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世界の平和より自分の平和  作者: 三ツ葉きあ
第四章『味方の中の』
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第三十九話『金の人』―5

◇◆◇◆




 パーティーとユウヤは言った。

 光の認識が正しければ、それは若者の行う“宅飲みパーティー”のようなものだった。大きなテーブルの上に乗った、ジャンクフード中心のオードブル、ピラミッドのように積まれたハンバーガー、ペットボトル飲料各種、紙皿に紙コップ、そして割り箸。


 《天神と虎》のボスであるというマヒルの姿は無く、ユウヤがこの場の指揮を取っていた。


 今居る場所は、視聴覚室――と、入り口の札に書いてあった。光は、この建物が学校……おそらく、小学校だったものだろうと考える。


 ユウヤが乾杯と音頭を取ってから、十分以上経つ。

 ユウヤとイツキ以外はオーバーオールを着ている。赤いオーバーオールの、活発そうな男。黄色いオーバーオールの、ひょうきんそうな男。そして、ピンク色のオーバーオールを着ている、縦ロールのようなツインテールをしたミコト。

 赤色がアキトで、黄色がゴロウだと教わった。


「お姉ちゃん、キレーやねぇ。ガイジンさん? 年いくつなん?」

「光ちゃんて言ったっけぇ? ユウヤ君に気に入られるなんて、どんな魔法使ったんだぁ?」

「年齢は、もうすぐ十七歳。アタシが使うのは、魔法って言うよりは魔術って言うものじゃないかしら」


 ゴロウの冗談めかした言葉に対し、光は目尻の少し上がった大きな目で見返し、大真面目に答えた。

 アキトとゴロウは顔を見合せる。そんな事は気に留めず、光は視線を手元のミルクティーへ落として続ける。


「まぁ、現代人にとっては、魔法も魔術も手品と同じ扱いなのでしょうけれど。科学者の言うところの、化学変化よね。無から有は作れない」

「でも、ねーちゃんは魔女だから無から有が作れるんじゃねーの?」


 コーラを片手に、ユウヤが会話に割って入る。

 光はチラリとユウヤに視線を向け、首を小さく横へ振った。


「何事にも、元となる力は必要なの。それは声であったり決まった文字配列であったり……生命力であったり……。ユウヤ君が捩る力を使う時にも、精神力や体力を使うでしょう? ユウヤ君は人間を使って合成生物(キメラ)を造るらしいけれど、例えば、人造人間(ホムンクルス)を造るのにも材料が要る。完全な無からは、何も作れないわ」

「あー、成る程な」


 ユウヤはコーラを飲み込んで頷くと、フライドポテトを数本、口へ放り込んだ。

 光とユウヤのやり取りを、他のメンバーは何故か驚いた様子で見ている。

 アキトとゴロウは顔を見合わせ、同じタイミングで小首を傾げた。そんな二人を不思議に思ったのは光だ。


「アタシ、何かおかしい事を言ったかしら」


 アキトは「いやぁー」と頭を掻き、ゴロウは「そーじゃなくてぇ……」と苦笑いを光へ向けた。


「外から来た人でユウヤ君とまともに話が出来るんって、ごっさ珍しいんよ」

「大抵が会話になる前に周りが血の海になるっつーかぁ……」


 アキトとゴロウの反応を見て、光は自分がなかなかヤバい人物を相手にしている事に、何となく気が付いた。




◇◆◇◆




 同時刻、東京都某所。

 灰色の髪に灰色の瞳、目尻の少し上がったやや童顔の青年。《P×P》の所長である泰騎は、ぬいぐるみと共にベッドに居た。

 クマやネコや、よく分からない生物のもちもちとした、感情の感じ取れない表情をしたぬいぐるみたちを傍らに、泰騎はピンク色をしたウサギのぬいぐるみを抱いて、寝具の上で胡坐をかいている。

 Tシャツに下着のパンツのみという、間抜けな格好で。


乙葉(おとは)ちゃーん。夕飯はワシ、外で食うから要らんよー」


 『乙葉』と呼ばれたピンクのフリフリとしたエプロンを着ている女性は、玉ねぎを持って頬を膨らませた。


「えぇー? あたしぃ、泰騎の為に料理練習したんだけどぉー! 披露する絶好の機会を奪うなんてヒドすぎなぁい?」

「え、そうなん? そんなら食うて行こうかな……っと、ちょっとごめんな。電話じゃわ」


 泰騎は床に転がっているオリーブ色をした上着から、賑やかな音楽を奏でているスマホを救出すると、着信の名前を確認して目を瞬かせた。初めて連絡を寄越した相手に少しばかり口元を緩ませ、通話アイコンをタップしてスマホを耳へあてる。


「もしもし。そっちから連絡してくるとか、珍しいがん。どしたん?」


 通話相手の声は、決して明るいものではなかった。しかし、どこかに重荷を下ろしてきたような軽快さを思わせる声だった。

 それに比例するように、泰騎の声もワントーン上がる。


「ええよ、ええよー。今から行こか? っちゅーか、今どこに()るん?――あぁー、そんなら一時間くらいでそっち着けるわ。…………。いや、何かワシもその気になったけん行くって。うん。んじゃ、また後でなー」


 トン、と指で画面を押して、通話終了。

 含み笑いを浮かべている泰騎の耳に、ダンッ! という一際大きな音が届いた。包丁がまな板を叩いた音だ。


 包丁を持った女が、笑顔の後ろにどす黒いオーラを背負って振り向いた。


「さっきの電話、だぁれ?」


 明らかに怒っている。今にも包丁を調理以外の目的で使用しそうな空気を纏っている。

 だが、泰騎は眉を下げ、軽く手を合わせ、首を少し傾けて、ベッドに座ったまま上目遣いで女を見上げた。


「誰かは言えんけど、結構アプローチしとったのがやっと振り向いて貰えたんよ」


 女は笑顔を解いて、顔を歪めた。


「何それぇー。もしかして、そのコが一番好きな相手なの!? あたしの他に、今何人と付き合ってんのよぉ!」


 泰騎は構わず、自分の衣類を拾い上げて順に着ていく。


「んー、何番目に好きかは置いといて、今付き合っとんのは乙葉ちゃん入れて三人じゃで」


 女の手の中にある包丁が、泰騎目掛けて振り下ろされ――てもおかしくない泰騎の言動だが、女は何故か嬉しそうに頬を赤らめている。


「そっかぁ、この前まで五人だったけど、今は三人なんだぁ。あたし、愛されてるぅー」

「んでな、乙葉ちゃんの手料理は、また次回の楽しみにさせて貰ってええかなぁ? 来週の土曜日にまた来るわ」


 待ってるぅー! という、少々絡み付くような声に手を振り、泰騎は女の部屋を後にした。


 アパートの駐車場まで出ると、泰騎は「あーあ」と肩を竦めた。


「ありゃ駄目じゃな。ワシに本気になるんは縁の切れ目って、最初に言うたのになぁ」


 嘆息し、愛車(バイク)に跨がる。

 泰騎は、次の土曜日に会った時、女にどう別れを告げるか考えながらバイクを走らせた。





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