第五話『会議』―3
「皆さん、今日はお忙しいところ、集まって頂き有り難うございます」
臣弥が前に立つと、話し合いは一時中断された。
頭は下げずに手を振ると、臣弥は続ける。
「最近特に物騒になってきたので、念の為に……という事で、今回この様な形を採らせて頂きました。平素より、《P・Co》に限らず他組織とのトラブルは大なり小なり起きていますから、組織的な能力強化と上下の交流の場になればと思っています」
臣弥の口からこう言われては、文句を言っていた千晶と祝も黙るしかない。「面倒臭い」と、顔には書いてあるが。
「とはいえ、《SS級》の皆さんもまだ若く、学生さんが多いですし、無理が出るといけないのでEグループ以外の特別顧問をお呼びするために、今回彼女をお呼びしました」
臣弥が、光の方へ視線を向ける。
所々で、感嘆の息が漏れた。
「東光さん。悪魔召喚術が得意で。そこで血まみれになってる翔くんの奥さんになる方です」
それを聞いて血相を変えたのが、千晶だ。
椅子を倒してよろめき立っている。
「許嫁の話は聞いてたけど、まさか外国人だったなんて……」
「あ、光さんはお母様がドイツの方なんですよ。国籍は日本です」
だが、臣弥の言葉は千晶には薄らとしか届いていない。
臣弥が続ける。
「今回は、複数ある得意分野の中でも特に力を入れていきたいグループに分かれて貰っています。そこで、分野ごとに、様々な時代や国で活躍した方の霊体を喚んで貰おうというわけです」
ひと通り説明し終えた臣弥に、光が冷ややかな視線を送った。
「言おう言おうと思ってたけど、アタシの事イタコと勘違いしてない?」
「え、似たようなものじゃないんですか?」
「……違うわよ。まぁ良いわ」
光は、臣弥から会員の方へ視線を動かす。
「皆“視える”んなら、実体が無くても良いわよね? 相手は死者だから、輪廻の都合で喚べない事もあるけど、会いたい人物を各グループ五人ずつくらいリストアップしておいて。歴史上マイナーな人ほど、喜んで来てくれると思うわよ。今日中じゃなくても良いから、人物が決まったら嵐山さんに教えて。あと、Cグループにはアタシから推薦したいヒトがいるわ」
言うと、一歩下がる。
光が元居た場所に、黒尽くめで癖毛の少年が現れた。
瞳だけが真っ赤に輝いている。
「へーい! 儂だ! 天馬深叉冴、享年三十二歳! 光君に喚ばれて、色々手続きして悪魔的に復活したガチ悪魔だ! 因みに、今の姿は凄く気に入っている! あいらぶまいさん! 好きな食べ物は林檎! 差し入れ大歓迎だぞ☆ 妖怪魑魅魍魎も大好物だ! 刃物の扱いなら任せてくれ!」
ポーズ付きで、やたらとハイテンションに捲し立てられて、大半の者は口を半開きにして呆気にとられていた。
翔の顔からは表情が抜け落ちている。
まぁ、いつもと大差ないのだが。
そんな中、眼を輝かせている人物がひとり。
「深叉冴さんやないですかぁ! ウチに来てくれるんですか!? 鬼嬉しいわぁー!」
「はっはっは! 祝も立派になったものだ! 儂が生きていた時はまだ中学生だったというのにな!」
「深叉冴さんがおってくれるんなら、俺もやる気出ますわー! なんなら、毎日来てくれてもええんですよ!?」
先程まで文句しか言っていなかった祝の手の平の返し様に、千晶が横目で嘆息する。
(天ちゃんの許嫁は出てくるし……あたし的には、なぁーんにも面白くないのよねぇー……)
頬杖を突いて不貞腐れていると、隣にちょこんと、寿途が座ってきた。
「ぼく、お父さんに呼ばれたけど、すること無いからこっち来た。千晶の隣、いても良い?」
瞬く間に、千晶の表情が明るくなる。
背後に花畑でも見えそうな勢いだ。
「寿君可愛い! 大好き!」
根限りの力で抱きしめられる寿途。微動だにせず、それを受け止める。
「この、腕にすっぽり収まるカンジがたまんないのよねぇぇえー!」
やりたい放題の千晶に、されるがままの寿途を遠目に確認し、拓人は軽くかぶりを振った。
そのまた遠くでは、洋介がホワイトボードに人名を書き連ねているのが見えた。
殴り書きで、何が書いてあるのかまでは、拓人の位置からは確認できない。
確認できたとしても、薬学者の名前など分かりはしない。
壁に掛かっている時計を確認すると、すでに九時半が過ぎていた。
拓人は、数メートル離れた位置にいる自分の父親を一瞥すると、軽く息を吐いて同じ長机に集まっている面々に目を向けた。
「Dグループは明日の朝十時に、自分の武器持って地下訓練場に集合な。もし都合悪くなったら、さっき教えた番号に電話かショートメールくれ。それだけ覚えたら、今日は解散。早く帰って寝ようぜ」
言うが早いか、テーブルに手を突いて立ち上がる。
つられて、他のメンバーも立ち上がった。
誰に注意されるでもなく。Dグループの面々は、賑わうその場を後にした。
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