第四十四話『光と尚巳と来客』―4
本来ならば靴箱の並んでいる場所だろう。広々とした《天神と虎》の入り口に、三人の男が立っていた。
一人はユウヤ。夜間は閉まっているシャッターが開いている事から、彼が二人を招き入れたのだろう。残り二人の内の一人を顔を見て、光はこそっとミコトの後ろに隠れた。
しかし、靡いた金髪にいち早く気付いた男は歓喜とも思える声を上げる。
「光さんじゃないか。こんな所で会えるなんて奇遇だね!」
両手を広げているその姿は、まるで“僕の胸に飛び込んでおいで”というポーズそのものだ。が……、光の表情は渋くなる一方だった。
エメラルドグリーンの瞳を持つ銀髪の男。いつもはオールバックにされているその髪だが、現在は下ろされている。
光には一瞬誰だか分からなかったが、自分の名前を呼ぶ声で確信に変わった。
(何で洋介さんがここに居るのよ……!)
ミコトの背後で悪態づく。
視線が自分に集まっているので隠れている意味がないと気付き、光は深呼吸をひとつ挟んで一歩前へ出た。動揺を悟られないよう――といっても、隠れていたことは知られているのだが……。
「ごきげんよう、洋介さん。あと、そっちは……」
洋介はにこりと笑って、隣に立っている少年を紹介し始めた。
「彼は里田浩司君。拓人の後輩みたいなものかな」
言われて、以前会議に赴いた時に何やらビクついていた金髪の、ゴールデンレトリバーを思わせる長身の少年の隣にこんな人物が座っていたのを思い出す。
「何だ。また魔女のねーちゃんの知り合いか?」
ユウヤは確認の意味を込めた視線を送ってくる。
光は小さく「まぁ、一応」と嘆息混じりに答えた。
「ねーちゃんは俺が招いたから客だ。でも、アンタらは招かれざる客……ってやつだ」
ユウヤの右手が上がりかけた時、洋介は両手を大きく広げて言った。ユウヤの手が止まる。
「僕らは《自化会》の《SS級》を一人殺して来てるんだ。残念ながら証拠はないけどね。僕らを殺すのは、話を聞いてからでもいいんじゃないかな?」
「一理あるけど、そっちに提案されるのは癪に障る」
常に相手より優位に立ちたいユウヤには、逆効果な意見だったようだ。ユウヤの右手が、また動いた。
「ユウヤ。話だけでも聞いてみたらどうかな?」
光の後ろから現れたのは、イツキだった。いつものスーツに、いつもの髪型、いつもの笑顔でユウヤに近付く。ね? と返事を促されたユウヤは、少し口を尖らせはしたが頷いた。
洋介と浩司は校長室へ通された。
テーブルとソファーがあり、洋介と浩司、ユウヤとイツキが2:2で向かい合わせでソファーへ座っている。場に居合わせた光とミコトと、ついでに尚巳もユウヤとイツキの後ろに立っていた。
「んじゃまぁ、にーちゃん達がここへ来た理由を聞こうか」
ユウヤは腕を組み、ソファーへ深く座って言った。