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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第五章『秘密』
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第四十四話『光と尚巳と来客』―1

 



 《天神と虎》では、パーティーの続きが行われていた。そこに至るまでに緊急会議が行われたのだが――、


「飲みな兄ちゃん! 福岡名物あまおうソーダだ!」

Bitte(マジかよ)! 美味だな! 旨いものが多いのは、日本の良いところだな!」


 肩を組み合って瓶のソーダを飲む、ユウヤと輝。何やらデキ上がっている二人を見るミコトの目は白んでいる。


「わたしが言うのもオカシーけどさぁ……ユウヤ君って、アンタのオジサンとオバサンを殺したんでしょ? カタキなんでしょ? 何であんなに仲良くなってるの?」


 光に問う。

 光も返答に困っていた。


お兄ちゃん(あのひと)は、死の概念が普通と違うっていうか……。アタシにも理解出来ないのだけれど、伯父さんと伯母さんに“悪い事をされた”っていう認識ではないのよ……きっと」

「何それ……サイコ?」


 半眼で呟いたミコトだが「まぁ、じゃなきゃユウヤ君とあんなに打ち解けられないかぁー……」と、普段は大きな口をすぼめて言った。


 アキトとゴロウは、他の団員たちの様子を見回りに行ったとの事だ。なんでも、食料を勝手に漁ったり、逃げ出す者が居るとかで。

 そちらに関しても、光は閉口するしかなかった。


(ミコトさんが『浮浪者みたいな人も居る』って言っていたけれど……しっかりとした組織としては成り立っていないのね)


 綻びがあるのなら、つつきやすい。

 ここを仕切っているのはマヒルではあるが、支配しているのはユウヤだ。

 マヒルは、言わば客寄せパンダ……、ジャンヌダルクとも言えるものだろう。傍目には奇跡を起こす神の子であり聖女。実際には、大した力があるわけではないが、偶然が重なって崇め、祀り上げられる存在。


 悲しいかな、多くの者は追いつめられると、自らが神と呼んだ存在を生贄として引き渡す。魔女として。


 光から見て、ユウヤはマヒルの事を本当によき姉として接している。ユウヤがマヒルを利用しているという線は薄く思えるが……。


(何かが引っ掛かるのよね……)


 “何が”かは分からない。

 先程のミコトの発言から察するに、“四天王”と呼ばれるメンバーも、ユウヤは恐怖の対象なのかもしれない。つまり、見方を変える必要がある。


(《天神と虎》は、上層部であっても家族ではなく、あくまで独裁国家の国民……ってところかしら)


 光は組織内の人間関係をざっくりまとめると、ミコトへ顔を向けた。


「ところでミコトさん。あの黒猫はどこに居るの?」

「あぁ、ナオミ君? 彼、ふらっとどっか行って、ふらっと帰って来るの。トイレじゃない?」

「そうなの……」

「アンタも猫好きなの?」


 光が、ええ、と答えると、ミコトの眼が穏やかなものになった。


「アタシ、兄の事苦手なの。少し猫に癒されてきてもいいかしら」

「じゃ、コレ手首につけてって」


 渡されたのは、黒いリストバンド。中央が赤く光っている。


「これ、GPS付きのリストバンド。遠くへ行ったら爆発するから気を付けて」


 この敷地内なら大丈夫よ。と言われたので、光はそれを着けて尚巳を探し始めた。


 小さいもののように思えるが、盗聴器も内蔵されているのだろうか……。と光が手首にあるバンドを眺めながら歩いていると、視界の端に黒い影が映った。


 黒猫と合成された、尚巳だ。


「そのリストバンド、女用だから盗聴器はついてないよ」


 きょろきょろ周りを警戒しながら、尚巳は光を屋上へ招いた。


 学校の屋上という場所は、漫画やドラマでこそよく出てくるが、実際は危険だから立ち入り禁止となっている場合が多い。光が通っている学校でもそうだ。


 光はある種の期待に胸膨らませながら、尚巳について屋上へ出た。


 目に飛び込んで来たのは、星空だった。そこから徐々に視線を降ろすと、人工的な灯りが広がっている。宝石を散りばめたかのような、色鮮やかな輝きの数々。

 廊下から見た街の夜景も綺麗だったが、開けた場所である事と、更に高い位置である事が感動を呼んだ。


 輝と空を飛んでいた時は、景色を見る余裕などなかったが、今は……、


(あぁ、どうせなら翔と見たかった)


 と呑気な事を考える余裕まである。


「満点の星空の下、黒猫と……だなんて、いかにも魔女っぽいわ」


 くすりと笑えば、黒猫はまぁるい眼を光へ向けて、首を傾げた。


「光ちゃんは、本当は何者なんだ?」

「魔女よ」


 即答するも、尚巳は納得しない。


「おれ、思うんだけど……魔女は自分の事をそんなに魔女だって言わないんじゃないかな?」


 光がきょとんとしている間に、尚巳が続ける。


「魔女であろうとしてるっていうか……そういう、使命感……? うぅん……何て言えばいいかな……」


 尚巳は違和感を抱いているようだが、上手く言語化出来ないようだ。

 光は少し考える。

 桜色をした唇が開き、綺麗な弧を描いた。


「似て非なるもの。アタシは魔女であって、少し違う。そうね、元を辿れば……アタシって、妖精の一種なの」



 

 

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