り離した状態で、三時間程で枯れる(つる)のドームを作る事は可能だと思います」

「それに結界を貼りゃあ強度も増すかな?」


 拓人が唸る。


「っていうかさ。拓人の結界、思いっきり泰騎に破られてるよね?」


 翔が半眼で、きっぱりと言った。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ