表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第五章『秘密』
203/280

第四十四話『光と尚巳と来客』―5

 


 話し始めたのは洋介だ。


「僕は元々、両親を殺した《自化会》を潰す為に《自化会》に居たんだ。けど、失敗したからここへ来たんだ」


 簡潔すぎるが、光の顔を引き攣らせるには充分な内容だった。何となく胡散臭さは感じていたので、そう驚く事はなかったのだが――、


(それじゃアタシ、裏切り者に裏切り者の事を尋ねたのね……)


 少しばかり慙愧(ざんき)の念が生まれる。と同時に、深叉冴は洋介の事を疑いもしていなかったのかと、軽く呆れもした。


(まぁ、深叉冴さんってかなり楽観的なところがあるから、納得かも)


 自分が深叉冴に、使い魔になってくれないかと話を持ち掛けた時も、大層楽観的だった。そんな事も思い出し、将来自分の義父になるかもしれない人物に溜め息を漏らす。


 視線をテーブルへ戻すと、今度はユウヤが身を乗り出してテーブルに頬杖を突いていた。


「ハーフの兄ちゃんが《自化会》に恨みを持ってるってのは分かった。で、アンタは何でここに居るんだ?」


 浩司を見る目には疑いの色が滲んでいる。

 浩司は浩司で、ここへ来たはいいが自分の身の振り方に未だ決心がついていない様子だ。その挙動がユウヤをイラつかせていた。


「俺、迷いのある奴嫌いなんだよなぁ」


 わざとらしく声を張って言うと、ユウヤは再びソファーへ背中を預けた。そして、ひらめいた! とばかりに手を打ち、勢いよく立ち上がる。


「じゃあお前、どれでもいいから左手の指三本切り落としてみろよ。そしたら仲間に加えてやんよ」


 どこに隠し持っていたのか……大振りなナイフをテーブルに投げると、ユウヤは脚を組んだ。


 極道か、マフィアものの映画かというようなワンシーン。理不尽で非倫理的。そんな光景を見せられている事にげんなりしながら、光はユウヤの後頭部を眺める。何を考えているのか、まるで分からない。


「三十秒以内な! いーち、にーい」


 確実に三十秒をオーバーしようなカウントを聞きながら、光は血液の広がるテーブルから目を逸らした。




「さーんじゅう!」


 ユウヤの明るい声が三十秒を知らせ――テーブルの上に三本目の指が転がる。ユウヤの希望通り。


「わー! すっげぇ! 文句ひとつ言わずに、ホントにやるんだな! そーいう訓練とか受けてたりすんの?」


 嬉々として訊くも、返事はない。痛みで話すどころではないのだろう。そんな浩司に、ユウヤは拍手を送った。


「でも残念! 最後の指が切れるまで四十五秒掛かりましたー!」


 ストップウォッチになっている腕時計を浩司に見せながら、ユウヤが笑い飛ばす。

 わざとゆっくりカウントしていた事に閉口する光だったが、イツキもミコトも、何なら尚巳も動じている様子はない。これが彼の通常運行なのだろう。

 とにかく、意地が悪い。


「でも、兄ちゃん頑張ったから殺したりはしねーよ! ちょっと今、人手が……っつーか、人体が欲しかったトコなんだ。イイのが手に入ってさぁ!」


 ユウヤの言う“イイの”には不安しかない。

 彼の言葉の意味を理解しようのない浩司は、血の止まらない左手を押さえて息を荒くしている。


「イツキにーちゃんは、こいつを隣の部屋へ連れて行ってくれ! 俺は洋介の兄ちゃんと少し話してから行く」


 退室するイツキと浩司を横目で見送った光の脳内には、またしても“混ぜるな危険”の文字が大きく点滅していた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ